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コラム

パスタは食べるだけじゃもったいない

2025.09.02

ArchiFuture's Eye                  広島工業大学 杉田 宗

私が広工大で担当する授業の一つに「デジタルファブリケーション実習」という科目があるの
ですが、今日はそこで始めた新しい課題について紹介します。

「デジタルファブリケーション実習」は2年生前期の科目で、その前には「コンピュテーショ
ナルデザイン」でRhinoやGrasshopperに触れ、この後には「BIM実習」でBIMに触れる授業
があります。ソフトウェアの操作の習得に主眼を置いた2つの授業に挟まれる形で、「デジタ
ルファブリケーション実習」では、とにかくデジタルファブリケーションを使いながら実際
のものとして出力してみたり、デザインを具現化したりすることを目指しています。

この授業では、3つの課題に取り組みます。それぞれが、レーザーカッター・CNC・3Dプリ
ンタの特徴を理解し、これらでの加工に必要なデータを作る方法や作法を学ぶ内容になってい
ます。例えば第1課題では、600mm×400mmの厚紙1枚を使って1mの橋を作ります。まず
Rhinocerosを使い3Dモデルでデザインを進め、その後レーザーカッターで加工できるパーツ
に分解し、レーザーカッター用の加工ファイルを作成します。レーザーカッターを使えば、
5~10分程度でこれらのパーツの切り出しができるため、各グループは毎週試作を作り、その
強度を確認しながらデザインを進めます。モデリングとプロトタイピングを繰り返し、より強
度の高い橋のデザインを追求していく過程で、プロトタイピングを通したものづくりを実践す
ることになります。最後のテストでは、おもしを載せていき、何キロまで耐えることが出来た
かで成績を決めます。すべての課題は3人1組で取り組み、課題ごとにメンバーをシャッフル
します。今年は102名の履修者だったので、毎回34個の成果物が出てきます。

今年新しい課題に変えたのが3Dプリンタを使う第3課題で、そこでは「パスタ」を使うことに
しました。内容はいたって簡単、「一束のパスタを使って最も高いタワーを作りなさい」で
す。タワーの線材にパスタを使い、ジョイント部分はRhino+Grasshopperで設計・モデリン
グをして、3Dプリンタで出力したものを使います。また、タワーは紙皿の上に載っているこ
とも条件の一つとしました。
 

         モデリングの前にまずはパスタとマッシュルームで試してい
         たグループ

         モデリングの前にまずはパスタとマッシュルームで試してい
         たグループ


第1課題同様、この課題でも3週間の制作期間を設けちょっとずつデザインをブラッシュアッ
プしていきます。何組かは毎週ジョイントのデザインを発展させ、何個か出力して授業に持っ
てきていました。当初、彼らはジョイントの形だけを気にしていましたが、3Dプリンタで試
作してみることでどういう状況でサポート材が入るのかや、積層方向がどちらに向く方がよ
り強くなるのかを考えることになります。こういった3Dプリンタ特有の問題って、どれだけ
スライド使って説明しても学生には理解しにくい部分で、試してみることで初めて見えてくる
ところだと思っています。学生全員がそこに踏み込むきっかけを持つことがこの授業で最も大
切にしていることです。

最終テストにはすべてのグループが自分たちのジョイントを持って臨みました。まずすべて
のグループにパスタ一束を配り30分間で下準備(必要長さに切る)をさせました。その後ラン
ダムに最初の11グループを選び、30分間で組み立てをさせました。これまでは最終テストや
講評会までに成果物を完成させて持ってくるスタイルでしたが、最終テストで成果物を完成さ
せるのも良い。組み立て作業に各グループの特徴が良く現れるし、やってる方も、見てる方も
めちゃくちゃ盛り上がります。
 

         それぞれユニークなジョインを用意して最終テストに挑みま
         した

         それぞれユニークなジョインを用意して最終テストに挑みま
         した


         「パスタタワー」の下準備。こういうところから差が出る

         「パスタタワー」の下準備。こういうところから差が出る


         30分間で組立が進む

         30分間で組立が進む


パスタタワーは30分間が終わった時点で自立していないといけません。また、1200mmを超
えたらB、1800mmを超えたらA、2400mm以上ならA+、1200mm未満はCを与えることに
しました会場にレーザー墨出し器で高さのしるしを出し、そこに向けて11本のタワーが伸び
ていく様子はまさに広工大の摩天楼!2400mmを超えてA+をゲットしたグループは6つあり
ました。
 

         2400mmを超えるグループも多数

         2400mmを超えるグループも多数


         こんな綺麗な佇まいになるともはやパスタには見えません

         こんな綺麗な佇まいになるともはやパスタには見えません


1年目にしては上出来だった「パスタタワー」ですが、 学生たちも楽しんだ様子(クリックす
るとYouTubeへリンクします)
 非常勤講師をお願いしているSScaの稲垣友美先生が「パチ
ンコよりも面白かったと言ってる学生がいた」とおっしゃっていたので、その辺の学生にも刺
激も与えられたのなら大成功じゃないかと思います。また、前回のコラムである「広工大はデ
ジファブで「つくる」を加速します
」にて紹介させて頂いたH-Hubがオープンし、使える3D
プリンタの台数が増えたことで可能になった課題だと思いますま、サイズにこだわらなけれ
ば高性能の3Dプリンタが3万円くらいで買える時代なので、建築の学生は入学時にPCと一緒
に買ってもいいんじゃないかとも思います。

     今年M-Hubの中心的なラボとしてオープンしたFab Lab

     今年M-Hubの中心的なラボとしてオープンしたFab Lab


ただ、この「パスタタワー」をすると大量のパスタが残されます。私がお昼に食べてますが、
全く減っていく気配がありません。来年は「ソース」の方を考える課題を考えようと思って
ます。

杉田 宗 氏

広島工業大学 環境学部  建築デザイン学科 准教授