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コラム

自分でつくりたいを引き出すワークショップ

2023.03.14

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

先日、千葉工業大学デザイン科学科の稲坂晃義先生からお誘いを受けて、春休みの学生に向け
ワークショップ(クリックするとYouTubeへリンクします)を5日間で開催しました。
内容は、自動ダンジョンジェネレーターを用いて、空間ユニットから自動で一筆書きのウォー
クスルーをつくります。その空間をチームごとにテーマを決めて、システムをつくるという内
容です。1人1つは空間をつくり、それをチームで繋げて物語をつくります。
 
対象者は、デジタルデザインを目指している方に向けているというよりも、これからやりたい
ことを探す学生も含めて、大学1年生から3年生まで集まりました。マウスを持っていない人
たちが半分くらい参加している状況で、まだ普段の創作活動で3Dをつくることがあまりな
かった方々でした。
 
Unityというゲームエンジンを使って、コンピュテーショナルデザインを教えるという内容で
す。参加者でスキルの差があってもそれぞれ楽しめるテーマにしようと考えて、半年以上案だ
しを仕事の合間に行っていました。最初はCADソフトであるRhinoやそのビジュアルプログラ
ミングのGHを教えてほしいという要望でしたが、Unityで何かワークショップをしたいと提案
させていただきました。その理由としては、まず3Dモデリングやコンピュテーショナルデザ
インを習いたいというモチベーションをUnityで引き出せないかと考えていたからです。
Rhino講習とUnity講習があり、2つのソフトウェアとも初めての人で内容的にはついていくの
が大変だったが、楽しく参加できたので最後までたどり着けましたという感想を多くいただき
ました。
 
最初はコンピュテーショナルデザインを教えるということでプログラミングの授業で動きを中
心にハンズオンを行おうと思いましたが、集まった参加者をみると1年生が多く、プログラミ
ングよりもパソコンで何かをつくるという楽しさを伝えたいと思いました。そして、グループ
ワークとして課題を与えることで、どんな職業についても必ず役に立つ、コミュニケーション
能力やリーダーシップを培うためのチームワークということを考えながら、チームで1つのも
のをつくり、苦手でも得意な人がフォローアップできるような環境をつくりたいと考えました。
複数人で1つのデジタルコンテンツをつくることで、データの管理やGitなどチームワークで業
務を楽にする技術にも興味を持てるように、良い意味で苦労してほしいと内容を設定しました。
 
なぜそのように考えたかというと、子育てでの失敗がきっかけでした。娘が5歳になったので、
初めてのアクティビティへ挑戦する機会が増えました。ついつい、教えるのに慣れていない私
は、アクティビティの「こうするんだよ、ああするんだよ」という指示をしてしまい、泣かれ
てしまいました。スキーを教えるにしても、かずを教えるにしても、英語を教えるにしても、
いろいろな記事や参考になりそうなYouTube動画がいうのは同じことでした。「まずは楽し
い」と思わせることが大事、一緒に遊んであげる中で答えを見せてもいいから楽しいという感
覚を知ることが大事だと習いました。どうするか教えるのは、楽しいって興味を持ってもらっ
た後でいいんだという話です。
 
DXやBIM、デジタルデザインというと目的や手段という言葉が並びます。目的をかなえるため
の手段であり、手段から入ってはいけないという話が繰り返し聞かされています。
その通りだと思うのですが、まずは一緒に遊ぶこと、楽しいと思ってくれることが第一歩なの
かもしれません。もっと肩の力を抜いて目的を小さく設定してみるのが「はじめて」デジタル
へ触れる人たちには必要だと思います。単純に動かしたい、色を変えたい、こんな形をつくり
たい、もっと簡単にデータのやり取りをしたい、このような小さな欲求から技術を学びます。
これからの時代はBIMで、デジタルで!効率化!とデジタルに触れたことがない人に伝えても
捉えどころがない、難しすぎる目的になってしまいます。
最初は、難しすぎると嘆いていた学生たちも実際に自分のものが動いたり、チームメイトが
作った空間と繋がって自分の空間をみると、最初は初めてだから簡単な四角でいいですという
態度だったのが、自分から無料アセットを使い、マテリアルを変えたり、様々な空間の仕掛け
を作り始めました。できない場合は、TAに代わりにモデルを作ってもらってもいいから自分
のアイディアを形にするようにというアドバイスをすると、いろいろとアイディアがあふれて
きました。また目の前で自分がまだできないことを実装する姿の上級生や先生の姿をみて、
「すごい、自分でやりたい!」と代わりにやってもらったら早いけれど自分でできるようにな
りたいという前向きな姿勢に変化していくのがわかりました。
 
Unityのウォークスルーを通して、ジオメトリとプロパティ、機能というBIMに必要な感覚が
培われました。データのやり取りも行うことで、チームで1つのモデルへ統合しようとすると
どういう問題が起きるのかという問題も経験したチームもありました。また自分のPCスペッ
クも隣のチームメイトのPCの処理速度の違いなどを肌で感じ、グラボやCPUとは高性能なPC
という概念についても経験しました。このように、自然とGitやバックアップシステムなどに
興味を持ち、PCのスペックやマウスの必要性など自分の経験とリンクしていきます。
 
BIMやDXがわからないというのは、デジタルで遊びを経験する前に仕事へいきなりジャンプ
してしまったからなのかもしれません。自分の経験として、パソコンを用いたチームワークに
よる創造体験という楽しさから始まるBIMもあっていいのかもしれません。
5日間で何かの技術を習得することはできませんが、感覚を養うことや興味を広げることはで
きます。ものをつくるのが好きな人たちが集まった建設業界だからこそ、「チームでつくる」
から楽しむデジタル教育もあっていいのかもしれません。

 今回のワークショップの様子①

 今回のワークショップの様子①


 今回のワークショップの様子②

 今回のワークショップの様子②


 ダンジョンジェネレーターの画面

 ダンジョンジェネレーターの画面

石津 優子 氏

GEL 代表取締役