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コラム

最初の高いハードル ~維持管理BIM整備考

2026.06.02

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

竣工後の建物運営・維持管理におけるBIMの導入と活用がなかなか普及しない。勿論いくつも
の好事例を見ることはできるが、設計や施工へのBIMの導入状況と比較すると導入実績には雲
泥の差がある。なかなか難しい話だとは思うが、建物ライフサイクルマネジメント全体におけ
る建物情報活用をめざす際、この問題を避けて通ることができないと認識している。
 
設計や施工のBIMモデルと維持管理のBIMモデルではLODや必要とする建物情報が異なるため、
設計や施工のBIMモデルを維持管理で流用することは困難であり、独自の維持管理BIMモデル
が必要となる、と言われている。筆者は過去の新築プロジェクトにおいて、建築生産工程の
BIMモデルを建物竣工時にFMのBIMモデルへと移行したことがあるその際の経験則ではある
設計と並行して建物運営維持管理を含めたFM導入の明確な目的方針メニューを決め
そのために必要な建物情報を定義して竣工時にFMのBIMモデルを納品するよう契約書に明記
し、その作成コストを発注者が負担すれば適正な維持管理BIMを手にすることはそれほど難し
くはない。感覚的には、設計施工一括発注の方が設計施工から維持管理への情報継承はより円
滑に実施されると思う。
 
少し話を変えて、FMの計画と導入について考えてみる。FMを含めた建物運営の方針と計画を
策定し導入していく上で重要なことは、建物オーナーやユーザーがその建物にどのような役割
をどの程度のレベルで求めるか、を理解することに他ならない。建物オーナーやユーザーに
とって建物とは事業やアクティビティのためのコストがかかるツールであり、所有する場合は
償却期間の長い資産でもある。事業ツールとして建物を適正な状態に保つということは、単に
物理的に劣化していないとか故障していない、というだけではなく、事業ツールとして求める
状態になっているかということが重要となる。
FMの方針策定や導入提案をする場合建物オーナーやユーザーが事業運営の点でこの部分だけ
は譲れないというものを見つけそれを担保するために建物がどのような役割を求められるか
そのためには何をすれば良いかを最初に設定する。例えば筆者が身を置く情報通信事業では、
重要な社会インフラである情報通信を何があっても止めない、ということが最も基本的かつ優
先すべきこととなる情報通信機器は給電がなければ稼働せず冷却しなければ誤動作し
が入れば故障してしまう。情報通信を止めないために情報通信施設やデータセンターに求めら
れることは、激甚災害をはじめとする不測の事態から情報通信のための設備やコンピューター
を守り稼働を確保する、ということに尽きる。情報通信以外の事業においても人命や財産を守
る、社会の秩序を維持する、法令を順守するといった視点から必ずこの部分は守らなければな
らないものが見つかるはずである。
無限にコストをかけることができればいくらでも堅牢な建物を建てその運営を実現できる。し
かし、そのためのコストは事業における固定費や原価に転嫁される。確保すべきレベルとコス
トのバランスを最適化した導入計画を策定することがFMの導入戦略にとって最も重要なもの
の一つとなる。
建物に求められる役割やレベルは事業方針によって左右されることからFMの方針策定では建
物の種類や性能諸元といったハードウェアスペックのみに立脚せず、運営方針や求められるレ
ベルといったソフトウェアの視点も含めなくてはならない。時として、運営方針の方を重視す
べき場合も少なくない。
 
様々な手法や手順があるが、一般的にFMというのはPDCAサイクルを基盤とする継続的な改善
活動である。現状把握や課題抽出をする上で情報は重要な手掛かりとなる。建物の状態を分析
して課題抽出と導入方針を立案するためには、情報をデータとして収集・整備し、評価や分析
を可能とする必要がある。FMの導入検討時のFMデータベース構築にもこのような理由とねら
いがあるがデータ整備には相応のイニシャルコストが発生する導入計画提案時にFMが建物
だけでなく事業そのものに対してどの程度のインパクトを与えるかが明確化できなければ、建
物オーナーやユーザーは何故これほどのイニシャルコストがかかるのか理解も納得もしない
維持管理BIM の整備に対して建物オーナーやユーザーが同様の態度をとるのも同じ理由による
ものだろう。
建物オーナーやユーザーが事業やアクティビティを適正化し継続するために最も重要なことは
何か、それらを保持するために建物が担う役割は何か、建物はどのような状態になっている必
要があるか、そのためにどのような建物情報を収集し、どのような建物情報管理・活用が必要
といったFMをデザインする一連の流れの中でようやく基盤となる建物の性能諸元をどのよ
うに確保すれば良いかが明らかになる。維持管理BIMの整備は建物の役割と使い方とそのため
に要求される建物性能を明確化し、総体的なFM導入提案の最後に提示すべきものだと思う。
 
BIMの理念を改めて考えると、設計や施工の業務プロセスの適正化と改善を目的とした建物
データの集約管理ということになるFMや維持管理のBIMについても最初に業務プロセスの
適正化と改善を検討し、その手段となるような立案と策定がなされるべきである。しかし実際
にはこのような最適化に言及せずBIMの導入だけが議論されているように見える。建物オー
ナーやユーザーから見た場合、これでは維持管理BIMの価値が見えない。身も蓋もない書き方
をすると、建物のどこに何があるかが確認できる程度では事業へのインパクトにはならない。
そんなものは実物の建物を見ればわかるよ、で議論は終了してしまう。新築時のBIMモデルが
まだ存在しない建物を情報的に表現するのであればFMや維持管理のBIMもまた見えないも
のを見るための手段であるべきだろう。
建物オーナーやユーザーから見ればハードウェアとしての建物は機能することが当たり前の存
在である。経年による劣化や故障を回避するために維持管理が必要なことは分かっていても、
事業への影響に直接結びつかないのではないだろうか。FMデータベースの中でも維持管理デー
タは維持管理BIMと同様に、建物オーナーやユーザーから見ると自分達には直接関係のない
一番遠い存在に見えているそのため建築サービス側が維持管理の重要性とFMデータベースや
維持管理BIMの整備を提案しても「で?」「だから?」と言った反応につながってしまうのだ
と思う。
 
建物運営や維持管理を含むFMの導入には、維持管理BIMやFMデータベースといった建物情報
の整備という最初の高いハードルが存在する。建物オーナーやユーザーからイニシャルコスト
に対する理解と納得を得るためにはFMや維持管理のデータがもたらす事業効果や事業継続を
わかりやすく結びつけて提示して見せる必要がある。端的にいえば、先行投資としての維持管
理BIMやFMデータベースの整備を貸借対照表や有価証券報告書との関係でその必要性をロジカ
ルに説明できれば維持管理BIMやFM-BIMは大きく普及すると考える同時に維持管理BIMの
発展・普及には維持管理に留まらない広義のFMを実践するハードウェアとソフトウェアの両
面から建物情報を扱うBIMを実現すべきだと思う。そのためには建設領域に閉じるのではなく、
より広い範囲の関係者での議論も必要となる。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 FIMセンタ