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コラム

ビジネスの視点から環境DXを考える

2022.06.14

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治
 
今の流れ
激しい気候変動が気になるこの頃は、「環境」を中心に社会が動いていることを実感する。当
社での設計業務においてもClimate Techと呼ばれる気候変動対応技術の初期投資案件に関わる
機会が増えてきた。世界的にも、気候変動問題に取り組むスタートアップへの2021年投資は、
2020年比で約200%以上増えている(PwC State of Climate Tech 2021より)。また、休日
には混雑する都心部より自然の風の中で過ごすことが多くなり、仕事でもプライベートでも、
その変化の大きさを感じる。一方で環境負荷低減へのアプローチは一義的なもので解決できる
ものではなく、電力をはじめとするインフラエネルギーの改善に依存していることも多くの人
が理解してきている。これらの問題は確実に解かなければならないのだが、解くためには複雑
な数値を検証しながら、最適なバランスで組み立てる必要がある。そのためには「ネットワー
ク化したデータ活用」と「可視化」がポイントになる。今回の話題である新たなビジネスを考
える上でもこれらが重要なファクターになってきている。

新たな視点
建築や都市を考えるとき通常はクライアントの与条件からフィジカルな空間を組み立てるが、
完成後の目標設定や活動・運営をイメージすると実に面白い広がりが見えてくる。もちろん、
詳細にすべてが見えてくるわけではなく、実際に使ってみると、多くの想定外のことが出てく
る。しかしながら、これも吸収できるフレキシブルさが建築やまちづくりが設計のモチベー
ションになるのだと思う。
さて、将来の運用を含めた「デジタルツイン」は、これまでよりも多くの視点からアクティビ
ティの検討が必要になる。動線、セキュリティ、温湿度、自然の風の流れ、採光、そして人が
感じる快適さである。通常の空間を対象としたエネルギー低減に加え、人の感性を加えた「運
用」でZEBをめざす。実はこの構成は、デジタルツインによる脱炭素も含む「環境ビジネス」
につながる新たな視点だと思っている。

新たな環境DXへのアプローチ
とは言いつつ、運用ZEBを目指すうえで、人の感性評価が最も難しい。いくつかの研究を踏ま
えて明確な指標を設定する必要がある。
まず建築やまちのモデル〈ネットワーク化したデータ〉をつくり、そのうえで、
・センサリング技術  ̄ ̄ ̄|
・エネルギー制御技術   |― BuildCAN〈可視化としての機能〉
・統合するDX技術      |
・上記の評価        _____|
が整えば、ある一定の環境サービスが提供できるようになる。加えて「運用」のところはカー
ボン低減の数値で充当させZEBをめざす。元々指標が異なるZEBと脱炭素を同時に考え解決す
る複合的思考や統合検証するネットワーク技術も必要であるし、これらの実践こそが「環境
ビジネス」につながる一つの道だと考える。

新ビジネスへのアプローチ
今回の話題は環境ビジネスへのアプローチであったが、社会と個人の間のギャップを解消する
ことが問題解決となり、また、そこに多くのビジネスチャンスが開けていることを感じる。私
たちの周りにはまだまだ解かなければならない課題が山積している。それらは既存技術や既定
概念では解けない事柄が多くなってきている。視点を変え、新しい思考でプロセスを構築する
ことが、この先の実現可能な設計の土台づくりにもつながるように思う。また、数多くの分野
で個々の機知に富んだチャレンジ思考を展開し、効率的な相互問題解決につながるような情報
が共有できれば、ますます多くのビジネスチャンスが得られる環境にもある。これからのより
広がりのあるフィールドづくりと激しい展開に期待したいものである。

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員