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コラム

建築BIMの時代18 BIMマネージャー再考

2022.08.04

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司
 
筆者が理事をつとめるbuildingSMART Japanから「The BIM Manager」が発行された。
「BIMプロジェクト管理のための実践ガイド」というサブタイトルが示す通り、建設プロジェ
クトにおけるBIM活用を実践するために必要な考え方、現時点での最新の情報や手法とともに
識者のコラムや活用事例が掲載されている。BIMマネージャーはもちろんのこと、BIMの利用
が求められている設計者、技術者、施設管理者、BIM活用のレベルを上げるための方策を策定
する管理職、BIMを経営の中で位置づけることが期待されている経営層などBIMに少しでも関
わる人にとて有益な書籍と言える設計や施工など建築をつくることに関わる人だけでなく
建築に投資する人建築を運用する人建築を管理する人、建築でサービスを提供する人など
建築を使うことに関わる人々にもご一読いただきたい。
 
この本は、Mensch und Maschine社という「建設、インフラ、GIS、機械分野を扱うテクノ
ロジー企業」が行っているBIMサービスの考え方が基になっている。論理的でシステマチック
な考え方、プロジェクトの進め方はいかにもドイツ的だと感じた。事例はドイツ語圏の企業が
関与するもので、ドイツ語圏の建築生産システムの下でのBIM活用なので、そのまま参考にで
きないかもしれない。しかし本書で説明されているBIMの基本的な考え方や技術は、国際標準
に沿ったものであり、非常に有意義で参考になる。また建設産業の生産性向上は世界的な課題
であり、他産業に比べて建設産業生産性が向上しない主要因として本書が挙げている「1.業
界の細分化 2.効率の悪い手作業と旧式な工程 3.技術面の抵抗」は、そのままわが国に
もあてはまる。BIMを核としたデジタル化がそれらの課題を解決し、建設産業の生産性を向上
させると述べられている。デジタル化による社会の変革が喧伝されているが、BIMがその一端
を担っているといえる。そのことをあらためて認識させてくれる一冊である。
 
この本を読んで、BIMマネージャーは極めて重要な仕事であることを再認識した。BIMマネー
ジャーの役割は建設プロジェクトでのBIM利用を滞りなく進めることであると私は考えてい
た。発注者、設計者、施工者、専門工事業者、運用管理者等のBIMに関する役割を調整し、
BIMモデルの作成、更新、引渡し等の計画を立て、それが計画通り実施されているかを管理す
ることがBIMマネージャーの主な役割だと思っていた。しかし、共通データ環境(CDE)による
情報共有、モデルとそれに関連したメッセージの共有も担当するということは、BIMモデルそ
のものだけではなく、プロジェクト全体の情報の中心に立つことを意味する。それは、BIMマ
ネージャーが単にBIMだけではなく、プロジェクトのマネジメントを担うことになる蓋然性が
高いと言える。BIMマネージャーがプロジェクトマネージャーと肩を並べること、成り代わる
ことを想像すると心が躍る。
 
BIMが建設産業、社会のデジタル化の一翼を担うということは、BIMマネージャーの働きが建
設産業の生産性向上や社会のデジタル化の進展に直結するといえるBIMマネージャーが重責
を担うことになる。BIMが建築に関わる一つの技術から、産業や社会に大きな影響を与える技
術、仕組みだと認識されるようになったということであるその実現の中心的な役割を担うの
が、BIMマネージャーということである。まさに重責である。

     The BIM Manager 表紙

     The BIM Manager 表紙

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長