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ユーザー事例紹介

Unreal Engineで実現する高品質な空間表現と
新たなコミュニケーション<日本工営>

2026.05.18

1946年の創業以来、国内外のインフラ関連事業を幅広く手掛けている日本工営。設計内容や
完成後の空間イメージをいかにわかりやすく正確に伝えるかという課題に対して同社は高品
質なビジュアライゼーションを駆使した可視化技術に積極的に取り組んでいる。
その際にメインで用いるのがEpic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine」だ。
Unreal EngineによりVRコンテンツ制作やリアルタイムレンダリングを行いプロジェクトに
おける合意形成や住民説明、防災教育などさまざまな場面で成果を上げているという。
今回、日本工営 中央研究所 デジタル基盤推進センター 副センター長の佐藤 隆洋氏と、
古澤 明里朱氏の2名に導入経緯や具体的な活用事例、今後の展望までを伺った。

Unreal Engine導入経緯と進化する専門チーム
河川道路エネルギーなどインフラ分野の計画・設計などを幅広く手掛ける総合建設コンサ
ルタントの日本工営。同社のコア技術の研究開発を担う中央研究所。同研究所内のデジタル基
盤推進センターに置かれた「ビジュアルコミュニケーションチーム」は、Epic Gamesのゲー
ムエンジン「Unreal Engine」を中心としたビジュアライゼーション活用や可視化技術の開発
などを担う専門組織だ。
「現在は11名で構成され、企画担当や3Dモデルを作るレベルデザイナーやモデラー、プログ
ラマーなどが所属しています」と語るのはチームを率いる副センター長 佐藤隆洋氏である
日本工営がUnreal Engineに注目したのは、佐藤氏の取り組みがきっかけだ。もともと景観デ
ザインをメインに設計業務を担当していた佐藤氏はパースなどの表現方法について設計図面
の正確な反映が難しいことに対して課題を感じていた。そのため、佐藤氏は自身でCGの制作
を開始。当時、新潟県の大河津可動堰に関するCGを自ら作成したのだ。
その後、BIM/CIMの普及で3D CADを活用するようになるが、新たな課題に直面する。
「3D CADは構造物などの形を表現することには向いているのですが、周辺環境の雰囲気や
空気感の表現が苦手だと感じました」。この課題を解決する手法を探していた2016年頃、
Unreal Engineに辿り着いたという。さらにグループ会社である英国の設計事務所BDPを訪れ
た際に「すでにVRを使ってクライアントとやり取りしている様子を目にし、実際に体験して
有効性を確信しました」と佐藤氏。同時期に中央研究所ではゲームエンジンを使った取り組み
も始まっており、技術を活用する体制が整い始めた。こうして2018年頃から本格的な活用が
進んでいったのである。

試行錯誤を重ねた多様な活用事例
第一弾の事例として、国交省九州地方整備局の依頼で制作した「点検シミュレーター」を
佐藤氏は挙げる。橋梁や河川施設の点検を没入感のあるVR空間で体験できるコンテンツで
「先方のご担当の方が、ゲームエンジンに理解があり、リアルな空間を構築したいという相談
から始まりました」と佐藤氏。当時はUnreal Engineを扱うことができる人材が建設業界にま
だ多くなく、佐藤氏ら3名でネットで情報を集めて研究しながら完成させた。
次に手掛けたのは、熊本地震で崩落した阿蘇大橋の復興イメージづくりだ。ドローンで取得し
たデータをUnreal Engine上に展開し、震災直後の状況から完成後の未来像までを体験できる
コンテンツを制作した。「広範囲にわたる空間だったため、その点には苦労しました。例えば
どのように阿蘇山のような大きなものを組み込むかは、空間の制限やデータが重かったため課
題となりました。また、フレームレートが出ないという課題がありましたが、Epic Gamesさ
んに相談しながら最適化を進めてうまくいきました」と佐藤氏は語る。
このように、最初は課題にぶつかっていたが、着実に技術を向上させ、現在では活用範囲が大
きく広がっているという。ある国営公園の将来イメージの作成案件では、子供たちのスケッチ
をもとに空間を再現。「現地周辺の竹を有効活用したデザインスタディなど、リアルな表現だ
と“こういう空間ができるといいよね”と施主やその地域の住民の方々にすぐに納得してもらえ
るのです」と佐藤氏は強調する。
古澤明里朱氏が担当した山形県文翔館前のウォーカブル空間検討プロジェクトでも、同様の手
法を採用。ワークショップ参加者がゲームエンジン上で空間を表現して検討材料とする取り組
みで、「みちのくインフラDX奨励賞」を受賞した。
さらに防災分野でもUnreal Engineを活用している。浸水時の状況をヘッドセットを着用し体
験できるVRコンテンツを用意し、近隣説明などで活用。「“高いところに逃げなくては”とい
うことが言葉ではわかっていても、なかなか実際の体験はできません。住民の方々に、映像だ
けでなく没入感ある空間で体験していただくことで、実感が非常に高まり自分事になってきま
す」。高品質なビジュアライゼーションを表現できるUnreal Engineならではだと評価する。

 ウォーカブル空間検討プロジェクト(みちのくインフラDX奨励賞)

 ウォーカブル空間検討プロジェクト(みちのくインフラDX奨励賞)


社内外への広がりと今後の展望
佐藤氏がUnreal Engineを導入した当初はゲームエンジンがまだ一般的ではなく、社内の理解
を得るためにさまざまな工夫を行ったと佐藤氏は振り返る。「経営層にはリアルタイムに可視
化ができるプラットフォームであることを丁寧に説明し、外部への情報発信も積極的に行うこ
とで、徐々に認知が広がっていきました」と佐藤氏。また、建築のビジュアライゼーション
ツール「Twinmotion」を新入社員の研修に導入したことも転機となった。

 新入社員研修の成果例(Twinmotion)

 新入社員研修の成果例(Twinmotion)


古澤氏は他部署のプロジェクトのVR支援なども行うことが多いというが社内外の変化を実
感している。「さまざまな方から“ゲームエンジンでこんなことできないか”と相談されるほど
に活用の幅が広がっています」。信濃川の大河津可動堰では、令和の大改修工事のために再び
同社はBIM/CIM活用業務に入っている。最初はVRの効果が未体験だった顧客も、
Unreal Engineで制作した高品質なコンテンツを見て反応が変わったという。古澤氏は「一度
お見せするとイメージが湧きやすいので、お客様からも新しいアイデアをどんどん出していた
だけるようになったことが印象的です」という。
またPLATEAU AWARD 2024では3D都市モデルを活用した「飛び出す避難場所マップ」で
「UI・UXデザイン賞」を受賞。空間再現ディスプレイを活用したコンテンツでヘッドセット
着用に抵抗がある人にも3D空間を体験してもらえる工夫を凝らし評判は良かったという。

 飛び出す避難場所マップ(空間再現ディスプレイ向けコンテンツ)

 飛び出す避難場所マップ(空間再現ディスプレイ向けコンテンツ)


このように幅広い取り組みの中で、Unreal Engineを活用してきた同社。現在、Cesiumの地理
空間データ活用にも積極的に取り組むほか、生成AIなども活用する。ただし、根本的な目的は
変わらないと佐藤氏は強調する。「利用者に対して我々の設計するインフラがどういうものに
なるのか、それを伝えるコミュニケーション自体は基本的に変わりません。住みよい街・社会
をつくるために今後もUnreal Engineを使っていきます」。
古澤氏も「私自身、Unreal Engineは未経験で入社し、最初は何もわからない中で一から地形
を作り建物を入れてプレゼンテーションできるレベルのワールドをつくることができました
絵だけではなく動画も簡単に制作できます。こうしたデジタル技術をより活用してお客様に喜
んでもらい、さらに担い手不足のこの業界に若い人が興味を持ってもらえたら良いです」と前
向きに語る。

 第2回 三次元データを活用した川づくりデザインコンペ 奨励賞受賞作

 第2回 三次元データを活用した川づくりデザインコンペ 奨励賞受賞作


試行錯誤を重ねながらUnreal Engineによるビジュアライゼーション技術を培い、幅広いプロ
ジェクトで柔軟にデジタルを使用する日本工営。同社の高い知見は、インフラの明るい未来を
これからも拓いていく。

「Unreal Engine」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。