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コラム

「なぜ?」とChatGPTと「The BIM Manager」

2025.02.04

パラメトリック・ボイス
              
              Unique Works 関戸博高

4年近く前から、東京と北海道の帯広で二拠点生活を続けている。この正月はひと月程帯広で
過ごし東京の生活リズムとは違うゆっくりとした時の流れの中に身をひたすことができた。
静かな水面をただよっているような日々だった。
帯広に着くと先ず図書館を訪れることにしている。そして読み切れない程の沢山の本を借りて
来る。小説・詩・評論・エッセイ・技術書等々、選ぶ分野はその時の気分次第。図書館では、
青春時代に読んだ作家や思想家たちの本もあり、その背表紙を見ていると数十年の来し方をさ
まよっている不思議な気持ちになる。新刊書ばかりの本屋とは違う、時間が前後するワンダー
ランドのようである。そこで本を読んでいると、眠っていた脳の片隅から突然ひらめくものが
やって来たりする。不思議なことが起きるのだ。
そんな読書生活には再読することも含まれる再読の楽しみのひとつは様々な再発見である。
滞在中、もう一度読んでみようとした本に、buildingSMART Japan(bSJ) 2022年発行の
『The BIM Manager』がある。
ここでも数回テーマにしてきたBIMに伴うプロジェクトマネジメントについて、この本ではど
う書かれているのかを再確認しようと思ったのが理由である。それについては別稿で触れよう
と思うが、先ずあらためて読んでみて、総体として著者たちのBIMの普及に対する熱意が感じ
られ、また西欧的・ドイツ的なしっかりした論理展開をしている本でもある事を再認識した。
内容はBIMに関する技術から組織マネジメントに至る広範囲に及ぶ解説がなされており、まさ
に「大人の本」である。従って全体を理解するには結構な努力と社会経験が必要である。私も
発行されて間もない頃、一度読んだが、カタカナと英語の略語を理解するのに精一杯で、今思
えばどこまで理解していたのか心許ないのが正直なところだそこでより良く理解するために、
推薦しておきたいと思ったのが、ChatGPTの活用である。
このところ必要があって相談相手としてChatGPTを使うことがとても多くなっている。と言
うのは、仕事上で使う個人のデータベースを作りたいと思い、半年程前から集中的に使いだし
たのがきっかけである。このテーマは底なし沼のような情報を扱う為、知っておかなければな
らない事が多すぎ、最初から本を読んで必要な知識を蓄えようとすると、何年かかるか分から
ないと思ったからだ最短である程度構造化された知識の獲得にはChatGPTを相談相手にする
のが、もってこいだ。早朝でも深夜でも文句を言わず付き合ってくれる博識の友人を相手にし
ているようで、疑問に思うことについて、ひたすら質問を繰り返しながら、自分の頭の中を整
理していくということを続けている。既に似たようなことを行なっている人も多いと思うが、
ほんの少し違う質問「なぜ?」で大きく異なる回答を得られるのもChatGPTなので、参考に
してもらえれば嬉しい。


例えば以下のような『The BIM Manager』の翻訳であるが故のややこしい文章も、ChatGPT
を使うと内容を理解する上でのストレスを減らせる道具になる。
ここで著者は設計、施工、運用の各プロセスでは、プロジェクトチーム間で情報を絶えず複雑
に送ったり引き出したりする必要があり、その情報交換には文脈が存在していると解説した上
で次のように述べている。

   BIMに関しては、BIMはどの関係者が関与しているか、どのプロセスが実行されている
   か、そしてもっとも重要なのは、どの情報を交換する必要があるかを定めた情報提供マ
   ニュアル(Information Delivery Manual : IDM)です。IDMの出力は、その特定のタ
   スクを実行するために必要な情報交換要件です。これらの要件は、IFCスキーマのサブ
   セット、つまりモデルビュー定義(Model View Definition : MVD)として記述できます。
   したがってIDMおよびMVDは情報交換のコンテキスト(文脈)を提供する事になりま
   す。IDMおよびMVDは、具体的なトランザクションの必要性を説明しこのトランザク
   ションのコンテンツをIFCの言語で定義します。
   (『The BIM Manager』(3.2 コミュニケーション理論におけるBIM p.66より)

これをChatGPTに「理解し易い平易な日本語にして下さい」と依頼すると、次のような返事が
返ってくる。

   BIMは、建物の(3Dモデルを使って:筆者注)設計や施工、運用に関わる関係者が、
   誰が関わるのか、どんな作業が行われるのか、そしてどんな情報をやり取りする必要が
   あるのか
を決める仕組みです。
   このために使われるのが「情報提供マニュアル(IDM:Information Delivery
   Manual)」です。IDMでは、作業ごとに必要な情報交換の計画を立てます。
   たとえば、「設計者が施工者に柱の位置や寸法を伝える」「施設管理者に空調設備の型
   番を共有する」といったやり取りが計画されます。
   IDMで決められた情報交換のルールは、IFC(建物データの標準フォーマット)の中で
   表現されます。その中から、特定の目的に必要な情報だけを取り出して整理する仕組み
   を「モデルビュー定義(MVD:Model View Definition)」と呼びます。
   簡単に言うと:
 
   1.    IDMは計画書
        • 誰が、どの情報を、いつ交換するのかを決める。
   2.    MVDは具体的なルール
        • IFCのデータから必要な情報だけを取り出す方法を定義する。
   これらの仕組みによって、関係者が情報を正確に共有できるようになり、作業の流れが
   スムーズになります。また、MVDでは情報をIFC形式で整理し、具体的な内容を技術的
   に表現します。このように、IDMとMVDはBIMでの情報交換を計画し、実行するための
   重要な道具です。

ここで質問を止めては駄目で、次に上記下線部の「MVDでは情報をIFC形式で整理し、具体的
な内容を技術的に表現します」とはどういう意味ですか、と質問すると詳しく説明してくれる
(ここでは紙幅の関係で省略)。『The BIM Manager』を読みながらこれを繰り返していく
と、少し時間がかかるかも知れないがBIMについて理解が深まり、再読の成果としては非常に
良いものになっていくと実感している。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長