5日で子供と一緒に台湾の有名建築をできるだけ回る
2025.04.30
ArchiFuture's Eye 広島工業大学 杉田 宗
新年度が始まっちゃいましたね。今年は大阪・関西万博が開催され、なにかと建築のニュース
が多い年ですが、こういう時そこ海外にも目を向けないとと、家族で台湾に弾丸旅行へ行って
きました。きっかけは、私の研究室の大学院生大場風太による「5日で台湾の有名建築全部回
る」を読んだから。こちらに建築学生が旅行する上では十分すぎる情報がまとめられているの
で、詳細は検索頂いて、そちらをご覧頂くとして、今回のコラムでは子供を連れて海外に行く
親の目線で書いてみようと思います。その名も「5日で子供と一緒に台湾の有名建築をできる
だけ回る」です!
旅行の準備
今回は2月末から3月頭の5日間で行くことにしました。私の場合、広島空港を使うか、福岡空
港を使うかで費用やスケジュールが大きく変わるので、1週間ほど毎日Expediaをチェックし
ながらどのルートが良いかを見極めていました。ホテルとのセットで安くなる買い方もありま
したが、その時点ではどの都市にどれだけ滞在するか決まっていなかったので、まずは飛行機
を押さえました。最終的に岡山空港発のタイガーエアにしました。中国地方にお住まいの方は、
これが一番安い選択肢じゃないかと思います。ちなみにホテルはBooking.comで探しました。
我々は子供3人の5人旅行のため、部屋のベットの数など細かな情報を比較しながら探せる
Booking.comが一番良かったです。
旅行の目的はもちろん建築巡り。妻や子供たちには悪いですが、今台湾の建築を見ないで帰っ
てくるわけにはいきません。九份とか高美湿地など、インスタ映えしそうな観光地は沢山ある
のだけど、それは2回目でも行ける。今回はとにかく「有名建築をできるだけ回る」が目標で
す。とは言いつつ、子供を連れての移動なので都市部から離れたところまで果敢に攻めるわけ
にはいきません。今回は最低この3つを見ることにしました。
・台北表演芸術中心 Taipei Performing Arts Center(OMA)
・台中国家歌劇院 National Taichung Theater(伊東豊雄)
・高雄港埠クルーズターミナル Kaohsiung Port Cruise Terminal(Reiser+Umemoto)
台北→台中→高雄を効率よくまわるために新幹線(台湾高速鉄道)を使います。海外からの
旅行者にはTaiwan High Speed Rail Passがお得です。私が購入した3日間の乗り放題パスは
2,200TWDだったので、日本円で1万円程度。子供たちは5,000円で新幹線が乗り放題になる
のはお財布にやさしい。事前にKKdayで事前購入しておいて、現地で初めて乗車する際にチ
ケット売り場でパスを受け取りました。台湾の新幹線は日本の新幹線をベースにしています
が、各駅は日本の駅とは比較にならないスケールの建築が多く、それを見るのも楽しめます。
Taiwan High Speed Rail Pass
台北
午後遅くに岡山空港を出て、夕方台北の桃園空港に到着しました。まずは台北駅近くに予約し
たホテルに向かいました。事前に「入口を探すのが難しい」という投稿を見ていたので良かっ
た。本当にどこがホテルなのか分かりません。大きな雑居ビルの一部分がホテルになっている
パターンがあり、今回もそういうホテルでした。ビルのロビーみたいなところを通り、そのビ
ルで働いているようなおばちゃんと一緒にエレベーターで上階に向かうと急にホテルのフロン
トが現れました。妻も子供も不安そうでしたが、こんなことで驚いていたら海外では暮らせま
せん。
その夜は北京駅のフードコートで夜市の練習みたいな夕食で済ませましたが、レストラン街に
ある日本チェーンの多さには驚きました。台湾が親日なのは知っていましたが、ここまでだと
は想像していませんでした。コンビニにも日本語表記のままのものが沢山並んでいます。メイ
ンランドとの関係の裏返しが日本に向いているのだと実感します。隣の国なのに、知らないこ
とが沢山あります。
翌日はOMAの台北表演芸術中心に行きました。公式HPでいくつかのツアーが行われているこ
とを確認していましたが、DAILY TOURは所要時間1時間で中国語のみのツアーなので今回は
パスし、シアターの隙間を抜けていくルートを歩けるPUBLIC LOOOOOOPに参加します。今
のところ、水曜~日曜毎日行われていて、現地で13:45に整理券が配られます。我々は少し早
く着いたので、私はAUDIO GUIDEを借りて1,2階のパブリックエリアを見学しました。
台北表演芸術中心 Taipei Performing Arts Center(OMA)
PUBLIC LOOOOOOPの整理券
とにかくインパクトのある外観が特徴的なこの建物ですが、その内部はとても複雑です。
PUBLIC LOOOOOOPはシアター同士がぶつかった部分や重なった部分に作られていて、この
建物の最も難しいところを巡るようなツアーでした。子供たちもとても興味を持っていたので、
家族で行っても十分楽しめます。建物周辺には夜市があるらしいので、次回は夜に行ってみた
い。その方がこの建物の本当の魅力が感じられるかもしれないと思ってます。
午後は迪化街に行って、買い物したりカフェでゆっくりしたり。古い町並みの中に古いものと
新しいものが混在していて、日本では味わえない独特な時間が流れています。しかし、乾物街
に入ると独特なにおいに子供たちがやられてしまいました。私も子供の時に中国に行って同じ
経験があります。においに敏感なお子さんをお持ちの方はちょっと気を付けたほうがいいかも。
2日目は子供たちが一番楽しみにしていたTaipei101へ。もうできてから20年経つのでそれな
りに落ち着いてるかなと思っていましたが、低層部の商業施設も、展望施設もピッカピカで驚
きました。個々の店舗の規模やお金のかけ方も日本を超えていますね。フードコートもすごい
店舗数で、どこも人でごった返しています。子育て世代には助かるフードコートですが、ここ
はちょっと価格設定が高すぎ。家族全員でがっつり食べると後悔します。
Taipei101低層部の商業施設。ラグジュアリー感が溢れてます
Vincent Callebautによる高級住宅も良く見えます
台中
Taipei101を出たら、その足で新幹線に乗って台中に向かいました。同じ日の夜には高雄で友
人と会う約束があったので、台中では数時間の滞在です。駅の近くに有名な宮原眼科があるの
で、そこで妻になにかかわいいものを買ってあげて、そこから台中国家歌劇院に行く計画です。
しかし、駅に降りると様子が違う。そうです、新幹線の駅は台中駅とは別なんですね。宮原眼
科なんて行く時間無い。日本を訪れる外国人旅行客も大阪や神戸、横浜で同じような経験をし
ていることでしょう。仕方ないので、Uberを読んで台中国家歌劇院に向かいました。
私はゲントのコンペから、台中ができるまでをずっとフォローしていましたし、ペンシルバニ
ア大学ではセシル・バルモンドから何度かこの建築のことについて教えてもらったこともあり
ました。車から降り、長年の思いがやっと実現した瞬間を味わっていたら、長男が「鼻の奥の
ような建築だ!」と言いました。今それ言うか?と思いましたが、以前伊東さんが「喉の奥は
中か外か?」というお話をされていたのを思い出しました。建築を通して誰にでもわかるよう
な形でその思想を伝えられているのだと思うと、改めて凄い建築家だなと思うのです。
台中国家歌劇院 National Taichung Theater(伊東豊雄)
台中国家歌劇院の2F。横に伸びる1Fに対して、2Fは縦に伸びる空間
こちらも内部に入ると見たことのない空間が広がっています。ミニマルサーフェースが上部へ
の吹き抜けや横の空間への繋がっていて、どこまででも連続していくような錯覚を受けます。
床面や天井といった水平面と、外壁である垂直面以外はほぼすべて曲面の建築。洞窟のような
雰囲気を持ちつつ、やわらかい光で人々を迎え入れるやさしい空間は必見の価値ありです。
我々が訪れた日には1Fに小さなお店が沢山出店していて、妻はそれを見るので1時間過ぎてし
まいました。子供たちのお気に入りは手入れが行き届いた屋上庭園だったようです。地元の人
も沢山いて、とても愛されている建築だなと感じました。
高雄
もう少し台中を楽しみたいところでしたが、また新幹線に乗って高雄へ移動しました。夕食は
大学時代の友人家族と一緒に鼎泰豊で小籠包を食べました。どの店舗も待ち時間が長く、旅行
中の貴重な時間を行列で過ごすのはつらいですが、整理券をもらえば指定の時間まで他のこと
が出来ます(我々のは全部友人が段取りしてくれました)。
3日目は友人からもらったおすすめリストの食べ物をうまく挟みながら高雄の建築を見ました。
まずは駁二芸術特区からスタート。古い倉庫や工場を活用したギャラリーやショップが並んで
いて、ここだけゆっくり見てたら1日つぶれそうです。ニューヨークで言えばチェルシーや
ウィリアムズバーグのような雰囲気。空地ではマルシェやってたりと、家族全員楽しめます。
また近くには港園牛肉麵や高雄婆婆冰があるので、おなかはそちらで満たしましょう。
六角形のファサードが特徴的な高雄ポップミュージックセンターを見ながら、高雄港埠クルー
ズターミナルへ向かいます。私は2010年にT社をサポートする形で設計コンペに参加していた
のですが、そのコンペで最優秀賞に選ばれたのがReiser+Umemotoによる提案でした。審査
結果が出た時には、くやしさだけでなく「こりゃー建たんよ」と思っていたので、数年後施工
中の写真を見たときには絶対に見たいと考えていました。
高雄港埠クルーズターミナル
Kaohsiung Port Cruise Terminal(Reiser+Umemoto)
高雄の海岸線にはユニークが建築が並んでいますが、その中でも異彩を放つ存在です。有機的
な形が一種類の外装材で作られているのでクジラのようにも見えます。1Fはフェリーターミナ
ルとしての機能がまとめられており、船がついていない日はクローズになるようです。我々が
行った日も1Fは真っ暗で、入口も閉まっていたので「閉館日!」と焦ってしまいました。しか
し、2Fのテラスに上がればこの建築をまじかで見ることが出来ます。また、海に向かって突き
出ている部分は2Fテラスから入ることができ、建物内部もここから見ることができます。内部
もクジラの体の中に入ったような雰囲気で、複雑に曲がり交差する空間がどこまでも伸びてい
くような建築です。飛行機や電車に乗る前とは一味違う体験ができるフェリーターミナルだと
思いました。
高雄港埠クルーズターミナルのタワー部分
高雄港埠クルーズターミナルの内部から外を見た様子。クジラの背骨のような天井が印象的
建築関係者、特にコンピュテーショナル界隈の人の大好物であろう複雑形状のパネ
リング
隣の国台湾
台中国家歌劇院に代表されるように、2000年代に話題となった国際コンペを経て実現した建
築が揃い、台湾の各地に今見るべき建築が沢山あります。ポンピドゥーセンターやルーブル美
術館のガラスのピラミッドが出来たころのパリのように、建築に携わる人でなくとも建築を見
に行く場所だと思います。それが、日本の隣の国なんだから是非休みを使って訪れてください。
1人旅行で沢山の建築を巡る楽しみ方もあると思いますし、建築や食べ物を楽しみながら家族
の思い出を作るのにも向いている、なんとも懐の深い国だと思います。
Taiwan High Speed Rail Pass