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コラム

BIMプロセス改革がもたらす建築の価値

2026.05.12

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

1.BIM活用の成熟度を問い直す
BIMは普及している。しかしその真価は発揮されているのだろうか?
建築分野におけるBIM活用率は、一定の水準に達している。筆者の所属事務所においても、活
用率はほぼ100%である。しかし、「活用していること」と「成果が最大化されていること」
は同義ではないと考える。実務の現場では、効率化や品質向上という観点において、なお改善
の余地があると感じている。その一例として、若手設計者や技術者からは、「BIMは使えてい
るが〈モデルとデータの組み立て方と連携〉さらに〈目的のイメージやデザインプロセス〉
とが必ずしも一致していない」という声を耳にする。
BIMテンプレートやレギュレーションは整備されている。それにもかかわらずBIM設計プロセ
スの思想が統一されていない要因は、BIMを3Dモデルツールとして捉える意識が依然として
強いことにあるのではないだろうか?
周知のとおり、BIMの本質は形状+インフォメーションデータの統合と共有にある。さらに言
えば、「時間軸を持った情報の連続性」こそが、最大の特徴である。
そこで本稿では、現場で今直面しているこれらの課題と、それに対する現時点での打開策につ
いてお話ししたい。

2.BIM設計プロセスにおける二つの構造的課題
■デザインプロセスとモデル作成フローとの連携不足
第一の課題は、デザインプロセスとモデル作成フローが十分に連動していないことである。
設計与件を3Dモデル上で管理する取り組みは以前から行われてきたが、その多くは形状と限
られた情報管理にとどまっていた。特に初期段階における要求空間や関連情報をベースとする
デザインプロセスは、自由度があるために、設計者によって異なるのが一般的である。
しかし、この初期段階の判断は、その後の建築のデザインや機能の方向性を決定づけるきわめ
て重要な局面でもある。ここに指針を与えることで、デザインプロセスとモデル作成フローを
結びつける明確な連携手法が確立されると考えている。
■分野間データ連携の機能不全
第二の課題は、分野間におけるデータ連携が十分に機能していないことである。
建築設計は3Dを中心に進められている一方で、エンジニアリング部門との情報共有はいまだ
に2Dベースに依存する場面が多い。構造、設備、コスト計画における各種計算も、それぞれ
独自の手順やルールで進められており、BIMが本来持つ情報共有の力が十分に活かされていな
い。その結果、時間的ロスや品質のばらつきが発生し、ミス抑制にも限界がある。この構造は
抜本的に見直す必要があるだろう。

3.改善に向けた三つの取り組み
これらの二つの課題を解決するために、現在取り組んでいる三つの施策を以下に示す
(1)デザインプロセスとモデル作成フローを統合する3D-Box(仮称)
デザインプロセスとモデル作成フローの連携課題に対する対応策とし、「3D-Box(仮称)」
の活用を開始しているこれは設計プロセスさらにはプロジェクト全体のプロセスを通して
空間単位で情報を統合・管理する仕組みであり、BIM設計プロセスの改革に直結するものであ
る。
このプロセスでは、各室・各空間をBoxとして定義し、設計仕様、基本情報、設計性能などを
マスタデータとして管理する。これにより、関連する分野が必要な情報を迅速に参照・出力で
きる環境を整える。さらに、プロセスの経過、検討履歴や意志決定の過程をトレース可能とす
ることで、設計プロセスそのものを「価値ある情報資産」として蓄積する。
この仕組みは、設計初期段階の検討スピードを高めるとともに、品質の向上および後戻りの抑
制にもつながる。
(2)3D設計の徹底とデータの最適化
あらゆるデータを3D化することは重要である。ただし、すべてを重厚にデータ化することが
目的ではない。鍵となるのは、「いつ」「誰と」「どのような情報」を共有するかを明確にす
ることである。維持管理までを視野に入れた場合、求められるのは軽量でありながら展開力を
持つデータである。
目的を押さえた「適切なデータ設計」こそが、品質向上と効率化の基盤となる。
(3)エンジニアリング分野におけるAI活用
建築プロセスにおいて時間を要するのは、各種エンジニアリング計算とその入力作業である。
3D・2DデータをAIで読み取り、「統合データベース」(仮称)へ自動入力し、計算を学習・
実行する仕組みを構築する。実証実験においては、すでに実用可能性が確認されつつある。
最終的には、統合データベースから各種アウトプットを生成する循環型の仕組みを実現し、大
幅な時間短縮と業務効率化を図る。

4.BIMが目指すべきプロセス
BIMプロセスの目指すべき姿は、単なる設計支援ツールを超えて、統合インフォメーション
データを連続的に共有するとともに、それを支える適切な「データ設計」を確立し、時間軸を
内包する事業マネジメント基盤をつくることである。
そのためには、既定の設計プロセスや手法から脱却し、オープン化・共有化されたBIMプロセ
スを確立し、実装していくことが不可欠である。変化と多様性が求められる環境の中で、事業
プロセスの初期から完了までを一貫して管理できるBIMプロセスへと進化させる段階に来てい
る。

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員