Magazine(マガジン)

コラム

トランザクションデータも含めた建物データの
有効活用に向けて

2023.12.07

パラメトリック・ボイス                  日本設計 吉原和正

先月、久々にAutodesk Universityへ参加してきました。今年は、以前と同じラスベガスの会
場で開催されたのですが、以前にも増して参加者が多い感じ(1万人以上)で、日本からも過去
最大の参加者だったとのことです。
今年の目玉はトデスクも「Autodesk AI」という新しいテクノロジを発表したことで、FORMAをはじめ様々な製品への掲載が具体化している状況には進化のスピードの速さに改め
て衝撃を覚えたところです。
講演内容についても数年前とは様変わりしていて、BIMの利用方法という時代はとっくに終わ
り、BIMのデータをどう構築し活用するかという話題にシフトしている状況で、トータルカー
ボンの評価や、デジタルツインのソリューションもそろそろ(試行段階ではありますが)活用が
できそうな状況になってきているようでした。
(ちなみに設備では、ファブリケーションで風量や静圧などのシステム情報との関係性を保持
できるようになり設計と施工のよりシムレスな連携が実現できそうな気配を感じました)



今後は、AIの活用に向けたデータ構築が話題の中心になってきそうですが、今回はこの話の流
れで、データ活用の中でも、トランザクションデータを含んだ維持管理・運用でのデータ活用
について触れたいと思います。

Archi Future 2023の事例レポートでも紹介して頂いたのですが、2023年1月の虎ノ門ヒルズ
森タワーへの本社新オフィス移転に合わせて、テナント工事の設計で利用したBIMデータを
FMシステムに取り込んで、デジタルデータを維持管理・運用で有効に活用していけるのかを、
社内で検証し始めているところです。
以前、2017年のArchi Futureで「BIMのメリットを最大化するFMにおけるデータベース活用」
というタイトルで講演したことがあるのですが、この考えに基づいて、設計で扱うメーカー色
のないジェネリックオブジェクトで構成したBIMデータを元に、そこから必要なパラメータだ
けに絞り込んだ上で、メーカー名や製品名、品番、資産管理番号などの属性情報を付け加えて、
資産管理を担う総務グループにデータを引き継ぎ、竣工後の日常管理の効率化に向けた取り組
みを進めようと考えています。

BIM-FM活用の実践と知見の積み重ねを主目的に導入した訳ですが、移転前は、社内で資産管
理している家具・什器などは体系化された台帳も整っておらず、設置されている場所の特定も
人海戦術で捜索が必要だったりと、アナログ的で属人的な対応になっていたことで、移転の際
にはその整理に膨大な労力を要したことも導入のきっかけになっています。この苦労を二度と
繰り返さないためにも、デジタルで効率的な管理をできるようにするという、総務グループの
課題解決にも役立てられないかと考えているところで、建築の専門家ではないメンバーを中心
に、3D情報も伴う複雑なBIMで扱うデータをどの程度取り扱えるのかを定期的に確認しなが
ら、進めていっているところです。

新オフィスはこれで完成した訳ではなく、 働き方もワークプレイスのあり方も引き続き進化
し、働く環境を継続的にリデザインしていくことをコンセプトにしています。そして、今回の
移転に際しては、オフィス環境として様々な検証が可能なように、新規に購入する家具・什器
を複数のメーカーから混在して導入していたり、既存で利用していた家具・什器も利用してい
ることから管理が複雑になってしまうのを今回のシステムでどこまで効率化が図れるのか。
また、今後もレイアウト変更やものの入れ替えなども頻繁に発生する予定であるため、最新状
態に常にデータをアップデートするのが、無理なく行えるものかどうかについても、確認して
いこうと考えています。

これまでBIM-FM導入の際に課題にあがっていた、最新情報を維持し続ける体制と手法の検証
を行いつつ、今回の取り組みは維持管理・運用時に建物で扱うデータのほんの一部ではありま
すが、体系的に把握し検証することで、今後のBIMを中心とする建物データの構築と活用に向
けて、徐々にではありますが知見を積み重ねていければと考えているところです。

また、社内での活用以外にも、新築建物で設計・施工を経て竣工後のFMにBIMのデータを活
用しようとしているプロジェクトや、改修工事を控えた既存建物でBIM化を行いつつ、その
データを維持管理・運用に活用し始めようとしているプロジェクトも出始めています。

BIMデータの維持管理・運用での利用ニーズは、成功事例も少なく、まだまだ模索段階ではあ
りますが、今後の建物データの有効活用に向けて、歩み続けていければと考えているところで
す。

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長