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コラム

YouTubeはじめました

2020.12.10

ArchiFuture's Eye                  広島工業大学 杉田 宗

5月にオンライン授業がスタートし、半年が経った。この期間中、私は常にオンライン授業用
の映像準備に追われていた。よなよな無人の部屋の中でグリーンスクリーンの前に立ち、カメ
ラに向かってぼそぼそ。それぞれ環境は違うにせよ、日本中の大学教員が似たようなことをし
ていたのではないかと思う。
 
この半年間に作った映像は30本近くになった。Rhinocerosの入門者向けの映像から
Grasshopperの応用編まで、これまで広工大のデジタルデザイン系授業で教えてきた内容はほ
ぼ映像化されたことになる。また今年から新たに始また1年生向けの授業では模型作りや
手書きパースなど、建築を学ぶ上で必要な基礎スキルを教えるために、こちらも映像で学べる
教材を用意した。これまで授業で使ってきたスライドと同じで、1度作るとなかなかゼロから
作り直すことはできない。数年先の授業でも耐えうる内容と質を意識したぶん、撮影までの準
備に時間がかかった。7月に寄稿した「コロナによって変化する建築の学び」でオンライン授
業の有効性を言ってしまった以上、もうやりきるしかないという覚悟だった。

結論からを言うと、私の努力は最高の形で報われていると思う。それは毎週の学生たちのアウ
トプットから感じることができる。大学生活のスタートとともにオンライン授業となってし
た1年生であたが彼らはこれまでに見たことのないくらい熱心に課題に取り組んでいる
それも脱落者がいない。例年なら最後までコンピューターへの苦手意識が抜けず、
GrasshopperどころかRhinocerosも習得できない学生が一定数いるが今年はほとんどの学
生が5回の授業でGrasshopperを習得しようとしている。これには本当に驚いている。もちろ
ん映像の影響だけではなく、授業の進め方を根本的に変えたことが大きく影響しているように
思う。前述のコラムでも説明した通り、概念や操作方法を教える「インプット」と、学生が課
題を通して行う「アウトプット」を明確に分け、インプットを事前に映像で行い、アウトプッ
トは授業時間内のみ、という形にひっくり返した。インプットは自分のペースで、アウトプッ
トはみんなと一緒に集中して、というスタイル。これがなかなか良い。
 
広工大は10月の後期スタートから完全対面授業になっているが、ここでも同じ形式を継続して
いる。そこで気が付いたのは学生がアウトプットする時の環境の重要性だ。悩んだり困ったり
して、誰かの助けを求めたり、助言が必要になってくるのはアウトプットの時である。建築系
学科の学生なら、製図室で夜中まで友達とわいわいしゃべりながら設計課題をやるのが定番と
なっているが、まさにあれが建築学生の「アウトプット」の環境である。実際、昔のように製
図室に集まって課題をやる習慣は弱まっているので、自宅に持ち帰りそれぞれがバラバラにア
ウトプットしている場合の方が多い。困ったり悩んだりしても、それを解決せずにそのまま自
力で乗り越えている場合が多いだろう。つまり、不安な気持ちやうまく説明できないアイデア
が十分処理されないまま、作品として完結しているのではないかと思う。
 
学生の創造性を伸ばすためには、こういった状況の下で鍛錬することは重要だと思う。だがこ
ういう状況でしかアウトプットしていないとなると、アウトプットすること自体に十分楽しさ
を見つけられていない可能性もある。このような考察のもと、デジタルデザイン系の授業では、
授業時間内に周りの学生と協力しながらそれぞれの課題に取り組むようにさせている。非常勤
の先生方やTAは走り回りながら質問や相談に対応し、学生たちは100分の授業時間をとても有
効に使っているように感じる。授業に来れば課題が与えられ、周りの学生や教員にサポートし
てもらいながら毎週なにかをつくり上げる。これが楽しければだれでも力を伸ばすことができ
る授業ができるのではないか?
 
もちろん私が担当するデジタルデザイン系授業は他の座学や設計の授業と違い、スキルアップ
が授業目標のベースにあり、そのスキルをどのように応用させ適材適所で使いながらものづく
りや建築を考えていくのかを問うている。私はスキルアップの部分については苦労したり遠回
りする必要は全くなく、最も効率の良い方法でスキルを伸ばすべきだと考えている。逆に、
学生はみなそういう意識をもってどんなスキルや知識も貪欲に伸ばすべきで、大学に進んだか
ら「インプット」も「アウトプット」もしっかりできた!という学生がもっと出てきてほしい
のだ。
 
そう考えると教育者が力を入れるべきなのは、どうやって学生の「アウトプット」を設計する
かだと改めて思う。「インプット」なんて内容的にはそんなに差が出るようなもんじゃないの
だから、ぶっちゃけ誰かが作った映像でも見せとけば良いのである。なので、私が作っている
映像はYouTubeにて公開することにした。これまでもHiroshima Design LabのHPにてスライ
ド教材など公開してきたが、いよいよ映像教材もオープンにしていきます。チャンネル登録を
お忘れなく。
 
HIROSHIMA DESIGN LAB YouTubeチャンネル
 
しかし、こういった動きはデジタル界隈では大きな勢いになりつつある。コロナの影響でオン
ライン勉強会は増えたし、デジタルスキル系のチュートリアルだけでなく、様々な映像がイン
ターネット上にアップされ、誰でも映像を通して学べるようになったことは大きい。今年の全
国から参加者が集まりオンライン開催されたArchi Future 2020もその副産物と言えるかもし
れない。大学の教育もキャンパスを離れインターネット上に出てきている。明治大学の
門脇耕三先生のYouTube映像は設計を学ぶ学生にとって非常に良い教材だし、同じく明治大学
の青井哲人先生の“読み物としての講義”は建築史の学び直しにも良い。私の把握してないとこ
ろに、まだまだ沢山の学びの「種」が転がっているのがインターネットのすごさであり、同時
に終わりがないことが大きな課題でもある。
 
11月30日に創立した建築情報学会ではこういったところにも着目し建築情報学の学びを体系
化することにも取り組みたいと思っている。例えばインターネト上に存在する無数のチ
トリアル映像の中から、こういった人にはこの映像を、こういうスキルにはこのチャンネルと、
多様なラーニングメニューを作り、もっとも適したコンテンツへリードすることもできるので
はないだろうか。それに沿って「種」を集めていけば、最後にはびっくりするような森になっ
ている、そんな学びの経験があっても良い。
 
そういうわけで、これからもグリーンスクリーンの前に立ち、カメラに向かってぼそぼそやり
続けていく。本当の結果が現れるのはまだまだ先であろう。しかし、今の1年生が卒業する
4年後には、どんな卒業生が輩出されていくのか楽しみでならない。

 授業のために作った映像のひとシーン。私が学生時代に見ていたDaniel Shiffmanの映像に習っ
 て、画面を指さしながら説明できるようなスタイルにしたが、Shiffmanほどの垢ぬけた感じが
 まだ出せていない。

 授業のために作った映像のひとシーン。私が学生時代に見ていたDaniel Shiffmanの映像に習っ
 て、画面を指さしながら説明できるようなスタイルにしたが、Shiffmanほどの垢ぬけた感じが
 まだ出せていない。


 「インプット」は事前に映像で行い、「アウトプット」は授業時間内のみ、という形にひっく
 り返した授業構成。

 「インプット」は事前に映像で行い、「アウトプット」は授業時間内のみ、という形にひっく
 り返した授業構成。

杉田 宗 氏

広島工業大学 環境学部  建築デザイン学科 准教授