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『建築雑誌』編集体験記その1
2026.03.10
パラメトリック・ボイス
コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 杉原 聡少し前になるが、『建築雑誌』2025年11月号(図1)にゲストエディターとして関わった。
以前このコラムでも触れたように、オンライン講義や博士論文の一部でコンピュテーショナル
デザインの歴史に関する研究を行ってきたことから、11月号の特集「デジタルが拓く建築の
かたち─コンピュテーショナルデザインの現在地と可能性」の企画にあたり声を掛けていただ
いたのである。本特集は概論、論考、そして4つの座談会で構成されており、私は主に概論の
執筆を担当するとともに、3つの座談会に同席した。今回のコラムではその概論の執筆にまつ
わる話を記す。

図1 建築雑誌2025年11月号表紙
※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の
出典元のWebサイトへリンクします。
「コンピュテーショナルデザインの歩みを振り返る」と題した概論は、コンピュテーショナル
デザインの現状を俯瞰するため、まず歴史をたどった4ページの記事である。以前コンピュテー
ショナルデザインの歴史に取り組んだ際には、オンライン講義では15に分類した建築家のグ
ループについて2時間以上を費やして解説し、博士論文でも50ページ程度を割いた。そうした
内容を4ページにまとめるのは容易ではなかったが「1990年代 デジタル化の始まり」
「2000年代 細やかなデジタルとファブリケーション」「2010年代前半 デジタルの多様化」
「2010年代後半 メタとオブジェクト」「2020年代 AIの台頭」の5つの見出しで構成した。
「1990年代 デジタル化の始まり」では、Greg Lynnを代表例として、3D CGソフトウェアを
積極的に用い、曲面を多用したデジタル建築の形態(図2)を取り上げるとともに、それらが
脱構築主義建築から受けた影響について記した。
「2000年代 細やかなデジタルとファブリケーション」ではLynnらが教鞭を執ったコロンビア
大学でのペーパーレス・スタジオ出身者を含む次世代の建築家や、デジタルファブリケーショ
ンを多用してインスタレーションやパビリオンを設計する建築家(図3)、さらにコンピュー
タ・プログラミングを積極的に実践しながら設計活動を展開する建築家を取り上げた。
「2010年代前半 デジタルの多様化」では、チューリッヒ工科大学やシュツットガルト大学に
おける研究のように、ロボットを建設プロセスに積極的に導入した建築(図4)を含めた。ま
た、マサチューセッツ工科大学のSkylar Tibbitsによるセルフアセンブリーの試み、ロイヤル・
カレッジ・オブ・アートに端を発するスペキュラティブデザインの影響を受けた建築、AAス
クールDRL修了生らが提唱するディスクリート建築も扱った。
「2010年代後半 メタとオブジェクト」にはAR/VRやメタバース空間における建築と、哲学
者グレアム・ハーマンが提唱するオブジェクト志向存在論の影響を受けた建築(図5)を整理
した。
最後の節「2020年代 AIの台頭」では、現在進行系で歴史的まとまりをもつ建築作品群として
はなお捉えにくい側面もあるが(図6)、すでに建築に大きな影響を及ぼしているAIについて
述べている。

図2 Greg Lynn, Embryonic Houses
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図3 Ball-Nogues, Liquid Sky
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図4 Gramazio Kohler Research, Gantenbein Vineyard Façade
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図5 Mark Foster Gage, Helsinki Guggenheim Museum
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図6 Immanuel Koh, 3D GAN HOUSING
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*余談ながら、AI建築の先駆者の一人である上記のImmanuel Koh氏を3月17日の
建築情報学会WEEK2026 KYOTOへ基調講演者として招いている。
上記のように整理する過程で、いくつか気づいたことがある。とりわけ「2000年代 細やかな
デジタルとファブリケーション」の節に挙げた建築家たちを一つのグループとして捉え、その
共通点を改めて考えたときのことである。
たとえばコロンビア大学を卒業しLynnの次世代にあたる建築家の一人で、先日南カリフォルニ
ア建築大学学長の任期を終えたHernan Diaz Alonsoの作品について、私はこれまで、Lynnが
提示した曲面建築の系譜に内在する特徴―すなわち、Lynn自身が「Blob」と呼んだ形態に含意
される“気持ち悪さ”を掘り下げ、曲面建築が持ちうる「グロテスク」という美学的特質を追求
したものだと理解していた。なお、「Blob」という語はスライム状の玩具を想起させると同時
に、ホラー映画『The Blob』への参照も含むと思われる。
しかし改めて考えてみると、Alonsoの作品では、曲面による有機的形態は屋根や外壁といった
建物全体のフォルムだけでなく、窓や手すり、階段のステップといった小さなスケールの建築
要素にまで一貫して現れている(図7)。同様に、プログラミングを多用する建築家として挙げ
たTHEVERYMANY(Marc Fornes)の作品においても、インスタレーション全体の形態のみな
らず、分割されたパネルや、その隙間によって形づくられる開口部の形状にまで、意図的で
一貫した有機的な意匠が施されている(図8)。図2のようなデジタルファブリケーションによ
るインスタレーション作品においても同様である。こうした事例に共通する特質は、異なるス
ケールを横断するレイヤー構成、とりわけ小さなスケールにまで適用される一貫した有機的意
匠にあるのではないか―そのことに、今回あらためて気づかされた。

図7 Hernan Diaz Alonso, Seroussi Pavilion
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図8 THEVERYMANY, Labrys Frisae
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一方、「2010年代前半 デジタルの多様化」の節では、ロボット建築、セルフアセンブリー、
スペキュラティブデザイン建築、ディスクリート建築のあいだに特筆すべき共通点を見いだせ
ず、いわば苦し紛れに「多様化」と名付けた。しかし振り返って考えてみると、Rhinoceros
Grasshopperの出現に伴い普及したパラメトリックデザインが可能にした建築意匠における複
雑なジオメトリが成熟期を迎え、ジオメトリの問題に収まらない新たな方向性を建築家たちが
模索し始めた時期であった、と捉えることもできるのかもしれない。そう考えれば、次節の
「2010年代後半 メタとオブジェクト」もまた、多様化の継続として位置づけられる。ただし、
AR/VR/メタバース建築とオブジェクト志向存在論の影響を受けた建築とを、「メタ」「オ
ブジェクト」という、プログラミングや哲学におけるメタオブジェクトを想起させる語でまと
めたのも、やはり苦肉の策であったことは否めない。
このように2010年代に多様化を示したコンピュテーショナルデザインであるが、2020年代に
おける生成AIの興隆によって様相は大きく変化しつつある。生成AIは意匠表現への影響にとど
まらず、設計・建設業務全般に及ぶインパクトを持つがゆえに、それ以前の多様化の動きは相
対的に影を潜めたようにも思われる。最後の節「2020年代 AIの台頭」では、こうしたAIの建
築への影響について簡潔に触れている。しかしAIは、それ自体で特集が組まれるべきほど大き
な主題である。どこまで踏み込むべきかについては編集チーム内でも大いに議論されたが、本
特集ではあえて導入的な紹介にとどめ、まずはこれまでのコンピュテーショナルデザインの歩
みを整理することを優先する方針とした。
本概論には、本文に加え、独立した話題を扱う4つのトピック「Frank GehryとCATIA」「デ
ジタルファブリケーションの興隆」「コンピュテーショナルデザインの種類」「新たな職能や
ベンチャー企業」と、4つの作品プロジェクト例「Greg Lynn, Embryonic Houses(1997–
2001)」(図2)「THEVERYMANY, Labrys Frisae(2011)」(図8)「Gilles Retsin,
Tallinn Architecture Biennale Pavilion(2017)」「Mark Foster Gage, Helsinki
Guggenheim Museum(2014)」(図5)、さらに20世紀から21世紀にかけてのコンピュ
テーショナルデザインの流れを駆け足でまとめた年表を掲載している。
トピックとしては、この4つ以外にも、「ペーパーレス・スタジオの教員と卒業生たち」(同
スタジオの教員については平野利樹氏の博士論文が詳しい)、「建築ソフトウェア・プラグイ
ン開発者たち」、「ザハ・ハディド事務所出身の建築家たち」などが候補に挙がっていた。こ
れらについては、また別の機会にどこかで記すことができればと思っている。
年表には、ガウディに始まるフォームファインディングの系譜と、脱構築主義建築に連なる意
匠系建築家の流れに加え、情報技術およびソフトウェアの発展の系譜、さらに各時代を象徴す
る竣工建築を記載した。読者が具体的なイメージを持ちやすいように、また特集内の他の記事
に登場する建築家との関連を示すために竣工建築を挙げたが、その選定には苦心した。
トピックおよびプロジェクト例では計8点の画像を概論に掲載している。建築作品の写真掲載
にあたっては、世界各地で活動する多忙な建築家や設計事務所が対応してくれるかどうか不安
もあった。しかし、Greg Lynn、THEVERYMANY、Gilles Retsin、VUILD、Mark Foster
Gageらは、予想に反して速やかに快諾してくれた。もっとも、建築家や設計事務所が写真掲載
の権利を直接有しているとは限らず、実際には撮影者である写真家の許可が必要で、その調整
に苦労することもあった。たとえば、Achim Mengesらによる、ロボットアームでカーボン
ファイバーを編んだファサードパネルを持つTexoversumを撮影した写真家とは連絡が取れな
かったため、Instagram上で別の撮影写真を探し、別の写真家から許可を得ることになっ
た(図9)。また、写真を提供してもらった方々へ謝意として雑誌の送付先住所を尋ねた際、か
つて2006年に勤務していたGreg Lynnの事務所がすでに移転していることを知った。UCLAを
卒業したばかりで車も持たず、サンタモニカのはずれにあった、やや治安の心もとない場所の
事務所へバスで通っていたロサンゼルスでの日々が懐かしく思い出される(なぜか記憶に鮮明
なのは、ナマズのサンドイッチや、鮭の皮のサラダ付き唐辛子鉄火巻など、事務所の仲間と囲
んだ昼食ばかりである)。

図9 Allmann Wappner Architekten, Menges Scheffler Architekten and
Jan Knippers Ingenieure, Texoversum, 写真: Laura Thiesbrummel
※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイト
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記事の詳細に興味のある方はバックナンバーになるがぜひ建築雑誌2025年11月号を手にとっ
てもらえればと思う。なお、今回編集に参加した際には、編集幹事の勝矢武之さん(日建設
計)、編集委員の竹中大史さん(Arup)と太田真理さん(大林組)に大変お世話になった。と
りわけ勝矢さんからは、概論を『建築雑誌』の幅広い読者にとって読みやすいものとするため、
トピックやプロジェクト例、関連する竣工建築の追加など、さまざまなご提案をいただいた。
専門的になりがちな私の原稿を、より多くの読者に届く内容へと導いていただき、大いに学ぶ
ところがあった。
今回の特集で筆者が同席した3つの座談会、「コンピュテーショナルなデザインと建築のかた
ち」、「フォームファインディングとデジタルファブリケーション」、「デジタルは建築の
『かたち』をどう変えていくのか?」についてはまた次回のコラムで取り上げたいと思う。



























