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ユーザー事例紹介

データとBIMで空間設計を再定義する
~InfillBIMが拓くオフィス設計の未来
<WorkPath>

2026.04.28

オフィス設計の現場では、大きな投資が動くにもかかわらず、データにもとづかない感覚的な
意思決定が常態化している。
この課題に着目し、Autodesk RevitによるBIMデータをデータベースとして活用する「InfillBIM™」を軸に事業を展開するのが、株式会社WorkPath(ワークパス)だ。
内装領域に特化したBIM活用で、経営指標の可視化からエンドユーザー仮想体験の向上まで、
データドリブンな空間ソリューションを提供している。
代表の広瀬 郁氏とCOOの野口 努氏にオフィス設計に注目してBIM活用に至った背景や狙い
今後の展開について、詳しく話を聞いた。

オフィス設計におけるデータ不在への危機感から
広瀬氏がWorkPathの創業を決意したきっかけは、約10年前に遡る。建築のコンサルタントと
してヤフー本社の移転プロジェクトに関わった際、「過剰なセキュリティを排除し、多様な
人々が出入りできる空間をつくる」という企画が採用され、役員フロア全体の設計を監修する
ことになった。
しかし、広瀬氏が初めてのオフィス設計で目の当たりにしたのは、業界の非合理性であった。
当時はまだABW(Activity Based Working)の概念も普及しておらず、海外の什器メーカー
が提唱するデザインを模倣するかたちで、明確な根拠なくフリーアドレスやフリースペースが
オフィスにつくられていた。「最先端企業であるヤフーでさえ、多額の費用が動くにもかかわ
らず、データにもとづかずに設計要件が感覚的に決定されるプロセスに衝撃を受けました」と
広瀬氏は振り返る。

        株式会社WorkPath CEO 広瀬 郁 氏

        株式会社WorkPath CEO 広瀬 郁 氏


        株式会社WorkPath COO 野口 努 氏

        株式会社WorkPath COO 野口 努 氏


さらに、テナントに課される「原状回復義務」や「A・B・C工事区分」といった日本のオフィ
ス業界特有の慣習も、クライアントにとってブラックボックス化していた。新築ビルのメイン
テナントとして入居するにも関わらず、いったん安価なタイルカーペットが施工された後、剥
がして保管するよう求められる。そうした実態を広瀬氏はヤフー役員らと改めて共有した。
続いて関わった別企業の役員フロア刷新プロジェクトでは、この課題をデータで可視化した。
秘書室からは「会議室が足りない」という要望が上がっていたが、実際にセンサーを設置して
稼働率を測定すると、1時間の予約に対して実際は二人で15分しか利用していないという非効
率な利用実態が判明した「15分程度が多いのであればと個室でなくとも少し隠れてサッと
話せるスペースを提案し、意思決定の効率化やコミュニケーション活性化という目的を達成で
きました」と広瀬氏は説明する。
これらの経験から、オフィス計画において、いかにデータにもとづかない感覚的な意思決定が
なされているかという事実を痛感そこでデータドリブンな空間設計事業や支援を行うため
広瀬氏は2020年9月にWorkPathを創業した。

インフィルのBIMで経営指標からエンドユーザー体験まで行う
WorkPathが提唱する「InfillBIM」は、BIMを建築全体の設計ツールとしてだけでなく、デー
タ活用のためのデータベースとして捉え、特に建物の内装(インフィル)領域に特化して活用
する。
COOの野口 努氏はその意義を次のように説明する。「建築の躯体や設備ではなくユーザー
が直接触れる内装に特化することで空間情報と部門や管理コストなどの情報を合わせた
経営判断に直結するデータを効率的に可視化できます」。

 WorkPathのソリューション

 WorkPathのソリューション


事業は大きく3つの柱で構成される。第1が「データ分析サービス」。既存建物のオフィス内部
情報をBIMモデル化し、財務データや人事データを掛け合わせることで「一人当たりコスト」
「一人当たり面積」といった経営指標を算出。従来は比較が難しかった異種部門間でも横断的
な比較分析が可能となり、客観的なデータにもとづいたファシリティ戦略の立案を支援する。
あるクライアントの取り組みでは全国何十棟ものビルをBIM化し各ビルの所有形態面積
コスト、人員配置といった情報を一元管理するダッシュボードを構築。例えば「家賃を払って
いる賃借ビルがあまり利用されていないため、自社保有ビルに機能を集約できないか」といっ
た経営判断をデータにもとづいたシミュレーションを通じて迅速に行うことが可能になった

 データ分析サービス

 データ分析サービス


第2の柱は「設計支援サービス」。初期段階からAutodesk Revitで作成した3Dの鳥瞰パースを
用いて顧客とイメージを共有し、イメージの齟齬から生じる手戻りを防ぐ。「レイアウトの検
討と並行して、BIMモデルが持つ席数や収納量などの数量データをリアルタイムで提示するこ
とで、具体的なデザインと定量的な要件の両側面を直感的に握り合いながら合意形成を図るこ
とができます。体感では、コミュニケーションコストが半分から3分の1に圧縮されています」
と野口氏はいう。
このサービスは、自身が内装設計者となる場合もあれば、ほかの設計会社やPM会社の支援と
して行う場合もあるという。

 3D内装デザイン

 3D内装デザイン


第3の柱が「BIM導入・運用支援サービス」。主に内装設計事務所などを対象にBIMの導入か
ら実務での運用までを伴走支援する。独自に開発した軽量なBIMオブジェクト(ファミリ)の
提供や、導入初期の負荷が高いモデリング作業を代行するBPO(ビジネス・プロセス・アウト
ソーシング)サービスも展開している。
オフィスのエンドユーザー向けには、BIMモデルから生成した360度パノラマ画像をWeb上に
ウォークスルー形式で構築した「Work Place Journey」も開発。従来の分厚い紙のマニュア
ルに代わり、バーチャルでオフィス内を歩き回れるデジタルオフィス案内として、新オフィス
の社内での浸透を効果的に支援している。

 WorkPlace Journey

 WorkPlace Journey


業務変革ツールまた世界共通言語としてのBIM
WorkPathは単なるツールやサービスの提供に留まらず、その活動を通じて建築・内装業界全
体の構造的な変革を促すことを大きなビジョンとして掲げている「意思決定や営業活動など
上流のプロセス改革に活用できるのもBIMのポテンシャルです」と広瀬氏は強調する。
WorkPathはAutodeskのサービスプロバイダーとして登録し、同社との連携も深めている。
「BIMが分析、意思決定、運用管理など多様な価値を生む業務変革ツールであることを示し、
BIMプレイヤーの裾野を広げていきたい」と野口氏は語る。特に、関係者が限定的で意思決定
の外部要因が少ないインフィル領域は、短期間で多くのプロジェクトを企画からフィードバッ
クまで回すことができ、新しい働き方のプロセスを試す実験場として最適だという。

 WorkPathのビジョン

 WorkPathのビジョン


またWorkPathは今年3月、ベトナムに開発拠点を設立した。ベトナムでは大学や専門学校で
BIM教育が標準的に行われており、優秀な人材が豊富に存在する。「コスト削減が主目的では
なく、日本国内の優秀なコアメンバーとベトナムの豊富なメンバーを組み合わせることで
事業の拡大に柔軟に対応できるチーム体制を構築しています」と広瀬氏は語る。データ所有権
と共有ルールの構築も、重要なテーマとみる。欧米ではデータがクライアントの資産であると
いう認識が強い一方、日本では設計者の著作物という意識が根強く、データが有効活用されて
いないケースが少なくない。「一定のルールのもとデータをオープンに共有することで業界全
体の利益につながる、日本独自のデータシェア文化を構築できないかと考えています」と
広瀬氏はいう。
そして、今年の初夏に広瀬氏と野口氏は、デジタルツインとBIMをテーマにした書籍の出版を
予定している。企業の総務担当者や建築を学ぶ学生といった幅広い層を対象とした入門書とし
て、業界の第一線で活躍する企業へのインタビューも交えながら、デジタル化がもたらす未来
を解説する。「2030年に向けて東京の都市開発が一つの節目を迎え、人口減や建設コスト高
騰も進むなか、今後は新築だけでなく既存ストックの価値向上がより重要になります。デジタ
ルツインを軸とした新しい空間づくりのエコシステムを、業界内のさまざまなプレイヤーと連
携しながら構築していきたい」と広瀬氏は展望を語る。
データとBIMを柔軟に駆使し、空間の「つくり手」と「使い手」の関係性を再定義する。
WorkPathの挑戦は、建築・インテリア業界全体の構造的な変革を促す試みとして、今後ます
ます注目を集めていくだろう。

「Autodesk Revit」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。