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コラム

【BIMの話】BIM must go on

2022.03.17

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰
 
今回のウクライナ危機の切迫した報道に触れて、私はここでこうしていていいのかと思う瞬間
があります。
阪神淡路大震災や東日本大震災のあと。新型コロナウイルス感染症のさなか。過去にも、事件
や災害の際に自分には何が出来たのか、自問自答して無力感に苛まれた、と述懐する建築関係
者をたくさん目にしました。
今回もまた、私達には何ができるのかと悩んでいる方がいらっしゃるのではないかと拝察しま
す。
 
しかし一方で、周りに目を向けてみれば、私達には日常を続けてゆく必要があります。
生活に必要かそうでないか、不要不急かどうかといったことにかかわらずです。
なぜなら、日常を続け、日常が壊れたら取り戻すということは、放っておいても勝手にそのよ
うにならないからです。
 
そのような観点から、私はようやく最近になって、自分自身が現在取り組んでいることが、現
在の状況を改善する何かにつながっている、と感じられるようになりました。
建設に関する知識を流通させ、蓄え、よりよい建築と建設作業を実現すること。
より美しく配慮ある空間を作れるような時間の配分を促すこと。
建築や都市の状態を記述し、記録し、活用する方法を確立すること。
差し迫った緊急のときには、自分の専門知識の範囲で、何をすべきで何をすべきでないか身の
回りに情報共有できること。
そして、私にとっていつもどおりの仕事と、他の方のいつもどおりの仕事が掛け算されたとき、
なにかこれまでとは違う価値が生み出されること。
私が仕事としてやっていることがそれらにつながれば、全体として今起きていることをほんの
少し良くすることができる。
 
そうは言っても、その一歩先はまたわからないことだらけです。
その時々で持ちうる最善の技術をもって仕事をする、ということは、経験が増えるのに反して、
年を追うほど難しくなる印象があります。
しかし同時に、自分が発揮できる技術力の限界がわかることで、起きうる事態もよりクリアに
想定でき、何をしなければいけないかも徐々にわかるようになってきます。
考え続けていかなければいけません。
 
何が求められていて、何をすればよいのかわからないときは、いま目の前にあるコンテクスト
を大切に、そこでできるなるべくよいことをする。
今回はこのタイミングでいただいた連載というコンテクストで、私なりにできることをしてみ
ようと思いました。
どこかにいらっしゃる無力感や不安感を感じる方に、ああやっぱりそういうものなのだな、
いま与えられている事をがんばろう、という気持ちになっていただけたら幸いです。

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ長 / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授