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コラム

BIMの多様性と結節点

2022.06.02

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

分からないものに恐怖を感じ、異質なものを互いに排除し合う構造は、個人の問題というより
も人間としての本質なのかもしれません。情報は、様々なソースから取得できるようになり、
自分の経験以外の情報もまるで自分が経験したかのような臨場感で得られるようになりました。
客観性を持たせたデータすらもデータの解釈の与え方次第で、全く逆の印象やムーブメントへ
導くことができます。ジェネレーティブな生成手法に慣れた私たちは、大量の判断材料のデー
タさえも、ランダムシードや変数の範囲の大きさで数千、数万など簡単に用意できるというこ
とを知っています。結論に向けて意図的にデータを用意できることを知っています。
 
コンピュテーショナルデザインに関わっている際に、説得材料の大量のデータを作ることに対
してある種の抵抗を感じるのは、人の判断やひらめき、アイディアが数千数万といった自動生
成された同じ意図、デザイン枠内のパターンの中で選ぶより価値があることを、設計者に寄り
添いながら仕事をすることで学んでしまったからかもしれません。
 
また、コンピュータを用いて計算可能なフローを作る、ツールを作ることを仕事にしながら、
いかに建設関連の業務が複雑かというのを毎日考えているうちに、データの公平性を考えるこ
とが増えました。AIは補助にはなりうると思いますが、時代と共に変わる価値観、いや価値観
をより平等で公平な社会をつくるためにデータを論理的にも正しく扱う必要があります。計算
結果としては正しいデータをどのような目的で正しく使うかを人は倫理的に判断するという場
面が出てきます。恣意性という言葉がまるで悪いことのように時々設計の現場で語られること
がありますが、データを作ることで恣意性をなくすことはできず、恣意性がないと勘違いして
データを扱うことの方がよほど怖いと感じることがあります。
 
ところで、正義で戦うとどちらかが倒れるまで戦うことになるとニュースで、とある評論家が
話していました。価値観が違うもの同士の共存方法とは、同じ場所に無理やり一緒にすること
ではない、多様性とは異なる人たちを混ぜるのではなく、それぞれに居場所と権利を平等に与
えながら、結節点を作るということなのだろうと想像します。程よい距離感と接触があれば、
お互いの良いところを引き出せるのかもしれません。
 
デジタル技術を持つデータを扱うのが上手な人たちと長年の業界技術を持つ人たちの間でコラ
ボレーションのためには、共通の言語や、認知をつくり、同じ方向に向けて、お互いの領域や
役割を与えた上で程よい距離を保ちながら、結節点を持つことで、対立構造ではなく、尊重し
合う構造が生まれるのかもしれません。
 
そんなことを考えていると、BIMの定義や担う人物像を主張し合うことが今本当に必要なので
しょうか。多数決で何かが決まる構造を作ってしまうと、ランダムシードで多数の同じ枠組み
の設計案を作っているのと同様に、無数に同じ系統の人たちを作り出せるシステムを作った人
たちが勝つことになります。
 
簡単には変わらないことを前提にして、それぞれの意見を言える環境を整えて、建設的な意見
交換するためにどの立場の人たちも基礎教養を学び、相手の言語、もしくは共有言語を作り、
次の世代にその問題を引き継ぎさせないための努力が、せめて私たちができることではないか
と考えます。そして最も重要なことは、対立の中で生まれた誰かの失言や失敗を指摘する時間
よりも、不満を感じるなら対等に働けるためのアプローチや戦略を考えることに時間を費やす
方が良く、どうしたら場所を理不尽に奪われずに、自分たちの場所を確保し仕事をできるのか、
そこが一番重要だと考えています。多様性は、価値観の違う人たちを無操作に混ぜるのではな
く、それぞれの価値観を壊さずに済むように距離感を保ちながら、結節点を持つことだと思い
ます。「Computational BIM with Dynamo + Revit」や「Parametric Design with Grasshopper」という本たちには、技術書ではありますが、そんな願いを込めて多くの人たち
に今読んでもらいたいと思っています。

 Dynamo読書会の様子

 Dynamo読書会の様子

石津 優子 氏

GEL 代表取締役