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コラム

建築AIの進化は社会を変革するだろうか?

2023.08.29

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

ビジネス機会を広げるDX
最近、経営に関わるDX相談を受ける機会が増えている。現在の業務の効率化に関するものか
ら、少し先を見据えた仕組みづくり、新しいビジネスへの活用、投資など、様々である。建築
に関する領域では、とりわけ、維持管理領域に関するものが多い。
こうしてみるとDX化は効果的利益拡大そのための効率的業務運営、ガバナンスなど、企
業経営には欠かせないものになってきていると感じる。理由は、スピーディーな判断ができる
ことにあるのだが、ビジネスにおいても同様であろう。多くの企業がクライアント拡大、業務
拡大のために、CRMなどデータを活用したビジネスを推進しているのはこのためであり、
「DX化を進めるとビジネスの幅が広がる」という所以であろう。

AIと建築家
最近のプロジェクトでは、これまでにない多くの情報の整理と的確な発信、同時にスピードと
分析の必要性を実感する。とにかくマクロな情報整理や事務的分析にAIは有効である。とりわ
け知識の取得、頭の整理、ひらめき言葉を得るには手っ取り早い=スピーディーにいろいろな
ことをこなせるようになる。そして、常に進化している。特に画像生成AI分野は建築家の職能
領域まで入り込んできているといっても過言ではないだろう。
AIはすべてを解決してくれるものではないが、視点を変えると、建築家はむしろ「人やまちと
のつながり」への意識、事業やプログラムへの関わり、運営などへの関与を深める機会が増え
るのではないかと思う。これはすなわち「建築がカバーする領域拡大」にもつながる。
従来の設計中心から建築キュレーションを担うことは職能の進化ととらえてもよいだろう。

建築キュレーション実践の場
今度、筆者の事務所が神田に移転するのだが、常に変化を受け入れる建築キュレーション実践
場の創出を考えている。
テーマは「美土代クリエイティブ特区」。場をどのように演出、デザインし、そして体験して
いくか?そしていかに時代に応じてクオリティを高めていくか?というのがこの特区の目的に
なる。〈下図〉
リノベーション建築を舞台に「ひと、まち、建築」が関わり
・まちとのネットワークをつくる~オープンハウス
・自分たちで新しい働く場をつくる~ギアを上げた低エネルギー、低炭素化環境、先端の働き
 方とスペース
・建築を活かす、建築を超える~古い建築を活かし歴史をつなぐ、超える
をめざす。
進化の場として自分たちの「働き方を考え、場を演出し、デザインする」。その結果を繰り返
し検証し、維持する。たぶん完成形はない継続的な仕事になるだろう。
このチャレンジは建築キュレーション的アレンジでもあり個々人を進化させることにもなる。
とりわけ、まちにひらくグランドフロアは、まちの人との積極的なつながりをつくりだす活動
の場であり、ここでの体験は社会への視野を広げ、コミュニケーション力、エリアマネジメン
ト思考を醸成する。もちろん、バイオフィリックを取り込んだ快適環境コントロール、維持管
理マネジメント資料マネジメントなど統合的視点に基づくDX化(現在開発中も含む)も進化
させる。

キュレーションの実践を経て得られるもの
実践DXやAIの導入は建築家の創造的効率を高め人のネットワーク拡大職能拡大によるビ
ジネスチャンスの獲得にもつながる。同時に、文理融合的に幅広い知識や発想を持つ建築家が
社会で活躍することは、社会の変革推進にも大きな影響を及ぼすことができる。これは社会全
体も得るものが大きい。
さらに、建築家のデータ活用進化は、建築分野で遅れている統合活用を動かすことになるかも
しれない。もちろん、多くの人の利用は大事ではあるが、社会の目的や時代に適合する最適活
用はさらに重要である。
私たちの「美土代」での実践も、社会に何らかの影響を及ぼし、一片の改革につながるべく
チャレンジし、そして社会に発信していきたいと思っている。

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員