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コラム

四半世紀のBIM成果評価

2026.01.08

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

このコラムは2025年12月末、まさに年の瀬に書いています。今更ながら21世紀の第1四半期
が終了することに気が付きました。企業であれば四半期毎に目標に対する成果評価を求められ
るものです。今回のコラムはこの四半世紀の様々な成果評価を勝手に試みるという内容です。
目標設定は挑戦的であるべきなので、以前のコラム「未来の設計手法をSFからイメージする
で触れたSFプロトタイピングでムーンショット的に行ってみましょう。

評価が低そうなものからいきますがこれは宇宙開発でしょうか。『2001年宇宙の
旅(1968年)』で示されたビジョンの中で、「有人木星探査」は言うに及ばず、軌道ステー
ションへの民間旅客機渡航も現在のISS程度では「×:目標未達」となりそうです。ISS後継は
商業ステーシンに移行する話もありますので今後に期待です。また同映画ではHALというAI
が登場します。流暢な言葉を使い、カメラ映像から自律意思決定を行っていました。2001年
時点では無理でしたが2025年現在は自然言語で扱えるAIが傍にいます結果的にHALは暴走
しますがAIに全面統合制御をお任せするか否かは人間の職業倫理の問題として、25年スパン
の総括としてはギリギリ「〇:達成」でしうか。ここではAIに自我があるかないかは問わず
演算上の人命のプライオリティを指示しなかったのが失敗と考えます。

後の『ブレードランナー(1982年)』はその未来都市(2019年)の描かれ方が印象的でした
特にスピナーと呼ばれる新しいモビリティは「空飛ぶクルマ」「自動運転」という形で「△:
未達だが商用化の一歩手前」という評価はできそうです。同作品では「レプリカント」という
亜人間・人造生命も登場しました。こちらは技術的可能性はさておき「×:倫理規定でNG」と
なるでしょうか。

先のArchi Future 2025の基調セッションに登壇された押井守監督の『攻殻機動隊 Ghost in
the Shell(1995年)』は2029年が舞台といわれます。あと4年であの「サイバネティックス」
は実現しそうもありませんが、ガジェット的に現れる「ネットワーク化された都市」について
は「都市OS・デジタルツイン」とも言え、私たちが取り組む「BIM」や「CDE」の目指す姿の
一つと言えないでしょうか。

ちょうどこの節目の2025年に開催された大阪・関西万博について、私は設計者=BIMマネー
ジャーとしてパビリオン建設に関わりました。夢洲の大屋根リングや各パビリオンを一つの
疑似都市とみなし、近い将来に実現するはずの「都市OS・デジタルツイン」のバックキャス
ト的に今回の取組を考えてみたいと思います。私が知る限り、今回の万博は国内で初めて都
市スケールBIMの活用が期待されたイベントだったと思います。万博協会が提示したBIM要
件(EIR)に基づき建設請負各社がBIM実施計画(BEP)を提出しその計画に沿って設計
施工を進めるという仕組みは、以前のコラム「BIMについて一問一答」で触れたプロセスであ
り、そこで適用するBIM適用範囲とLODの指定も現時点においてとても現実的なものであった
と評価できます。しかし不満も三つ挙げさせていただきます。

第一に提出データにRVT形式が要求されたこと。データの中立性の話もありますが一つの
パビリオンでも実務上複数のBIMアプリケーションのデータを重畳して構成しています。結果
的にIFC形式のみを納品させていただきました。

第二にCDE(共通データ環境)の構築が不十分だたこと。大阪・関西万博はCDE実証の場
になることを期待しましたが請負者側がCDEのメリットを享受できる場面が無かったと思い
ます。

第三に、今回の一連の取組成果が不明確だったこと。個々のパビリオン建設でのBIM援用効果
はあったと思いますが定量的なKPIがEIRやBEPに組み込まれておらず結果としてBIMの価
値を外部へ認知させるに至っていないと感じました。バーチャル万博のサイトはありました
が・・・。

CDEについては最低要件の定義は必要で、それはブラウザでIFCを閲覧可能であることだと思
います。いままでいろんなCDEを自称するアプリケーションを触ってきましたが、常に重視し
ているのは、巨大なデータを扱えるかのパフォーマンスです。もう少し詳しく言えば、応答速
処理能力安定性リソース効率化になります。先述の「都市OS」はまだ未来の話になっ
てしまいますが、来るべき将来の姿として視野に入れておくべきでしょう。理想的にはそこに
格納されたデータの状態遷移と承認ログを保持する仕組みがあるといいなと思います。今後
EIRとBEPのテンプレートを考える場合はCDEの実装を前提とした情報管理の枠組みとその
効果を図るKPIを定めるべきでしょう。その一つは承認リードタイム短縮でしょうか。

さてここまでの振返りで「BIM」に関する第1四半世紀の評価ですが、今後の期待も込めて
「△:未達だが実現の一歩手前」としておこうと思います。

 都市OSには程遠いですが、複数の建築のBIMデータを重畳した例として、弊社ICI総合センター
 が思いつきました。計画が2015年頃なので増築を繰り返し約10年物のデータです。10年スパン
 で考えてもデータの後方互換性が重要であることが分かり、IFC形式への期待が高まります。

 都市OSには程遠いですが、複数の建築のBIMデータを重畳した例として、弊社ICI総合センター
 が思いつきました。計画が2015年頃なので増築を繰り返し約10年物のデータです。10年スパン
 で考えてもデータの後方互換性が重要であることが分かり、IFC形式への期待が高まります。


 

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長