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コラム

この先に未来がある

2022.01.13

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

2022年になりました。2021年は、個人事業から法人化して色な葛藤の中、小さな会社なの
でプロジェクト数は少ないですが一つ一つ印象深いプロジェクトに関わることができました。

1年間で改めて気づいたことがあります。自信をつけるのは大変で、自分を肯定することは非
常に難しいということです。何か新しいことをするたびにこんなこともできないのかと落ち込
みました。印刷ミス、スケジュール管理の甘さ、そんな小さな出来事が「向いてないから辞め
てしまえ」と追いかけてくるような感覚でした。でもこれを読んでる人は思うと思います。印
刷?スケジュール管理?そんな誰にでもある小さなことで落ち込む必要があるのかと。私自身
も誰かがそんな相談をしてきたら言うでしょう、そんなこと気にしてないで元気出しなよと。
もし、もう一人の過去の自分が今の自分をみていたら、挑戦している姿が羨ましくて、その話
を軽く流してしまうかもしれないです。ただ本人としては深刻なので、子育てとの両立とも悩
みながら、時間がないという理由よりも自分のメンタルコントロールができず、上手く
パフォーマンスが出せない時間もありました。

私の場合、準備をしてきた独立というよりもコロナ禍で所属のスタートアップ外資系会社の経
営が難しく、ある意味短時間で理想や思い描いていた未来などを組み立て直し、迫られて独立
した経緯があります。どこかに所属するという選択肢もありましたが、自分が思う特定のソフ
トウェアに縛られないクリエイティブな建築関連アプリ作り、ツール作りを専業で集中してエ
ンジニアとして働ける場所は自分がつくらないとない、自分で修行できる場所をつくる他ない
と、エンジニアの経験を積むためにフリーランスになりました。

35歳定年説があるソフトウア業界で30過ぎでしかも出産後から本格的にプログラミング言
語を使った仕事に建設業関連で就きたいともがきながら勉強している身なので、つい最近まで
技術的にまだまだだこれではいけないという焦燥感ばかりが先走っていたようにも感じます

その定年説の年齢が近づいてきて、あることを決めました。エンジニアとしてのプレイヤー経
験を買ってでも積もう、他人の経験や技術をお金で買おうとするのは辞めようと。それはなぜ
かというと、結局自分が欲しかったものは、会社でもなく大きなプロジェクトでもなく、自分
の技術とそれによって何かを作るクリエイティブな時間だったからです。自分のつくるアプリ
が世界一ではなくても、つくるのは楽しいです。寝食忘れて没入できるものが、制作活動だっ
たのにそれを辞めて誰かにお願いして自分が好きではない管理の仕事をするのはあまりに勿体
ないと思ったからです。定年だと誰かが言っていたとしても、新しい言語の学習をしていると
きは楽しいですし、ツールつくりの幅が広がったら面白いです。好奇心が満たされる時はやは
り喜びです。その自分の声をもっと聞いてあげようと思いました。

不思議なことに「この人、できるらしいよ」という言葉はいとも簡単に信じるのに、「自分は
できる」ということは自分で信じられず、それが理由で行動できないことが多いです。ただし
没入している時間を過ごした自分は分かります。自信をつけろというと酷なので、せめて没入
できる時間を与えてあげるような生き方をしようと2022年は舵を切ろうと思います。

そして、なぜ建築系アプリ開発に没入できるかというと、この先に未来がある、業界の仕事や
働き方はこちらにシフトするはずだという確信に近いワクワク感があるからです。違う業界の
できる人たちを集めてビジネスしたらよいじないかそれも正解だと思います。ただ自分は
この領域のエンジニアとして働く時間を今までの努力や試行錯誤の中でようやく手にするチャ
ンスが出てきたので、それを手放すのではなく今まで以上に楽しもうと考えました。何歳から
だっていいじゃないか、それまでやってきたものがゼロになることはないのです。デジタル関
連の仕事をしている私も不安の中で、自分の技術をシフトしたりアップデートしたりしていま
す。不安に思うことは辞められないかもしれません。ただもしとあるデジタル関連技術のこと
を今までやっていなくて、今新しくやってみて没入する時間があると感じたら、それは一緒の
未来のワクワクを見ているのかもしれません。一人一人が本来の好奇心を大事にしたら、業界
を担う人たちが新しい人たちで入れ替わるのではなく、今そこにいる一人一人の人たちがアッ
プデートされる未来が待っているのかもしれません。

石津 優子 氏

GEL 代表取締役