中国の躍進と減速&デジタル
2025.05.27
パラメトリック・ボイス ARX建築研究所 松家 克
14億人余の人口と広い大地、長い歴史を持つ中国大陸。四大発明は印刷と製紙、羅針盤、火薬。
世界遺産には万里の長城、秦始皇帝墓を守る8千点に上る兵馬俑など多々ある。2024年のGDP
は、米国に次ぎ世界2位の規模であり、因みに日本はドイツに次ぎ4位。人口3千万人超の重慶
市を筆頭に1千万を超える都市が17市あるという。杭州市は急激な人口増だが、一方、ハルビ
ン市は顕著な減少で約988万人、約750万人の香港と共に17都市に含まれていない。中国でも
東北部や厳冬エリア、併せて移動を厳しく制限していた農村部と、一人っ子政策に伴う人口減
少が見られ、30年後までに2億人の減少を想定。しかし、昨今は、近代的デザインの超高層建
築群の都市が増え、目覚ましい国土開発である。我々が使用している漢字も中国伝来。日本は、
戦後の80年間で奇跡と言われた高度成長と経済力、国力を築きあげたが中国のGDPは僅か
30年余で日本を追い越している。
ドバイの高さ828mの“ブルジュハリファ”、マレーシアの約679mの“ムルデカ118”に次ぐ、
高さ632m127階建の大規模漏水事故で知られた“上海タワー”を筆頭に世界で300mを越える
50棟の半数以上が中国にある。各都市で摩天楼が一気呵成に出来たが、2008年着工の天津市
の“高銀金融117”は、不動産バブルと経済悪化で工事がストップ。117階の世界一高い未完
成ビルといわれ廃墟になるのではと危惧されていたが、この五月に再着工となったという。地
震対策や手抜き工事、ウイグルでの課題や不安もあるが、航空母艦の製造や軍事装備近代化な
ど、宇宙・空・海・陸での軍拡も経済力に併せて顕著であり、ここ30数年間での激動的な変
化ともいえる。
普段、中国のデジタル状況に関心はないが、知らずの内に多くの中国製ソフトやアプリを利用
し、日常生活や業務に大きな影響がある。バイトダンスのTikTok、PDDが運営するTemu、
WeChat、ファッション・ゲームアプリなど。AI中国モデル “ディープシーク”をChatGPTと
は異なるアーキテクチャの生成AIをローコストで開発した。EUや米国、豪州、カナダなどは
安全保障の観点から使用を一部で禁止したが、日本政府は、注意喚起を促し利用制限を始めて
いる。そこで、話題多き中国について学習し考えてみたい。
周知と考えるが中国は、1992年に鄧小平氏が改革・開放促進への舵を執ったのが始まり。奇
跡の高度経済成長期のスタート。鄧小平氏が1978年の日本訪問時に新幹線を激賞。この年に
高速鉄道網計画が始まり、2007年4月にCRH型の運行開始。総延長では、日本を遥かに凌駕
し2位のスペインにも大きく水を空けている。インドに次ぐ人口を擁し、ビッグプロジェクト
の多くが国家事業として動いている。宇宙ステーション天宮/コアモジュラーデザインを独自
に開発し構築。現在も実験棟など複数のコアが稼働中で研究や実験を維持。南シナ海では、国
際司法裁判所が中国の主権は認められないとした人工島の軍事拠点化を図っているが、風波に
よる浸食で被害が出始めている島もあるという。経済や旅客機、ロケット、戦闘機、大陸間弾
道弾、核兵器、空母、ドローン、潜水艦、戦車、新都市などの開発や発展も著しい。ノーベル
賞8人、世界に冠たる歴史と文明、人口。日本とは社会形態や制度も異なり隣国なのにも拘ら
ず近くて遠い国とのイメージといえる。急激な発展の中で、EV車、インターネット、アリバ
バ、アリペイが急激な展開をした。コロナ以降、更に拍車が掛かかり、デジタル先進国の地位
を更に固めている。深玔市は高層建築群とデジタルを駆使したインフラを構築し、人口30万人
から1400万人に大発展した新都市であるが、ここのところ空家が増えるなど、陰りも見える
という。2万2千Kmに亘る新幹線、高速道路の展開も目覚ましい。何重ものスパイラルによる
ジャンクションなどを見ると驚かされる。シールドマシンを20年間位で世界シェア80%にし
たという。イタリアの離脱やスリランカのデフォルト、カザフスタン、ケニア、パキスタン他
など負の実態も見せ始めた歴史上で空前の最大投資額といわれる「一帯一路」計画。陸路・海
路構想の一環として構築されたパキスタンと結ぶカラコルムハイウェイや便数が凄い勢いで伸
びている弾丸貨物鉄道・高速鉄道、パイプライン、港の整備などのBIG・Projectsが、計画中
や工事中である。
“Archi Future 2017”に“MAD Works”のタイトルでMAD Architects/Senior Architectのティ
ファニー・ダーレン氏が講演され、“ArchiFuture 2018”ではICT企業のAlibaba Cloud /
Senior Directorのティエン・フォン氏が、杭州でAI導入を実践した「ET City Brain」につ
いて講演されている。
片や中国の個人情報の扱いなどで世界での不信感が募り、中国系のソフトやアプリに不安感が
出るのにも一理ある。併せ、中国政府の不透明な知的財産権やセキュリティの危うさと不利益
と判断されるとインターネットを突然に規制する。しかし、インターネットのレンレンワンや
ウェイボウ、検索サイトのバイドゥ、アリババ・グループなど枚挙に暇がないSNSサイトがあ
る。爆速的な成長が目覚ましい。只、現在、日本へのサイバー攻撃が一番多い国は中国だとい
う。発信元を隠ぺいしたオランダ経由での日本攻撃が2018年頃に多かったという。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、中国教授の日本はもう駄目ですねとの問いに、中国と
比較して日本はビジネスの倫理感、社会貢献度や教育水準も高レベルで格差も少なく、長い伝
統と安定した成長を続けて来た、100年以上継続している老舗の企業が、新しい技術を開発も
している。国民の信頼度高さは世界でトップクラスであると語ったという。
この四月、ヒト型ロボットによる世界初のハーフマラソン大会が、北京で開催された。“天工
Ultra”が、2時間40分で走り抜け優勝した。中国は産業ロボットの2024年生産量約55万6千台
で世界一。日本は2位、3位がアメリカだという。EVの次の柱としてロボット開発に注力して
いるという。
大阪・関西万博が開幕となった。賛否両論だが若者からの反対意見はあまり聞かない。寧ろベ
テラン建築家サイドからの批判意見が多い。有体にいえば建築家のエゴにも見えるが、建築は
器であり、木、鉄、石、アルミ、ステンレス、繊維など、あらゆる材料で成り立ち、建築デザ
インや空間も現代文化の発信元ともなるが156国や地域のイベントや展示の内容が主役。空
間や器に盛ったコンテンツを楽しみ、刺激を次の世代に継承するのが本来の目的で今の世界の
現代を巡る旅ともいえる。この関西万国博で、中国はアートとテクノロジーを強く打ち出し、
水墨画とプロジェクッションマッピングなどの映像やUBTECH社の二足歩行ロボット“Walker”
とも交流が出来る。
エッフェル塔は、1889年パリ万博開催時に建築されたが、当時の芸術家や建築関係者の猛反
対にあった。今回は、マスメディアが中心となって重箱の隅を突くようなマイナー的な対応が
反対を助長。開催前の前向き報道は皆無に近く、開催後は少し流れが変化している。日本国際
博覧会協会の情報開示方法も現在に合っていない。併せ、スマホでの入場や展示内容の説明設
定などでのカッタルサも垣間見えた。万博ウォッチャーによると多くの興味深いパビリオンが
あり、落合陽一氏プロデュース、豊田啓介氏が率いるnoizが担当のパビリオンは、不思議で最
難解であり、かつ、魅力的だという。
今夜は、「大阪・関西万博から建築の役割を考える」がテーマでシリーズ第2回目のシンポ
ジューム。ファシリテーター藤村龍至氏と永山祐子氏など4人の方の議論を聴きながら最終原
稿を纏めている。活躍中や若い人中心の議論であるが、其々の立ち位置での吐露があり、興味
が尽きない時間であった。前向きに新しいチャンスと捉えるウーマンズ パビリオンとノモの
国を担当した永山さんの発言に共鳴したが、若い建築家が中心の万博であり、始まったばかり
だが今後、どの様に発酵して行くのか楽しみでもある。昨年のArchi Future 2024では、若き
建築家達の万博建築の発表があった。
最後に、シンガポール初代首相リ・クアンユー氏が、中国、インド、日本の展開を記した見識
と日本の芸術・美術大学で中国人留学生が増えたことを興味深く感じている。この変化の中で
東京大学は、2027年秋に学士と修士で5年制の社会変革の道筋を構想する「カレッジ・オブ・
デザイン」を70年ぶりに創設し、芸大との連携も図るという。武蔵野美大は東京科学大学と
10年前くらいから連携を図ってきた。これら多様で多岐な教育で選択肢を多くし、互いの国や
国民をリスペクト出来る社会を願っている。コンクラーベで新ローマ教皇が決まった。教徒数
は中国の人口とほぼ同じ13~14億人だという。デジタル関連では、ビル・ゲイツ氏が、途上
国の支援に全財産の寄付を表明。基金と合わせて約30兆円だという。日本では、JR東が京王
電鉄に続き、電車の落し物をAIでの検索を開始。新聞紙面のQRコード情報も多くなり、首
相は、量子戦略を強化し今年を量子化産業元年とすると語った。サイバー法案、スマホ新法も
動いている。