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コラム

データ×AIが導く室内視覚快適性の設計指標

2026.02.25

パラメトリック・ボイス                大阪大学 福田 知弘

本稿では、2025年10月に学術雑誌「Automation in Construction」にオンライン掲載された
筆者らの論文 [1] で明らかになった確かな成果とそこから考えられる実務への応用や今後の
可能性を分けて紹介します。前者は論文で検証された事実、後者はそれに基づく筆者の考察で
す。読者の皆様に研究の実態と可能性をバランスよくお伝えすることを意図しています。
 
1章 論文で示された「事実」
背景:視覚快適性の評価が抱える課題
持続可能な建築設計ではエネルギー効率だけでなく人間の室内視覚快適性(Indoor Visual Comfort:IVC)を設計段階から定量的に捉えることが求められています特に自然光(デイ
ライト)とまぶしさ(グレア)の評価は、明るさや照度だけでなく、人が座っている視点での
快適性を評価する必要があり、従来の静的な方法では十分に対応できませんでした。
 
研究の目的とアプローチ
この論文は、機械学習を用いた「自動評価フレームワーク」を構築し、建物設計における視覚
快適性の分析を効率化・高精度化すること
を目的としています。データ駆動で視覚快適性を評
価するために、以下のような手法を採用しました。
1.アンサンブル機械学習モデル
 複数の勾配ブースティング系モデル(XGBoost、LightGBM、CatBoostなど)を統合した
 Stackingアンサンブルモデルによって予測性能を高めています。
2.SHAPによる解釈性の確保
 単に結果を予測するだけでなくSHAP(SHapley Additive exPlanations)技術を併用する
 ことで、どの設計変数がどの程度IVCに影響しているかを可視化・解釈しています。
 

 図1「自動化された室内視覚快適性評価フレームワーク」パラメトリックデータ生成から機械
 学習による予測、SHAP解析による設計要因評価までを統合するプロセス図(論文 [1] 図1)。

 図1「自動化された室内視覚快適性評価フレームワーク」パラメトリックデータ生成から機械
 学習による予測、SHAP解析による設計要因評価までを統合するプロセス図(論文 [1] 図1)。


主な成果(実証された事実)
高精度な視覚快適性予測
Stackingモデルは従来手法を上回る高い予測精度(決定係数 0.911)を達成しました。
これは「部屋形状、窓の位置・大きさ、日射角度」などの設計変数を入力するだけで、視覚快
適性を迅速かつ定量的に予測できることを示しています。
 
重要な設計要素の特定
SHAP解析により、視覚快適性への影響度が高い主要要素が特定されました。
例として次のような傾向が示されています:
・ 建物の形状(46.6–52.7%)
・ 開口部(窓)の特徴(22.6–24.9%)
これらは、設計段階で特に注意すべき構成要素として数値的に裏付けられています。
早期設計段階における迅速な評価フィードバックが可能になり、設計検討のサイクルを高速化
します。

 図2「Stackingアンサンブル学習モデルの構造」XGBoost・LightGBM・CatBoostなど複数学習
 器を統合するアンサンブル手法の概略(論文 [1] 図5)。

 図2「Stackingアンサンブル学習モデルの構造」XGBoost・LightGBM・CatBoostなど複数学習
 器を統合するアンサンブル手法の概略(論文 [1] 図5)。


 図3「設計変数の寄与分析」視覚快適性に対する主要設計変数(方位・窓比率・シェーディ
 ング)の影響度をSHAP値で示す(論文 [1] 図10)。

 図3「設計変数の寄与分析」視覚快適性に対する主要設計変数(方位・窓比率・シェーディ
 ング)の影響度をSHAP値で示す(論文 [1] 図10)。


2章 実務への展開と近未来像
本研究で示したのは、設計変数から室内視覚快適性を高精度に予測し、さらにその判断根拠を
可視化できる評価モデルの構築です。これはあくまで「評価手法」に関する成果ですが、この
特性は実務設計の進め方そのものに影響を与える可能性を持っています。
従来、室内環境性能の評価は、詳細なシミュレーションや専門的な解析、あるいは経験に基づ
く判断に依存する部分が大きく、設計の比較検討を行うには一定の時間と専門知識を要しまし
た。そのため、これらの評価は設計がある程度具体化した段階で行われることが多く、初期段
階での迅速な比較検討は容易ではありませんでした。
本研究で構築したモデルは、設計パラメータから直接、視覚快適性指標を即時に数値化し、さ
らにどの設計要素がその評価に影響しているかを提示します。この特性は、詳細解析に先行し
て設計案の良否を定量的に比較できる環境を生み出します。
このような評価環境は、設計初期段階で多くの判断材料を持ち込むという意味で、いわゆるフ
ロントローディングを支える基盤技術となる可能性があります。すなわち、後工程で検証され
るべき環境性能を、設計の早い段階で繰り返し確認しながら形態を検討できる状況をつくり出
します。
また、ここで重要なのは、この評価プロセスが専門的な環境解析ツールの操作や高度なシミュ
レーション知識を必ずしも前提としない点です。評価モデルが構築されれば、設計者や関係者
は設計パラメータを入力するだけで、視覚快適性の傾向を把握できます。これは、これまで限
られた専門家に依存していた環境性能評価を、より広い設計関係者が扱えるようにするという
意味で、設計環境の民主化につながる可能性を持っています。
さらに、SHAPによる要因分析は、「なぜその評価になったのか」を設計者に説明します。こ
れは単なるスコア提示ではなく、設計判断に対するフィードバックとして機能し、設計者の経
験や直感とデータの関係を結びつける役割を果たします。評価モデルがブラックボックスでは
なく、「対話可能な評価者」として機能する点は、実務において極めて重要です。
 
これらの点は本論文で直接的に検証されたものではありませんが、本研究で確立した評価モデ
ルの性質から考えられる実務的な展開例です。設計プロセスの中にこのような評価手法が組み
込まれたとき、環境性能の検討は後追いの検証作業ではなく、設計そのものと並行して進む日
常的な判断材料へと変化していく可能性があります。
その意味で、本研究の成果は単なる予測モデルの提案にとどまらず、設計プロセスと環境評価
の関係性を再定義する契機となり得るものと考えられます。
 
[1] Zhou, Y., Fukuda, T., Yabuki, N. (2026). Automatic Evaluation and Analysis of
Indoor Visual Comfort for Sustainable Building Design Using Interpretable Ensemble
Learning, Automation in Construction, Volume 181, Part A, 106582,

[2] 本研究で開発されたモデルやコードはGitHubで公開されています。

福田 知弘 氏

大阪大学 大学院工学研究科 環境エネルギー工学専攻 教授