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ユーザー事例紹介

BIM積算における隠れたギャップを分析し
本来の活用を図る<U’sFactory>

2022.08.09

BIMを活用したさまざまなICTソリューションを手掛け、建設会社や設計事務所など各企業に
適したBIMの活用スタイルを提案し課題解決を図るU’sFactory。
同社が長年実績を積み重ねてきたBIM積算&全自動施工図作成システムの「BI for Archicad」
は、GRAPHISOFT社のArchicadで作成した3Dデータを利用することで、積算・施工モデルを
作成できるアドオンツールだ。
積算に伴うこれまでの常識や考え方、活用方法を見直すツールでもあり、具体的には見積り作
成に伴い建設業界内で生じていた積算の数値と実数との乖離を埋めることが可能になるという
今回、同社代表取締役社長の上嶋泰史氏に、積算に関する現状や真実、BI for Archicadを通
して見えてきた展望などについてお話を伺った。

BIM積算のネックは積算基準と実数の違いにある
近年、建設業界で導入が進んでいるBIM。BIM積算&全自動施工図作成システム
「BI for Archicad」を展開するU’sFactory代表の上嶋泰史氏は「BIMが本当に活き
るフィールドは、積算の現場にありますが、BIM積算の活用が進んでいない現状もあります」。
その理由を「日本積算協会で定められた計算ルールで算出される数値と、BIM積算で求める実
数が異なり、両者の間には埋めがたいギャップがあるためです」と指摘する。
 

     株式会社U’sFactory 代表取締役社長 上嶋 泰史 氏

     株式会社U’sFactory 代表取締役社長 上嶋 泰史 氏


「積算基準の数値と実数とで、何がどう異なるのか。明快に説明することはこれまで難しく、
数値が異なってくる原因を探っていきました」と上嶋氏。
一般的に見積りは工事を受注するために日本積算協会の計算ルールにのて積算される
実際に受注後は、実数量の数字を求めていく。そのときにBIMでは3Dで納まりまで検討した
実数を出していくが、BIMでは積算量を出すためのルールはない。
「BIM積算を活用するためには、同協会の定めた計算ルールに沿って近似値を算出して見積部
で活用すると同時に、BIMで実数を算出して協力会社の契約に活用することの両方を同時にで
きればいいと考えました」と上嶋氏。つまり、積算値と実数の両方を同時に出力することで、
BIM積算で入力するデータは施工図をはじめ土工事、シミュレーションなどに幅広く活用でき
るのである。
 

 「BI for Archicad」による全自動施工図作図

 「BI for Archicad」による全自動施工図作図


しかし、その実現はかなり骨の折れる作業だ。上嶋氏は両者の積算の違いをRC造の躯体で鉄
筋の積算を行うケースで説明する。
「積算基準では、スターラップ(あばら筋)の長さなどはカブリ厚を考慮せず計算します。する
とカブリ厚分の鉄筋が足りず、全体ではかなりの量が不足します。また、基礎で杭がある部分
ではハカマ筋が上下に伸びるほか、杭頭回りに入る補強筋を拾って積算値は大きくなる。その
一方、鉄筋の組み立てに必要となる補助的な段取り筋は積算基準では計上しないルールがあり
ます。このような積み重ねで、積算の数値と実数とが乖離していくのです」。
 

 壁鉄筋における積算の違いについて

 壁鉄筋における積算の違いについて


壁に配される鉄筋の算出例でも「壁の長さが3,080mmのとき、縦筋の間隔が200mmなら、
必要な鉄筋は15.4本で16本が実数では正となります。積算基準ではここで+1本というルール
で17本が記載される。この1本の差が、全体で大きく効いてくるのです」と上嶋氏。鉄筋の継
ぎ手も、積算基準では鉄筋が配される床スラブなどの長さに応じて継ぎ手を設ける数が定めら
れているが、実際の建物形状に合わせた納まりや現場の状況は考慮されない。そのため、積算
基準に沿って継ぎ手の数を算出すると、実際の現場では過不足が起こる。
「物事が複雑に絡み合っているので、BIMで3Dを使いながら、関係する担当者が事前に把握
して検討していくことが大切なのです」。
 
BIM積算が建設DXを推し進める
BI for Archicadでは、鉄筋の配筋については鉄筋工事・加工会社の監修のもと機能向上を
図ってきた。
「加工性と品質を確保する定着長や継ぎ手の考え方など、プロの発想が織り込まれています。
各部材の外観や内観隣接する柱や大梁・小梁の関係を考慮し鉄筋パラメータを自動的に制
御して配置まで行うのが特長です」と上嶋氏。

 BI for Archicadによる、基礎/柱/梁/壁/スラブ/バルコニー/屋根GDL

 BI for Archicadによる、基礎/柱/梁/壁/スラブ/バルコニー/屋根GDL


鉄筋パラメータを自動で取得・配置する機能は2021年秋にリリースしたバージョン25から搭
載され、さらにコンクリート型枠などをArchicadのGDLオブジェクトで作成も可能となった。
さまざまなコンポーネントをパラメータで制御できるようになり、例えば型枠のパネル割りや
Pコン位置の配置まで行える。そして前述の積算基準の数量と実数の両方を算出でき、各社の
運用に合わせられる。
そして、同ソリューションでは内容を手動で修正できるのも大きい。ここで大きな役割となる
のがBI for Archicadの新たなプログラムとして2021年7月にリリースされた「BI Structure」
である。BI for Archicad内の専用構造計算ソフトで、部材の配置の関係性を見ながらさまざ
まな設定ができるまた構造計算データをBI Structureで受けてArchicadに送ることができ、
さらにArchicadで部材追加などをして、また戻すことができる。
「例えば図面では足りなかった部材をBI Structureで追加しArchicadで継ぎ手位置などの
検討をして修正するほか、細かい部材の設定もできます。BI for Archicadで調整した内容を、
そのまま渡すことができるのです」と上嶋氏。最終的には他社の鉄骨製作ソフトとも連携する
ので、鉄骨ファブはデータを正として活用できる。
 

 「BI Structure」のインポート/エクスポート画面

 「BI Structure」のインポート/エクスポート画面


 「BI Structure」の部材定義とリスト図画面

 「BI Structure」の部材定義とリスト図画面


 「BI Structure」の配置(平面・軸図)画面

 「BI Structure」の配置(平面・軸図)画面


BI for Archicadはユーザーとともに2014年から開発とバージョンアップを重ね、BIMで積算
から鉄筋加工図、施工図、床付図、製作図、仮設計画、工程シミュレーションまで一気通貫で
簡単に行える。
上嶋氏は「BI for Archicadには多くのゼネコンなどの現場の生の声が瞬時に届きます。各企
業からの要望を反映しながら機能を共有していくことで、多岐に渡るケースに対応できるよう
に成長してきました」と語る。同ソリューションは、BIMの特長であるフロントローディング
を推し進めると同時に、設計から積算、施工で生じていた隠れたギャップを埋めて連携すると
いう役割において、建設DXの一翼を担うツールだといえる。
 
点群データを気軽に閲覧できるサービスも
さらに同社は、点群データをWebブラウザ上で閲覧できるビューワ「Info360 Point Cloud Viewer」を今年9月にリリース予定している。
上嶋氏は「弊社は高精度な3D計測サービスを提供しています。これまでは、計測した点群
データを確認する際、データをPCにダウンロードする必要がありましたが、このビューワに
よりスペックの高くないPCやスマホ、タブレットでも軽快に閲覧できるようになります」と
説明する。同ビューワでは、点群データと3DCADの座標軸を合わせて位置合わせをしたデー
タをアップロードし、プロジェクトごとに見ることができる。コンテンツを共有する期間は
1日限定にするなど任意で設定でき、セキュリティも担保しながら、点群データを多くの人に
開示することが可能。点群データであれば、どんなデータでも読み込むことができる。
 

 「Info360 Point Cloud Viewer」のアノテーション機能

 「Info360 Point Cloud Viewer」のアノテーション機能


さらに「アノテーション(注釈)機能によりカメラの写真情報などを載せられて詳細も記録で
きます。表示も、点群を独自のノウハウで軽くしており早いです」。また、CADでいうビュー
ポイントを設定すれば、求めるシーンをクリックすると、該当する個所の写真にジャンプして
閲覧することができる。
「例えば、リノベーションなどの現場で内部の解体が終わったタイミングで点群をとり、場所
ごとの詳しい状況を残しておくことができます。点群データは後でコントロールし、階ごとに
切って見るなど欲しい情報だけを簡単に得られます」と上嶋氏は活用のシーンを想定する。
建設業界の多方面にわたる不便や面倒を解消し、効率的に仕事をするためのサービスを展開す
るU’sFactory。
上嶋氏は「BI for ArchicadではBIM積算のルールづくりをする段階に入てきました。新し
い物事の見方を、これからも提供していきたい」とさらに先を見据えている。

「BI for Archicad」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。