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コラム

私がデジタルデザイン系科目の担当教員に
辞めてくれと伝えた理由

2023.02.21

ArchiFuture's Eye                  広島工業大学 杉田 宗

広島工業大学の建築デザイン学科では、2016年から『デジタルファブリケーション実習』や
『BIM実習』といったデジタルデザイン系科目の担当をしていますが授業スタト時から一
緒に授業を進めてきた非常勤講師には「5年を目途に卒業してください」と言ってきました。
今年度から入れ替わりが始まり、来年度には第2世代への移行が完了します。
 
せっかく非常勤講師になってくれた先生方に注文するには失礼な要望だとは知りつつ、こんな
お願いをし続けてきたのには理由があります。それは、最先端の情報技術やものづくりを教え
ていくには、教員側が変化しながら常に新しい教育に挑戦し続けることが重要だと考えたから
です。日進月歩の勢いで現れる新しい概念や技術を、私一人でキャッチアップすることは不可
能で、非常勤の役割は大変重要です。その組織が凝り固まらない循環をつくるための答えが
「5年を目途に卒業してください」だったのです。
 
指導する側としては、担当教員が変わることは負担でもあります。常に新たな試みをしている
授業であっても、ルーチーンになっている部分は多くありますし、勝手が分かっている教員陣
で授業を進める方が断然スムーズです。変化する組織で教育を進めるためには様々な工夫が必
要で、それが実質的に新しい概念や技術を教える教育に繋がっていくのではないかと思ってい
ます。これはデジタルデザイン教育に限ったことではなく、建築教育全体に言えることでしょ
う。何年も同じ教員陣で授業をやってるところも多くありますが、毎年学生が入れ替わる大学
において、教員側の流動性も求められるべきだと感じています。若い人が教える立場になるこ
とでいろいろな新しい考え方を入れながら、大学が持つ伝統や特色を継承していく文化が必要
だと思います。
 
しかし、地方でデジタルデザイン教育の非常勤講師を探すのは簡単ではありません。実際まだ
まだデジタルファブリケーションやBIMを活用して実務をやっている人は多くありませんし、
週に1度大学に来て授業を担当するという時間の裁量ができる人となるとさらに限られます。
常にアンテナを張って適任者を探すことが重要な任務ですが、デジタルデザイン系科目の場合
は実務者で、かつこの地域を拠点に活動している人になるので、大学や学会の領域には居ない
人材です。私の場合は『ヒロシマBIMゼミ』の活動など、地域に根差した社会活動がこういう
ところで活きています。
 
一方、デジタルデザイン系科目の非常勤が集まり、定期的な勉強会である『カタテマ』が始
まっています。大学での教育が起点になり、新たな学びの場が作られていることは、広島の建
築やものづくりの業界にとって大きな財産になるでしょう。今後そういう場が拡張され、社会
人だけでなく、大学で学ぶ学生たちも巻き込むことで広島のデジタルデザイン教育が新たな段
階に入っていく可能性を感じます。
 
このまま行けば2026年頃には第3世代への移行が始まる予定ですが、私の思いとしては、この
第3世代やその次の第4世代に広工大の卒業生が戻ってくるのが理想です。その頃になれば、今
我々が考えているデジタルデザイン教育とは全く異なるものが展開されるのではないかと想像
すると、もうすこし頑張ってその風景を見たいと思うのです。

 広工大デジタルデザイン系科目の担当教員。左手前から、私(杉田)、稲垣聡先生(SSca)、
 市村隆幸先生(杉田三郎建築設計事務所)、久保井将太先生(アトリエドリーム)、
 中山慎一郎(中山技研工業)、冨田雅俊先生(NORA architects)、
 田原泰浩先生(田原泰浩建築設計事務所)、大田一朗先生(大田設計事務所)、
 坂本悠一先生(ツクモノ一級建築士事務所)、長谷川統一先生(杉田三郎建築設計事務所)

 広工大デジタルデザイン系科目の担当教員。左手前から、私(杉田)、稲垣聡先生(SSca)、
 市村隆幸先生(杉田三郎建築設計事務所)、久保井将太先生(アトリエドリーム)、
 中山慎一郎(中山技研工業)、冨田雅俊先生(NORA architects)、
 田原泰浩先生(田原泰浩建築設計事務所)、大田一朗先生(大田設計事務所)、
 坂本悠一先生(ツクモノ一級建築士事務所)、長谷川統一先生(杉田三郎建築設計事務所)

杉田 宗 氏

広島工業大学 環境学部  建築デザイン学科 准教授