GPUレンダリングが加速する建築デザインの
圧倒的クオリティ<隈研吾建築都市設計事務所>
2018.09.10
新国立競技場や田町駅と品川駅の間に建設中の山手線の新駅をはじめ、国内外でさまざまな規
模と用途のプロジェクトが進行している、隈研吾建築都市設計事務所。
豊かな素材使いや繊細な部材を多用しながら斬新な表現を求める同事務所では、以前からCG
を駆使し精緻なイメージパースの制作に積極的に取り組んできたが、今年に入って新たに、
NVIDIA QuadroのハイエンドGPUを導入。
アプリケーション「V-Ray NEXT」との組み合わせでさらに加速したレンダリングで、デザイ
ンプロセスの効率化がどのように実現しているのかを同事務所の松長知宏氏と望月陽平氏に
伺った。
驚くほどの高速化を実現するQuadro GPUの実際
隈研吾建築都市設計事務所(以下、KKAA)は現在、東京事務所をはじめパリ事務所や北京事
務所などで約200名もの所員を擁し、正確に数えるのが容易でないほどの案件を抱え、常時
100以上のプロジェクトが進行しているという。その東京事務所には現在、「CGチーム」とし
て8名が常駐している。BIMチームのチームリーダーも務める松長知宏氏は、入社当時からレン
ダリング業務に関係するハードウェアの管理なども担当している。
隈研吾建築都市設計事務所
設計室長 松長 知宏氏
CGチームの主な業務は、進行するプロジェクトのデザイン検証のサポートやコンペ案件のプレ
ゼンテーションで、イメージパースを作成することである。松長氏は「CGの制作は一般的には
分業が多いのですが、KKAAでは1人が1つのプロジェクトに付きっきりの体制をとるのが特徴
です。3DCAD上でモデルを動かしながら構図を決めるところから始まり、レタッチソフトで
の加工による仕上げまで担当するので、非常にやりがいを感じます」と語る。ハイライトとな
るのは、コンペ案件でのイメージパースの作成だ。「国際的なコンペでは建築のデザインはも
ちろんレンダリングされたイメージにも作家性が求められます。競合相手になることも多いで
すが、特にヨーロッパのCG事務所が作るパースには絵心のある独特の雰囲気があり、とても
刺激になります」と松長氏。
KKAAが今年の4月から導入したのが、NVIDIAのハイエンドGPU「Quadro P5000」とレンダ
リングアプリケーション「V-Ray NEXT」である。KKAAはだいぶ以前からV-Rayを使用して
いて、松長氏は3ds MaxにV-Rayの組み合わせを入社時から扱って更新してきたといい、
「V-Rayが今回のメジャーバージョンアップでGPUレンダリングに強くなると聞いていたので、
楽しみにしていました」という。
NVIDIAハイエンドGPU「Quadro P5000」
同じくCGチームの望月陽平氏と共に、これまでの環境の結果との比較を行った。望月氏は
「GPUだけの違いとは言えませんが、レンダリングに要する時間は少なくとも1/3以下になっ
ています。解像度が6000×4000ピクセルの重いデータについてレンダリングをかけると、こ
れまでのマシンのCPUで1時間半ほど掛かっていたものが、20分ほどになりました。10年ほど
前のプロジェクトのデータで比較すると、丸1日かかっていたものが10分で終わります」と語
る。「驚くほど速い結果です。作業時にビューポイントでスピーディーに確認できるGPUは
ゲーム系のエンジンで主に使われていましたが、建築の表現で求められるレベルを出すのは難
しいと感じていました。それが新たに何かを覚えることなく、使い慣れているレンダラーの
V-Rayで、いままで使っていたソフトと同じような設定で、GPUを使ってこの速さを出せるの
は大きいですね」とメリットを挙げる。
隈研吾建築都市設計事務所
望月 陽平氏
隈研吾氏の要望に応えるために必要な高速レンダリング&緻密性
レンダリング画像の一例として、望月氏は2019年末にオープン予定の「Ace Hotel Kyoto」
で実際にファサードの検証に使用した外装のバリエーションを見せてくれた。「デザインの方
向性を決める段階で、隈から“外壁に瓦やメッシュを使ってみたい”という提案がありました。
いずれの材料も表情が細かく、レンダリングで時間がかかるものですが、隈からの要望に対し
ていかに早く応えるかが重要なのです。同じクオリティのレンダリング画像を出す時間が圧縮
され、最初はレンダリングのスピードに感動しました」と振り返る。松長氏も「細かいルー
バーなどの部分がつぶれて表現しきれないと、それだけ隈や設計担当者の判断は遅れてしまい
ます。高解像度で速く出力し、詳細を克明に表現できればレンダリングの情報量は格段に増え、
設計のスピードも早くなっていくのです」と語る。
V-Ray NEXTによるファサードの検証①
V-Ray NEXTによるファサードの検証②
V-Ray NEXTによるファサードの検証③
V-Ray NEXTによるファサードの検証④
今回KKAAは、V-Ray NEXTに新たに搭載されたAIデノイジングを試用。「建築パースでは素材
や光の様子が重要ですが、これまではプロダクション用品質のレンダリングをかけないと、な
かなか細かな表現までは確認できませんでした。AIデノイジングではプログレッシブモードの
ざらざらした絵も、あっというまにノイズの少ない絵にしてくれます。カメラの向きやライティ
ングを変えても、やはり素材や光を表現した画が瞬間的に出てくることに驚きました」と松長
氏はいう。これは、学習済みの結果がソフトに組み込まれていることで実現できたスピードで
ある。「建築パースでは、建築が動かないぶん、光をいかにうまく表現するかが大切です。
例えば、木漏れ日がほしいというとき、以前はレンダリングした画像をさらにPhotoshopで
レタッチしていました。ただ、やはりレタッチした部分は見ると違和感が生じてしまいますか
ら、せっかくならレンダリングで出したい。どのように影を落とすかが早めにAIデノイジング
を使ってプレビューできると、光源や木を動かしながら検討できていいですね」と松長氏。
ファサードの最終決定案
ファサードの最終決定案を俯瞰した街並みの写真にはめ込んだCG
3ds Maxの作業画面
チャレンジする意欲を掻き立てるQuadro GPU+V-Ray NEXT
今回のGPU対応でのハード面の効果について、松長氏は次のように語る。「CPUの発展につい
ては、頭打ち感がありました。KKAAに入社して最初に購入したマシンのCPUはいまでも使え、
大幅には変わっていないように思います。それがGPUでは5年前と比べ10〜15倍となっていて、
ソフトを組み合わせることで効果はそれ以上の体感があります。CPUレンダリングに頼ろうと
すると、PCごと台数を増やさなければいけませんが、コスト面がネックです。近年のGPUの性
能向上の度合いを考えると、GPUをアップグレードして活用しない手はないでしょう」。
ただし、計算結果の詳細はCPUとGPUで、同じシーンで並べて比べるとわずかに違いを感じる
という。「このあたりは、GPUのクセに慣れていけばいのかもしれません」と松長氏は語るが、
望月氏は「リアルタイムで同じように表現できるようになればいいですね」と期待を寄せる。
すると松長氏も「コースティクスといって、レンダラー憧れの水のきらめきのような表現があ
るのですが、そういった表現、例えば透明な水盤の下から水を通して建物が見えるようなパー
スも、レタッチ頼みではなくレンダリングで早く正確に表現出るといいと思っています」と
ハードルを上げた。
CGチームのオフィス風景
KKAAでは、プレゼンテーション時だけでなく、デザイン検討時にもVRを取り入れ始めている。
「情報量の多いVRを誰もが簡単に作れるような環境が理想です。この点で、V-Ray NEXTのレ
ンダリング性能に期待しています。VR用の画像は横のサイズが9,000から18,000ピクセル以
上と大きくなり、単純にレンダリング時間もかかりますから、時間の圧縮はとても助かります。
また、クオリティでは妥協せざるを得なかったウォークスルーなどのムービーについても、期
待が持てます」と松長氏はいう。
NVIDIAウルトラハイエンドGPU「Quadro GV100」
松長氏は「Quadro GPU+V-Ray NEXTの導入により、設計全体を通したクオリティが向上し
ているのは、間違いありません」と語る。
KKAAでは、さらに次世代のウルトラハイエンドGPUである「Quadro GV100」も現在試用し
ている。「細かな数値上の比較など詳細な比較はまだできていませんが、少し回しただけでも
桁違いの圧倒的な速さを感じます。テクノロジーの進化によって可能性が広がると、やりたい
ことがどんどん増えていきますね」と松長氏は興奮気味に語る。Quadro GPU+V-Ray NEXT
のフル活用で、KKAAのクリエイティブは今後ますます加速することを予期せざるをえない。
「Quadro GPU+V-Ray NEXT」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。