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コラム

“デジタル”で扱う数値の意味

2025.12.23

パラメトリック・ボイス       SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎

ちょうどタイミングが合うのか本コラムも何回目か分かりませんがベトナムで書いています。
今回は初めてダナンという都市に来ました。
ベトナム中部にある第三の都心で、海側にあるためベトナム国内のみならず特に韓国や中国の
方に人気のリゾート地のようです(ちなみに私は仕事で一泊しただけなので、リゾートを満喫
してはいません)。
日本からもコロナで無くなっていた直行便が復活し、最近は日系企業の進出も多くなっている
そうです。
 
今年は11月に連続して台風が直撃し、街が冠水したりしたのですが、水害自体は珍しいことで
はないようで、たくましく日常に戻っていました。
難しいところですが、それなりにいい加減な都市づくりというのは、ある程度の水害対策に有
効なのではないかと考えさせられました。
水に入る時に完全防水するのか、水着になるかという感じでしょうか。
 
私の仕事の中で大きな割合をしめているのが、生産設計におけるデジタルエンジニアリングな
のですが、果たしてどの程度必要性のある業務なのかということが理解されていない分野では
ないかと感じます。
実際に、やらなくとも建物は建つと思いますし、建っています。すべての建物で必要なのかと
いわれると、そうではないとも思います。
では、何のために必要な業務かというと、「作図・計画の効率化」「品質の確保」「不具合・
不確定要素の洗い出し」が大きなメリットだと考えています。
複雑な形状の場合は、そもそも2Dでは把握できない要素が多いため必要性が高くなるのは当
然なのですが、詳細な形状・寸法を決めていく生産設計において、イレギュラーな納まりがあ
る部分において3Dを含め“デジタル”で形状を検討していく行為は、上記のメリットを享受し
やすいです。
これは、イレギュラーな部分において(そもそもイレギュラーな部分に気づいていないことも
含めて)「不具合・不確定要素の洗い出し」ができておらず、「作図・計画の効率化」ができ
ずに手戻りや再検討が多くなり、「品質の確保」ができなくなってしまう、という場合が多い
ので、そこを解決するために“デジタル”が役立つ可能性が高いということだと思います。
 
もちろん経験豊富な方にとっては“デジタル“を活用しなくても分かることかもしれません。
しかし様々な条件が変わるのが建築生産の特徴であるとすれば経験だけに頼らずに”デジタ
ル“を活用することは経験の力をさらに広げるのではないでしょうか。
単純に、経験に基づく計画を“デジタル”で検証することで、高精度の結果が得られ、品質の向
上につながると考えられれば良いのかもしれません。
 
と、ここまで書いて冒頭のダナンの話に戻ります。
本当にそこまで高精度に建物を建てることが本当に良いことなのか。完全防水のような建物を
建ててしまうことで、逆に環境に逆らうことになってしまうのではないか。
 
“デジタル”で数値を扱う者として、明確に出てくるこの数値の意味は現実世界でどの程度意味
があるものなのかは永遠のテーマです。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長