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コラム

技術と楽しむ時間を

2024.05.16

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

年度末は、制作の仕事をしている会社はどこも忙しいのですが、例外なく私も大変忙しく過ご
しました。少し落ち着いたタイミングで、主催している有志の勉強会であるTokyoAECで3Dプ
リントのWSや花見スキャンWSを開催したり、Karamba3Dを構造設計者に教えたり、Rustと
いう新しい言語を勉強する機会を得ることができました。

またKaramba3DはRhinoというCADソフトのビジュアルプログラミングであるGrasshopper
のプラグインで構造解析をパラメトリックに計算できるツールで、ツールが出始めたころは建
築デザイン向けの学生向けに教える機会はありましたが、ツールの認知度が上がるにつれて、
私自身が触る機会は減っていました。構造設計者向けにRhinoとGrasshopperを教えるという
ことで、改めて忘れていた構造力学について軽く勉強したりしました。そこで実施した講習の
受講者の姿に触発されて、私自身もRustという言語をBevy Engineというゲームエンジンで勉
強をしてみたり、Blenderという無料モデリングソフトを触ってみたり、仕事とは関係のない
勉強をいくつかしてみました。


3Dプリンタは10年ぶりに自分でも保有して動かしてみましたGコードを用いて機材を動か
すというのは仕事でもしていたところなのですが、その仕事が終わったところであまり自分自
身では使わなくなっていました。機材を揃えて体制を整える覚悟もないし、3Dプリント関連
は仕事としては難しいかなと思っていたところ、大学の研究室の後輩で交流があった方が仕事
で3Dプリントを用いて建築的な利用に挑戦している話を聞き、見学するうちに自分も少し3D
プリントしたいなと思い始め、話題だったBamBu Lab A1プリンタという安価な3Dプリント
を購入し、プリントを印刷したりしていました。TokyoAECでのWSのその方が講師として、
参加者がRhinoとGrasshopperを用いてGコードを生成して印刷するWSを開催してくれまし
た。印刷に失敗しても笑えるような、プレッシャーなく技術を楽しむ時間を得ることができま
した。


お花見スキャンWSも、みんなでスキャンすることでカメラを持ってうろうろしながら、最新
のアプリやその背景の技術の話を談笑することができました。普段からスキャンをしている講
師役の方に上手い取り方を教えてもらいながら実践すると、1人で使った時と違い、本当にう
まく撮れるところには職人技のようなところを感じて、面白さを実感できました。スキャンも
仕事ではBIMソフトに取り入れることはしていてもスキャン自体を仕事にしていなかったので
うまくとるというところに意識が向いていなかたです(お花見スキンの映像はこちらです)。

構造設計者ではない私は、Karamba3Dを用いて構造設計する機会はないでしょうし、実務で
技術支援を求められることもあまりないだろうと、次第にKaramba3Dからは疎遠になってい
たのですが、前職の先輩がKaramba3D使いであり、TokyoAECで出会った方もKaramba3D
に詳しいこともあり、日本でも数少ない貴重な方々に気軽に聞ける関係性を持つ人も少ないだ
ろうと思い、せっかくの機会なので勉強してみました。すると、以前どこか身が入らなかった
勉強がスッとものになっていく感覚を覚えて、難しいと感じていたところが以前ほどは感じな
くなり、自分自身の変化にも喜びを感じられました。


またRustも入門書を買いましたが、今思うと難しすぎる入門書を買ってしまったせいで、概念
が理解できず、断念していました。Bevy EngineもRustも世の中に出てきて新しいため、それ
を使った仕事を受けるイメージができず、勉強が後回しになっていました。Bevy Engineを用
いることで簡単なゲームを作りながら「所有権」「ライフタイム」「トレイト」という特有の
概念を使いながらコンセプトを理解することができました。

思い返すと、効率の良いスキルアップ方法を考える癖がついており、目標設定して、そのター
ゲットに向けて、道筋を設定し、そこへ向けて努力するという、努力ベースで過ごしすぎてお
時間つぶしのような趣味のような目標設定がないことに取り組んでいなかた過去5年だっ
たと思い返しました。

もちろん、スキルアップを通して成長するためには、目標設定やそこまでの計画、それを実行
する力が必要で、成長には努力は欠かせないことでしょう。

ただ成長することだけに時間を費やしすぎると、何となくわくわくする心が育たないという実
感があります。なぜなら、これを学んだら何ができるだろうかと、その先がある程度みえるも
のしか取り組めないからです。

これに時間を費やしても何になるのだろうと、それより仕事のためになることを優先しようと
無意識にそうしてしまったところが大きいと思います。

仕事に繋がればうれしいし、そうじゃなくても楽しい。そんな感覚を持っていたいと改めて思
います。

子供に願うことを考えても、「お子様の将来のためになるので」と習い事や学習塾の営業をか
けられるとウンザリしてしまうのに自分のことだとなかなかそうも言っていられないと思って
しまい、学習対象にリミットをかけてしまいます。今という時間は、将来のためにあるもので
はないし、予期できないことがたくさんあって、目標達成ばかりをするロボットのような生活
をしていても、生きるのに必要な活力みたいなものを失ってしまうのになかなかバランスをと
るのは難しいものです。

心を整えるという言葉がこれほど流行る現代の背景には、こうした学習メソッドや成功パスが
確立されすぎたことによる、好奇心から学習することを制限しすぎた弊害がでているのかもし
れません。

まだ専門も確立していない学生時代よりも、ようやく自分の専門領域と呼べるものが出てきて
同年代にも専門的に活躍している方々と繋がりができた今だからこそ、新しいものを学ぶ新し
い楽しみ方ができるのかもしれません。もっと、こういう繋がりを作れるように、目標達成よ
りもそういう環境を手に入れるところに時間を費やすことができたら良いなと思います。

最近、忙しそうだから話しかけにくいと言われてしまうので、もっと声をかけてもらえるよう
に余白を作ろうと思います。
 

石津 優子 氏

GEL 代表取締役