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コラム

BIMの拡張方向

2022.09.13

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

最近ふと気が付くと、世の中が思いの外変化していて唖然とすることが少なくないこれまで
は主に技術の進歩とともに新たな仕組みや製品の登場により劇的な変化を目の当たりにする、
ということが多かったように思う例えばPCのネトワーク接続やスマートフォンの登場によ
るモバイル環境の拡大が特に記憶に残っている。観察者によっても捉え方は異なるだろうが、
最近は目まぐるしい変化こそ少ないもののある日ふと我に返ると周囲の世界が以前と大きく
変わって見えたりする。すぐには気が付かないほど少しずつではあるが確実に変わり続け
る程度の時間を経て変化量が思いのほか大きかったことに気付く、という事だろうか。

このような「変化の変化」は様々な要因によって起こっているのだろうが新型コロナウィル
スの流行による行動の変化、特に他者との接し方や情報収集の方法がこれまでと変わったこと
がトリガーになっていることは間違いないだろう国内ではロクダウンこそなかったものの
様々なシーンで物理的な行動範囲が縮小したこれまでにも増してオフィスに出勤する回数が
減り、制度は存在していても馴染みがなかった在宅勤務がワークスタイルの中心となった
議もオンラインに移行し、当然と思っていた出張も遠距離短距離を含めほぼなくなった
動し経験する現実世界が極端に縮小し代わってネットワークを介して距離や移動時間を意識
しない仮想世界が一気に拡大することで主観的な世界の形が短期間に変容し得られる情報と
の変化に収集方法が追いついていないからかも知れない。
今はネットワークを介して世界中の情報にリアルタイムで接することができるが現実世界で
の体験で得られる情報と、仮想世界で取得できる情報の種類・量・質が異なることが身の周
りの世界の姿が変わる原因の一つに思える良し悪しや感覚的なことを書くべきではないかも
知れないが現実世界と仮想世界では情報をインプットするためのセンシング、換言すれば五
感の取得情報のバランスが違う、ということだと理解することにしている。

このところBIMの適用範囲の拡張について考える機会が増えている建築生産以外の領域や建
築サービス提供の立場を越えた建物情報の活用がめざすところだがそのためには誰がどのよ
うな建物情報を求めるか、そのための建物情報はどのように流通・交換されるかという、BIM
の適用範囲の拡張について整理をしなければならないと考えている。
ステークホルダーの拡張であれば建物の設計施工維持管理という建築サービス提供側の視
点とは別の建物オーナーやユーザーが自身の事業やアクティビティを通して建物をどのよう
に見るかという視点とモデル化が必要になるだろうオーナーやユーザーは何がしたいのか
建物に何を求めるかという視点を見つけ、そのための建物モデルを実現する。当然ながら、
建物情報を建築サービス提供側と共有するか否かで導入するBIMの姿も変わってくることにな
オーナーやユの建物の見方は千差万別だが事業やアクテビテを通した建物に対
する価値観がBIMの姿に大きく影響するのではないかと思うFMの導入においては建物の種
類もさることながら建物に対する価値観をどのように方針や施策に組み込むかが重要となる。
ステークホルダーの種類を増やすといったようにBIMを拡張する際は漠然と範囲を広げよう
とするより拡張する方向をイメージできるようにすると考えやすいのではないかと思う。

建物ライフサイクルマネジメントにおけるBIM活用では時間軸によってBIMの拡張を考えてい
る。建築生産でのBIMモデルは「建物の近未来の姿」ということになるが、建築生産時のデザ
インシミュレーションの手法を既存建物の改修でも使用する場合過去の姿から分析・評価を
行うことで未来の姿を決めることができる。現状把握・評価分析・課題抽出・将来予測といっ
たデータ活用を建物ライフサイクルマネジメントに適用するためには、時間軸でBIMを拡張し
た「過去の姿」「現在の姿」「未来の姿」を現すBIMモデルが価値を生むこととなるだろう。
更に建物数という方向でBIMを拡張すれば、一度得た知見やノウハウを他の建物に適用するこ
ともできるようになる。
一方、建物オーナーやユーザーが建物に求めるものとしては建物を使用したビジネスやアク
ティビティに関わる事業性やスペース効率、エネルギーマネジメントの最適化、近年ではウェ
ルネスやレジリエンスと言ったものに対する評価や予測投資やその予測時期といったサービ
スやキャッシュフローに関するものが含まれる建物は様々なアセットやサービスの構成要素
の一つであり、建物情報を孤立した特別なものとするのではなく他の事業情報と同列に扱う
ことができる視点とモデル化が求められるこのように建物をハードウアに対するソフト
ウェアの方向で拡張することも、BIMの拡張の重要な課題ではないだろうか。

BIMの拡張を考えるには、過去・現在・未来といった時間の方向、物理的な性能諸元を確保す
るためのハードウェアから事業やアクティビティといったソフトウェアへの方向建物種別や
規模、単体から複数と言った管理対象建物数事業やアクティビティの種類と建物の運営方針
や事業方針の方向……と様々な方向軸から必要なものを選択し建物をモデル化するような手
法や手順を考える必要がある。併せてすべてをBIMモデルに集約しない建物情報の姿も求めら
れるかも知れない。すでに共通認識となっている4D-BIM, 5D-BIM, 6D-BIM……の延長で考
えても良いだろうが、別の姿を志向しても良いかもと思う。
間断のない世の中の変化とともに建物に求められるものも変わっていく。今後BIMに何が求め
られるのかあるべき姿はどのようなものかを拡張というキーワードを通して引き続き検討し
て行く必要があると考えている。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部サービス推進部エンジニアリング部門設計情報管理センター 担当部長