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コラム

理科大のメタセコイアと環境設計

2026.06.16

パラメトリック・ボイス              髙木秀太事務所 髙木秀太

 イラスト:溝口彩帆

 イラスト:溝口彩帆


暑い…!
 
まだ5月だというのに、ニュースでは“真夏日”という言葉が当たり前のように飛び交っている。
真夏日とは、1日の最高気温が30℃以上の日のこと。今年の日本の夏も、かなり厳しい暑さに
なるらしい。毎年更新されるような猛暑の記録に、もはや驚くことすら慣れてしまった気がす
るよ。建築設計の世界でも、当然話題になるのは「暑さ対策」。空調設備の進化、ソーラース
タディされた建築のかたち、熱を通しづらい素材。ここ数年、日本の建築はいろんな工夫で暑
さと戦っている。
 
もちろん、デジタル技術の環境シミュレーションも大活躍している。空間と環境をコンピュー
タ上で再現して、「この建築はどれくらい暑くなるのか」を事前に確認できたり。もう現代は
「建ててみないと分かりません」は通用しない時代だよね。建築は、建つ前から随分といろん
なことを検証するようになった。
 
ところで、そんなことを考えていると、ふと、毎週通る“ある場所”のことを思い出すんだ。

 イラスト:溝口彩帆

 イラスト:溝口彩帆


東京理科大学 信号待ちのメタセコイア

僕が非常勤講師としてお世話になっている東京理科大学 葛飾キャンパス。学部二年生にデジ
タルデザインを教える授業のため、毎週JR金町駅を降り理科大通りの商店街を抜けて大学へ
向かう。もう少しで大学に到着というところで、大きな交差点が見えてくる。でここが――
まあ…暑い!抜けた空間の交差点だから、日差しを遮るものがほとんど無い。特に信号待ちの
時間がつらくて真夏になるとアスファルトからの照り返しで体力がじわじわ削られていく
 
でも、その交差点には一本の大きなメタセコイアがあるんだよね。理科大の人なら、きっと
一度はあの木陰に助けられたことがあるんじゃないかな。この時期になると、青々と葉が茂っ
て、とても綺麗だ。羽みたいな葉っぱの形もなんだか可愛らしい。信号待ちの人はみんな、吸
い込まれるようにその木陰に集まってくる。
 

 イラスト:溝口彩帆

 イラスト:溝口彩帆


通学路のささやかなオアシス

大きな通りだから、気持ちの良い風が吹く。風に揺られた枝葉がゆらゆら動いて、細かな木漏
れ日が歩行者の服や鞄に落ちる。その影がすごく綺麗なんだ。そして、木陰で待っていると、
学生たちのいろんな会話が聞こえてくる「暑すぎて無理!」「研究うまくいかないんだよね」
「課題の締め切りやばい」「ちょっと気になってる同級生がいて」「昨日観たアニメ、衝撃的
だった」。もちろん、苦手な先生の悪口なんかも聞こえてきたり。知らない人たちが近くにい
るから、みんなちょっと遠慮がちに喋っている。だけど、それでも話さずにはいられないのが
若い学生たち。無垢で、まっすぐで、なんだか懐かしい。そういう雰囲気を味わえるのも、あ
の空間の良いところ。そう、僕は、あのメタセコイアの空間がすごく好きなんだ。
  
髙木秀太事務所 環境解析スタジオ

あの木、いったい誰が計画したんだろう。信号待ちの学生たちが涼みを求めてやってきて、風
が抜けて、綺麗な木漏れ日が落ちる――そんな景色まで想像して計画されたんだろうか。そし
て、じゃあ、こんな酷暑の時代に、建築家/エンジニア/プログラマたちに何ができるんだろ
うと、僕は考える。大掛かりで派手な建築じゃなくてもいい。あのメタセコイアみたいに、さ
さやかだけど、美しくて、そして、人が自然と集まってくる環境をつくれたらいいなと思う。
 
髙木秀太事務所では、この春、環境設計をデジタル技術で支援する「環境解析スタジオ」を立
ち上げた10年間のあらゆる解析経験を集約させ環境設計支援のプロフェッショナルになる
ことを目指している。光、熱、風、水、そういった自然環境とうまく仲良くしながら、建築や
都市を少しでも心地よくできるチームになれたらいいな。いつか僕たちの手で「あの信号待ち
のメタセコイア」みたいな風景をつくれたら、最高だよね。
 

 イラスト:溝口彩帆

 イラスト:溝口彩帆

髙木 秀太 氏

髙木秀太事務所 代表