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コラム

市民のウェルビーイングから地方自治体を読み解く
-LWC指標を活用した分類

2026.04.07

パラメトリック・ボイス
                             東京大学 石政 龍矢


東京大学生産技術研究所豊田啓介研究室で特任研究員をしております、石政と申します。
読者の皆様のおかげで、本コラム2本目も執筆させて頂けることになりました。ありがとうご
ざいます。
 
前回のコラム「地方自治体のスマートシティ政策に迫る」と題して、地方自治体どうしの
スマートシティ政策の類似性を分析させて頂きましたが、今回のコラムは同じくスマートシ
ティの観点から、特に近年、地方自治体で活用が進んでいる「LWC指標(地域幸福度)」*1
の観点から地方自治体を類型化し、その特徴を探っていこうという試みとなります。
 
本コラムが、建築系やまちづくりに関わる人だけではなく、地方自治体に勤務されており、指
標をご活用されている、もしくはこれからご活用を検討されている読者様にも、届けば幸いで
す。
それでは、拙い文章とはなりますが、どうぞコーヒーでも片手に、リラックスしながらご覧い
ただけますと嬉しいです。

はじめに
都市の抱える課題を解決するために、もはやデジタル技術の活用は避けては通れない歩みであ
り、「スマートシティ」「デジタル田園都市」の名の下に、我が国でも取組が進んでいます。
一方では、市民理解を欠きテクノロジーオリエンティッドのスマートシティ化に陥れば計画が
頓挫するリスクは明らかです。
現在、地方自治体はその方向性に答えのない中で、テクノロジーとヒューマニティの狭間を行
き来しながら、葛藤している状況といえます。
その狭間から抜け出すために近年着目されているのが市民の「ウェルビーイング」に着目した
スマートシティ化です。ウェルビーイングとは、「身体的・精神的・社会的に良好な状態にあ
ること」と定義され、世界保健機関(WHO)の健康の定義の中で登場した概念とされていま
す*2。
市民のウェルビーイングを図る指標として、我が国では、一般社団法人「スマートシティ・イ
ンスティテュート」開発のLWC指標(Liveable Well-Being City Index)がその最たる例とし
て使用されており、現在、各地方自治体において、LWC指標をもとにした総合計画の作成や
ワークショップの開催等、その活用が進んでいます。
本コラムではそんなLWC指標を取り上げ、全国の地方自治体を類型化することで、その理解
を図っていきます。LWC指標に馴染みのない読者様もいらっしゃるかと思いますのでまずは
指標の説明からはじめ、分析の方法、結果の提示と考察、最後にまとめを行う流れで執筆いた
します。
 
LWC指標とは
LWC指標とは一般社団法人「スマートシティ・インスティテュート」が開発した市民のウェ
ルビーイングを図る一指標であり、2022年の公開以後、指標の改定や対象自治体の拡大等を
行いその利活用の幅を広げています(注1)。LWC指標は「生活環境」「地域の人間関係」
「自分らしい生き方」の3つの因子群から構成され、各因子は医療・福祉、自然景観、地域と
のつながり、自己効力感等、24の異なるカテゴリに細分化されます。その上で、各種統計デー
タ等をもとに各カテゴリを客観的に評価する客観指標と、市民へのアンケート調査をもとに各
カテゴリを主観的に評価する主観指標があり、結果を偏差値化しています。同様に、幸福度や
生活満足度についても調査がなされ10段階評価した平均点も算出されています。指標は毎年
作成されダッシュボード形式で公開されており各地方自治体の結果をご覧いただけますので
関心のある読者様はこちらのリンクから触ってみてはいかがでしょうか。
 
分析の流れ
それでは、LWC指標を使って分析を行っていきましょう。
本コラムでは、K-Means法(注2)により地方自治体の類型化を行います。分析の対象とする
データは主観指標であり、アンケートの回答者数が100を超えている、全国530の市町村を対
象とします。主観指標はそこに住まう市民の実感を反映したものであり、より市民の「心」に
沿った観点から地方自治体を理解することができるため、本コラムでは主観指標からアプロー
チします。
分析の流れは以下の通りです。
まず、全24あるカテゴリの指標を、3つの因子ごとに平均し、得られた平均値を各因子の代表
値と見なします。得られた代表値をもとにK-Means法を適用し地方自治体を異なるグループ
に分割します。本コラムでは分析ツールにPythonを使用しscikit-learn搭載のKMeansメソッ
ドを用います。K-Means法による分割のアルゴリズムには何種類かあるものの本コラムでは
デフォルトである「k-means++」により分析を行います。
類型化の数については、「elbow法」によりその数を4と定め、530の市町村を4つにグループ
分けし、各グループに分類された地方自治体の特徴を考察します。
 
分析の結果
「生活環境」、「地域の人間関係」、「自分らしい生き方」それぞれの因子間の相関係数が高
いこともあり、全因子における「総合的な」主観指標の値の大きさによって、地方自治体を
4つの群に類型化することができました(図1)。すなわち、「生活環境」、「地域の人間関
係」、「自分らしい生き方」の全因子の総合的な主観指標が高い群(以降「総合的主観高グ
ループ」)、やや高い群(以降「総合的主観やや高グループ」)、やや低い群(以降「総合的
主観やや低グループ」)、低い群(以降「総合的主観低グループ」)の4類型です。
とりわけ、最も総合的主観が高いグループと、最も総合的主観が低いグループに分類された地
方自治体を表1に示します。  

 (図1)LWC指標3因子に基づく地方自治体分類結果

 (図1)LWC指標3因子に基づく地方自治体分類結果


 (表1)総合的主観高グループ、低グループに分類された地方自治体一覧

 (表1)総合的主観高グループ、低グループに分類された地方自治体一覧

 
分析の考察
総合的主観高グループは、特別区を中心に、軒並み東京都の市町村が目立ちます。他、首都圏
は川崎市、鎌倉市、藤沢市等、都心へのアクセスも良く利便性もあり、人口・経済規模の大き
い市町村が並びます。首都圏以外についても、富谷市、野々市市、長岡京市、芦屋市、西宮市、
箕面市、福津市等、全国、都道府県内における住みやすさ、住み続けやすさに関する各種調
査*3で上位に入る市町村が並んでいます。
総合的主観低グループは、全国にわたって地方自治体が並んでいますが、中でも茨城県、千葉
県の市町村が多く並んでいます。茨城県は、古河市、結城市、常総市、筑西市、坂東市といっ
た県西地域の地方自治体が多数並んでいるのが特徴的です。
両グループについて、3つの因子を24のカテゴリに細分化した指標(表2)で比較すると、総
合的主観高グループは「自分らしい生き方」因子内の全6カテゴリが全て偏差値60を超えてお
り、総合的主観高グループに居住する市民の自己肯定感の高さが伺えます(反対に総合的主観
低グループは全6カテゴリが全て偏差値40を下回る)。総合的主観低グループは、カテゴリの
中でも「医療福祉」「初等中等教育」が偏差値30を下回っており福祉教育に関する市民
の主観的評価は厳しいものとなっている。ただし、「住宅環境」「自然の恵み」については、
総合的主観低グループの方が総合的主観高グループを上回っています。
客観的評価指標のうち、地方自治体の財政力を示す地域財政指数で両グループを比較すると、
総合的主観高グループは56.9、総合的主観低グループは42.9と、財政力の差も見て取れます。
なお、総合的主観高グループと総合的主観低グループの現在の幸福度、生活満足度の平均を比
較しても、前者は現在の幸福度6.63、生活満足度7.21、後者は現在の幸福度6.20、生活満足
度5.97とその差は明確に表れており各因子が幸福度生活満足度といったウェルビーイン
グ全体に与える影響は大きいことがわかります。

 (表2)カテゴリによる総合的主観高グループ、低グループの比較

 (表2)カテゴリによる総合的主観高グループ、低グループの比較


まとめ
本コラムでは、スマートシティの文脈において近年活用が進んでいるウェルビーイングに着目
その評価指標であるLWC指標を取り上げLWC指標による地方自治体の類型化を行いまし
た。K-Means法により、特に総合的な主観的指標が高いグループと低いグループの比較を行
いました。
ただし、本コラムでは類型化にあたって、指標の単純化、分析手法も単一化を図っており表面
的な分析に留まっており、また、類型化後の考察もマクロ的な評価で、個々の地方自治体の詳
細に踏み入ったミクロ的評価まではできておらず、今後の課題です。本コラムはあくまで試論
であり、改善の余地が残され、より多面的かつ詳細な分析が必要であることを述べて、まとめ
とさせて頂きます(注3、注4)。
 
ご覧くださりありがとうございました。
 
最後に、このコラムは東京大学生産技術研究所豊田研究室メンバーが持ち回りで執筆させてい
ただいているコラムの一つです。他にも様々なテーマのコラムがたくさんありますので、ぜひ
ご覧ください(他のコラムはこちらから)。
 
【注釈】
注1)詳細は利活用ガイドブック(下記参考文献・URL)参照。
注2)K-Means法は、クラスター分析、教師なし学習の一手法である。これまで様々なアルゴ
リズムが提唱されているが、その基本的考え方は、初期値に任意の点を与え、その点と各点と
の距離を計算しそれを基準に分類し収束条件を満たすまで繰り返し操作を行う手法です*4
注3)本コラムによる地方自治体の類型化では、主観的評価の高低による類型化となりました
が、それは地方自治体間の優劣を論じたものではなく、その特性を理解するためのものである
ことを申し添えます。
注4)本コラムの執筆にかかる分析に必要なデータについてはダッシュボード形式で公開され
ているものの、今回はデータの分析を容易とするため、スマートシティ・インスティテュート
と連携している事務局(「デジタル庁/地域幸福度(Well-Being)指標事務局」)から入手し
ました。この場を借りて感謝申し上げます。
 
【参考文献・URL】
*1 一般社団法人スマートシティ・インスティテュート「地域幸福度(Well-Being)指標利活
用ガイドブック」
(最終閲覧日2026年3月26日)
*2 前野隆司「ウェルビーイングとは何か」『情報の科学と技術』
Vol.72, No.9, pp.328-330,2022
*3 大東建託株式会社「住み続けたい街 自治体ランキング<全国版>」(最終閲覧日2026年
3月26日)
*4 豊田秀樹、池原一哉「変数間の関係性を考慮してクラスター数を決定するk-means法の改
良」『心理学研究』Vol.82, No.1, 2011


石政 龍矢 氏 東京大学生産技術研究所 特任研究員

豊田研究室

東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門(5部)