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コラム

建築BIMの時代38 維持管理とBIM

2026.04.09

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

2月末から3月初めにかけて一週間ほどロンドンに行ってきた。昨秋から娘がロンドンで暮ら
し始めたので、その暮らしぶりを見に行くことと日本でしか手に入らない食材や衣類を運ぶこ
とが主な目的だった。娘のアパートの近くの宿泊施設に滞在し、その周りやロンドンの中心部
をうろうろして、のんびり過ごした。観光目的ではなかったが、2か所行きたいところがあっ
た。アビー・ロードとグリニッジ天文台だ。ご存知のように、アビー・ロードはビートルズの
同名のアルバムのジャケットで有名なところ。グリニッジ天文台は本初子午線が定められた場
所として誰もが知るところであるがここに展示されている正確な時計を見たいと思っていた
「経度への挑戦」(著:デーヴァ・ソベル、訳:藤井 留美、刊:翔泳社、1997)に詳しく述
べられているが、経度の測定には船上でも正確に時を刻む時計が必要で、その2号機がグリ
ニッジ天文台に展示されているそうだ。アビー・ロードにはいくことが出来たが、グリニッジ
天文台に行けず、次回のお預けとなった。
 
ご存知のように、建物の運用や維持管理段階でのBIM活用がそれほど進んでいない。微力では
あるがJFMAのBIM・FM研究部会は、この状況を少しでも改善させようと活動している。以前
のコラム
で紹介した『ファシリティマネジメントのためのBIM要件定義 EIR(発注者情報要
件)作成ガイド』もその一つである。先日、BIM・FM研究部会の活動に一環で、広島工業大
学の杉田洋先生が主導する全国ビルメンテナンス協会のBIMワーキンググループとJFMA
BIM・FM研究部会との意見交換会を実施した。杉田洋先生は昨年のArchi Futureのセミナー
で『“維持管理”が未来をデザインする ―建物価値をより高めるためにBIMで変わるメンテナ
ンスの戦略―』というお話をされた、建物の維持管理とデジタルについて造詣が深い、この分
野の第一人者である。このセミナーは大変好評だったのだが、私は聴講することが出来ず、大
変残念に思っていた。意見交換会では、Archi Futureのセミナーのエッセンスも含めて、全国
ビルメンテナンス協会殿の取り組みを聞かせていただいた。印象に残っているのは、建物や設
備の維持管理に携わっている方々の知見やノウハウが、建築の設計に活かされていないという
現状とその問題点である。日々の点検や清掃、フィルターや消耗品の交換などひとつひとつの
積み重ねが実は大変な工数になっており、その中には設計段階での工夫で低減されることも数
多くあるとのことだった。また、設計思想が維持管理者に伝わらず、非効率な運用になってし
まう場合もあると聞いた。ここにも、情報の分断があるということを再認識できた。運用や維
持管理と建物の計画、設計との間で情報をつなぐ必要があるとの思いが強くなった。建築BIM
推進会議で提唱されている「ライフサイクルコンサルタント」の役割が増えたように思う。
BIMだけで解決できることではないが、情報をつなぐという点では貢献できる。BIMへの期待
でもある。先日の日本設計の吉原さんのコラム「形状モデルを脱却し、設備設計の考え方を示
すBIMの情報モデルへ」にも通底するものがあると感じている。設計思想、設計意図を表現し
伝達する、かたちや文字ではない別の媒体が必要なのではないかと考えている。BIMがそれを
担えるという確信はないが、可能性はあると考えている。

 アビー・ロードの有名な横断歩道

 アビー・ロードの有名な横断歩道


 アビー・ロード・スタジオ

 アビー・ロード・スタジオ

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部 室長