Magazine(マガジン)

コラム

共有から協働へ 
~建物オーナーが事業で活用する統合現況BIM

2026.10.27

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

建物はオーナーまたはユーザーの事業やアクティビティのためのツールである(と言い切って
しまおう)。視点を建物ライフサイクルマネジメントやFMに広げると、建物は事業ツールだけ
でなく事業リソースであり、資産であり、経営資源であり……とさらに色々な姿が見えてくる。
とはいえ、機能や用途だけではなく、デザインや背景、来し方行く末を含めた様々な要素が建
物を形作る。実用性が最優先される建物もあればキャラクターが先行する建物もあり、それら
多くのパラメータの組み合わせが建物の個性となる。世の中のものは総てがそうかもしれない
が、特に建物は楽器や自動車といった実用性と嗜好性がいろいろな割合で混在するプロダクト
なのだと思う。
 
新築時や運用時にかかわらず、建物ライフサイクルマネジメントでは建物オーナーをはじめと
する発注者が自身の事業やアクティビティのために建物を最適に利用できるようにすることが、
受注者である建築サービス提供者の使命となる。この最適というキーワードには建物性能の担
保に加え、発注者要件の満足度が含まれる。新たに建物を設計・施工する際に発注者の要望を
実現することは当然だが、竣工後の建物運営や改修・修繕、維持管理といったFMにおいても
発注者が求める建物のあるべき姿の実現が最重要だろう。FMを含めた建物サービスの契約にSLA(Service Level Agreement)が含まれる場合があるように、建物ライフサイクルマネジメ
ントの品質評価は発注者の意思や価値観に少なからず影響を受けることとなる。
建物オーナー・ユーザーの事業方針はその大小に関わらず建物のあり方に影響を与える。例え
ば設備点検や建物維持管理に関する建物サービスの内容やメニューは、空調や照明をはじめと
する各種システムの故障・不具合に対するMTTR(Mean Time To Repair: 平均復旧時間)や、
そもそもそれらの発生を許さないといった要件に応じて大きく変わる。また、事業方針が変更
されればそれに伴う建物への要件も変わり、整備計画の見直しはもとより建物や設備の改修検
討と工事実施といった具体的な対応が必要となる。
 
筆者が関わる情報通信事業やデータセンター事業における建物ライフサイクルマネジメントで
は、ネットワーク機器やサーバー類(以下ICT機器とする)が主な事業リソースとなる。情報通
信事業では事業方針に伴うICT機器の増設や更改が行われるが、これらは電源と冷却のための
空調を必要とする。ICT機器の増加や高密度化により現状の電源や空調の容量・性能が不足す
る場合、給電装置や空調装置の増設が必要となる。また、ある程度まとまった数の増設を行う
場合、設置可能な場所や工事の規模によっては資材置場や作業所のスペースを探索・確保する。
そのほかにも事業資産としての資産情報管理や各種のコスト算定を伴うスペース管理、点検・
維持管理、事業ツールとしてのランニングコスト管理、これらを元にした中長期・短期の建物
整備計画の提案……と、建物ライフサイクルマネジメントには様々な視点によるサービスの提
供が必要となる。
多岐にわたる建物サービスを適正に提供するため、これまで建物基本情報を統合した現況BIM
を整備し、情報通信施設の建物ライフサイクルマネジメントにおける現状把握・基本検討・改
修設計・維持管理・各種FMで利用してきた。一般的なICT機器の増設や更改では、発注者は機
器類を格納したラックをいくつ設置するかを決め、それらが設置できる場所を探すとともに
ネットワークの接続ルートを検討する。受注者はICT機器の増設や更改に応じた二重床の耐荷
重、給電装置、空調機器の増設の要否を検討する。もし設備機器の増設・更改やセキュリティ
区画の変更をはじめとする模様替えが必要であれば、改修工事を立案する。これらのフローは
一方通行ではなく、建物の現在の状況の把握から始まり、完了するまで受発注者間で何度もや
り取りが行われることとなる。
 
事業ツールとしての建物は事業リソースと密接に連係する。特にICT機器の稼働には電源や空
調が不可欠であり、増設・更改に伴う建物側の改修を早期に実施し、設置から稼働までのリー
ドタイムを極力短くする必要がある。従来の「建物情報は現況BIM」、「情報通信装置情報は
別のデータ」として管理すると、受発注者間でのやり取りのたびにそれぞれのデータへのアク
セスと交換が発生し、迅速な事業リソースの整備と稼働開始の実現が困難となる。また、やり
とりの間に行き違いが生じる可能性もあり、結果として手戻りの発生や事業の機会損失につな
がってしまう。
 
このような背景と経緯により、ICT機器の増設・更改の意思決定から情報通信施設への改修工
事の要否判断、工事実施までの検討・実施プロセスの短縮化を目標として、情報通信施設の現
況BIMに事業リソースであるICT機器の情報を統合した「統合現況BIM」を整備し運用を開始
している。統合現況BIMは一般的に建物には含まれない、建物オーナー・ユーザーの事業リ
ソース情報を現況BIMに統合し、受発注者間で共有する。発注者は建物・非建物に関わらず事
業リソース・事業ツールをそれらの関係を含め一元的に参照でき、受注側は建物への要件をよ
り正確に把握・理解できるようになる。建物は事業ツールだが同時に事業リソースでもあるこ
とから、それらを統合し情報化した統合現況BIMを、常に最新の状態にしていつでも発注者に
提供・共有することが新たな建物サービスメニューとしても成立している。
 
事業環境全体をモデル化した統合現況BIMを受発注者で共有する場合、事業リソースの整備検
討とそれに応える建物改修検討を同じ場所で実施する環境が必要となる。そこで、統合現況
BIMを受発注者の協働の場となる建物サービス支援システムを構築した。これまでの経験則で、
発注者にBIMモデルやBIMツールを使ってもらうことは簡単でないことがわかっている。そこ
で、わかりやすい図面表現、シンプルな操作体系、発注者による簡易なモデル作成・編集が可
能となるUIが必須となる。統合現況BIMを協働の場とすることで、発注者はICT機器の設置が
可能な空きスペースの検索と改修工事の要否の一次判定と受注者への検討依頼、提案に対する
工事実施の意思決定を行い、受注者は増設・更改されるICT機器に応じた各種改修の検討と提
案、実施判断を受けての設計を行う。情報の統合と意思伝達ルートの最小化により、従来のや
り取りのタイムロスや行き違いは大幅に削減される。
 
統合現況BIMを受発注者で協働の場として利用する際、ナレッジ格差の解消が大きな課題の
一つであることが明らかになった。発注者がなかなかBIMを利用できないというのはBIMソフ
トの操作が難しいということもあるが、実際には受注側が当たり前のように行なっている、図
面を読んで建物を理解する、建築用語で建物の状況を把握する、といった建物に関する専門知
識の差が大きい。併せて見逃しがちだが、受注者が発注者の事業に関する専門知識を十分に
持っているか?という問題にもさらに踏み込むべきだと思う。
この受発注者間に存在する事業と建物に関するナレッジの谷は、一朝一夕に解消できるもので
はない。現在一つの試みとしてLLMに現況BIMを連携し、建築ナレッジを十分に持たない発注
者に建物の状況を説明したり、BIMモデルを操作したりする機能の実装を進めている。昨今
BIMモデルの生成を含めたAI活用の真価が著しいが、BIMモデルを読み解き、平易な言葉で建
築の専門知識を持たない人に建物を理解してもらう利用方法もまた、BIMのAI活用の重要な方
向の一つだと考える。
 
建物ライフサイクルマネジメントにおいて受発注者で協働の場を実現するためには、共有する
建物情報に対する立ち位置を無理に同じにするのではなく、それぞれの視点からそれぞれの目
的に応じて利用できる仕組みが必要となる。そのための手段として統合現況BIMは有効となる
が、さらなる活用にはナレッジの谷を埋めるためのAIが重要な役割を担うだろう。

 統合現況BIMを活用する協働支援システムに組み込んだプロンプトと回答の画面。AIがBIMモデ
 ルを読み解き、建物の概要・状況を説明する。また、自然言語による指示に応じて建物やフロア
 の検索実行等の操作を行う。

 統合現況BIMを活用する協働支援システムに組み込んだプロンプトと回答の画面。AIがBIMモデ
 ルを読み解き、建物の概要・状況を説明する。また、自然言語による指示に応じて建物やフロア
 の検索実行等の操作を行う。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 FIMセンタ