3次元姿勢推定AIによるオープンオフィス空間の
“マイクロ占有”可視化
2025.09.26
パラメトリック・ボイス 大阪大学 福田 知弘
はじめに
近年、オープンプランのオフィス空間では、フリーアドレスや共用スペースなど、ゾーンごと
の利用状況を把握することが、レイアウト設計・省エネ運用・快適性の確保などにおいてます
ます重要になっています。筆者らは、この「ゾーンごとの占有状態」を低コストかつ高精度で
測定するシステムをAIの3次元姿勢推定(3D Pose Estimation, 3DPE)モデル等により開発し、
オープンオフィス設計・運用の新たな方法論として提示しました [1]。本稿では、概要と応用
可能性を整理します。
背景と課題
オープンオフィスは、開放性やコミュニケーション促進の観点で魅力的ですが、その反面、
「どのエリアがどの程度使われているか」「どの機能区画(会議スペース・休憩スペース・集
中作業スペースなど)の占有が過密あるいは未使用か」といった細かい情報は把握しづらい、
という問題があります。従来は部屋・フロア・建物全体といったマクロ単位での利用調査が中
心で、細かい機能区画(ミクロゾーン)の占有を定量的に捉える技術は十分成熟していません
でした。さらに、追加のセンサー設置コストやプライバシーへの配慮、ユーザーの協力や行動
制約などの課題もありました。
本研究の内容
そこで本研究では、「マルチビューRGBカメラ」と「3DPE」を組み合わせ、オープンオフィ
ス内のマイクロゾーン単位で占有状況をリアルタイムに、かつ定量的に把握するシステムの設
計フレームワークを確立しました。主な要素は以下の通りです:
・ カメラ配置とキャリブレーション:複数の視点からRGB画像を取得し、カメラ位置・向き・
内部パラメータを調整するワークフローを導入。PnP法などによりキャリブレーション精度
を高める。
・ 人物・姿勢推定:写真や動画から人体の関節位置を検出し、それを複数カメラで統合して
3次元空間上での姿勢を推定。視点間で同一人物を対応付ける処理を含む。
・ ゾーンとのマッピング:空間をあらかじめ機能区画(マイクロゾーン)に区切っておき、
床面投影や関節位置の座標から、ある人物のどのゾーンを占有しているかを判定。連続時間
で占有状態を追う。
・ 評価指標の出力:占有状態(使用中/空席)だけでなく、占有時間・空席時間・占有頻度・
面積ベースの区域占有率など、複数の指標をリアルタイムで算出。
実証実験と性能
本研究では、小規模なオープンオフィスを対象とするプロトタイプを構築し、4台のカメラで
複数のマイクロゾーンを設定した実験を実施。以下の成果が確認されました。
・ 占有状態の測定タスクで100%の精度を達成。
・ F1スコアで 約89.2% を達成し、高信頼性が示される。
・ ゾーンの占有率変動、使用時間・空席時間など多様な指標を時間経過と共に追跡・可視化可
能。これにより、どの時間帯にどのマイクロゾーンが使われているか(または空いている
か)が明らかになる。
応用可能性
本研究の成果は、以下のような応用可能性と利点をもたらします。
1. レイアウト設計の最適化:実際の使用パターンデータに基づき、会議スペース・集中スペー
ス・休憩コーナーなど各機能区画の配置や広さを見直すことができる。過剰な余裕や逆にボ
トルネックになっているゾーンを把握し、設計を調整する際の根拠になる。
2. スペースの可視化による資源効率化:未使用または使用頻度の低いゾーンを特定し、家具
配置やゾーニングを変更することでスペースの無駄を削減できる。あるいは、一部のゾー
ンを共用化するなどの運用改善も可能。
3. エネルギー管理と環境制御の連動:人の滞在・通行が多いゾーンとそうでないゾーンとで空
調・照明をゾーニング制御すれば、消費エネルギーの削減と利用者の快適性維持を両立でき
る。
4. 運用のモニタリングと保守性の評価:短期的なプロトタイプ設置から、竣工後のオフィスの
運用モニタリングまで、本システムを活用すれば、設計と実際の使われ方のギャップを把握
可能。将来改修や改装の判断材料になる。
5. プライバシー・コスト配慮:本手法は人物の三次元関節や床面投影情報を用いてゾーン占有
を判定するため、個人の顔認識等のセンシティブ情報取得は必要最小限に抑えられる構造で
あり、また追加センサーをあまり必要としない低コスト運用が想定されている。
このようなデータ駆動型の空間利用分析は、設計・運用の両面で「見える化」を促進し、資源
をより有効に使う持続可能なオフィス空間づくりにとって不可欠なツールになり得ます。
図1 占有測定システムのために提案した設計フレームワークの主要なメカニズム
図2 システム設計フレームワークと実証実験
(a) 占有測定システムの設計フレームワークの概要
(b) 実験空間の構成とカメラ設置:床面マーカーを用いて平面図を3つの
マイクロゾーンに区分し、4台のカメラによるデータ収集をリモート
操作で実施
図3 占有測定システムのコアコンポーネントと出力結果
(a) 3D姿勢推定および2D投影抽出の概要
(b) 占有状況(19:58:40~19:59:39)
(c) 占有および空席の継続時間(19:58:40~20:00:39)
(d) 占有頻度の変化(19:58:40~20:00:39、測定結果)
(e) 占有状況(19:59:40~20:00:39)
(f) 数量および面積ベースの占有ゾーン比率の変化(19:58:40~20:00:39)
(g) 占有頻度の変化(19:58:40~20:00:39、Ground Truth)
[1] Chen, S., Fukuda T., Yabuki N. (2025). Development of an occupancy measurement system for micro-zones within open office spaces based on multi-view multi-person 3D pose estimation, Journal of Building Engineering, Vol. 111, 113037.