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コラム

建築ストック活用とBIM

2026.05.28

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

今年のGWは長野県に古民家を買った友人を訪ねました。その築年は買った本人も知らなかっ
たそうですが、後日固定資産税の書類から明治5年と分かり、150年以上もの間に風雪や地震
に負けずこの木造住宅が残っていたことに驚かされました。日本の事情でいえば住宅の寿命は
戸建てで30~60年、マンションで60~70年と言われているようです。長寿命建築を考える際
に「100年」は一つの目標になると思いますが、それを大きく超えて150年ですからね。古民
家で検索すると江戸時代後期のものも現存していますので、当時の一般的な木造住宅の物理的
な寿命は100年どころではないということです。では先の30年程度と短命になる住宅が存在す
る背景が何かを考えると、税法上の「木造住宅法定耐用年数22年」が呪いの言葉のように思え
てきます。

ここ数年間ですが新築時に排出するエンボディドカーボン(EC)の算出と低減について取り組
んできました。RC部材やS部材を木質構造材や他の低炭素材に置き換えることでイニシャルの
建設時CO2排出量を下げることが出来ます。これを定量化するためにBIMのデータを用いて
LCAソフトへ連携する開発
を行いました。主たる構造躯体をRCやSから木質構造に変更するこ
とで凡そ3割のECを削減できますが、より効果的なのは既存の建築物の構造躯体を再利用する
ことでしょう。設備や仕上げは更新サイクルが短いとは思いますが、構造躯体の寿命は凡そ3
倍以上はあるはずです。先進的な欧州の事例に倣い、既存の構造躯体を再利用しながら新築と
同様の付加価値を持たせる計画を「レトロフィット」と称して取組を行っています。従来の
「リニューアル」と認識を改める意味で言葉を変えてみましたが、このストック活用のスキー
ムには企業によって様々な呼称が用いられているようで、現在多くの方々に注目されているこ
とがわかります。その理由は以下の3つの側面、環境(建設時のCO2排出削減)・経済(建設
コスト高騰と工期延伸)社会(人口減少と空き家増加)が考えられます3つ目の人口減少
空き家増加については私自身も感じることが多く、近所にも一見空き家と判別できないですが
良く観察するとだれも生活していない家屋が散見され、そのいくつかはしばらくの後に解体さ
れ更地になりました。仮に構造的な物理的寿命が残っていたとしても、上屋の価値は土地の価
値に比べると圧倒的に低く見られるため、ストック活用の選択肢は選ばれずスクラップになり
ます。脱線しますが近所にマニアに有名な素敵な木造洋館の喫茶店があったのですが、昨年閉
店とともに解体され、いまでも更地の現地を見るたびに切ない気持ちになります。建築ストッ
ク活用を考える上でもっとも大きなハードルは新築信仰とも言える私たちの意識を改めること
かもしれません。

この状況を変えていくために現在思いつくことを以下の3つにまとめました。
(1) 既存建物の性能評価の柔軟化と改修時の規制緩和
(2) BIMデータの保存と再活用
(3) 炭素評価に基づく改修制度運用
ストック活用を考える際に最初に課題となるのが(1)で挙げた既存躯体に関する情報です。
仕事が入った際に真っ先に気になるのは構造計算書が残っているか否か。構造計算書の保存義
務はご存じの通り15年です。現在取り組んでいる案件の一つは築30数年の建築の改修ですが、
構造計算書が保管されていなかったため計画のハードルが一気に高くなっています。図面があ
れば構造計算書の復元という選択肢もありますが時間と手間が相応に必要です。また2025年度
以降は小規模でも確認申請時の省エネ基準適合が求められます。先に触れた付加価値の高いレ
トロフィットを考える場合には、規制対象外である修繕・模様替えの範疇を超え、現在基準の
外皮性能が求められるとオリジナルの外観は維持できないかもしれません。
(2)については、今年2026年4月より始まったBIM図面審査で私が最も期待するところで、
「確認申請用CDE」に注目しています。構造計算書や図面のみならずBIMデータがCDEに格納
された場合、恐らく紙ベースでは保管期限を切るしかなかった建築情報管理が数十年後であっ
ても電子データなら残る可能性が高まります。これは今後数十年先で未来の建築ストック活用
にはポジティブな要素です。また一方で、現在も活用されている3DスキャンからBIMへブリッ
ジする技術(Scan-to-BIM)は、既存建物の現況把握のみならず、設計の最適化や施工リスク
低減が期待でき、既存躯体活用の意思決定を支える要素になるでしょう。BIMは単なる設計
ツールにとどまらずプロジェクト完遂後に将来のストック活用をカバーできる情報インフラと
いえる存在になります。
(3)についてはLCAソフトを用いたシミュレーションを前提としたホールライフカーボ
ン(Whole Life Carbon:WLC)の観点からの評価制度とすれば、先ほどの省エネ基準適合で
触れたような高断熱・高気密の形以外で伝統的な日本家屋の良さが残せる改修工事も成立でき
る余地がうまれると思います。
今後日本においても新築最適から既存活用最適への転換が必要であり、その基盤技術として
BIMの有用性は新築の場合以上に示せると思います。

また趣味のクルマの話で恐縮ですが、最近「レストモッド(resto-mod)」という言葉をよく
見るようになりました。これはRestoration and modification(modernization)の意味で、
いわゆる旧車を単に修復(レストア)するだけでなく、現代の技術で性能向上のカスタマイズ
を行う行為で、結果的に旧車の外観や内装の色気を纏った新車に負けない高性能な車を手にす
ることが出来ます。まあその手間とコストに見合う価値のある車種にだけ成立する話かもしれ
ませんが、建築こそ古いものに価値を見出せる豊かさがあってもいいですよね。

 GWに訪れた古民家でDIYの様子。写っているのは大学時代の友人達(私は撮影者)。どんなも
 のであれ、古いものに手を入れて使い続ける喜びを知る人は少なくないと思います。一人で
 コツコツとやるのもいいですが大勢でワイワイやるのもいいものです。

 GWに訪れた古民家でDIYの様子。写っているのは大学時代の友人達(私は撮影者)。どんなも
 のであれ、古いものに手を入れて使い続ける喜びを知る人は少なくないと思います。一人で
 コツコツとやるのもいいですが大勢でワイワイやるのもいいものです。

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長