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コラム

建築BIMの時代36 FMとBIM

2025.11.25

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

彬子女王がマイブームである。といっても『赤と青のガウン オックスフォード留学記』と
『飼い犬に腹を噛まれる』を読んだだけなので、日頃のご活動やご業績を詳しく存じ上げて
いる訳ではないし、あたりまえだが、お目にかかったこともない。著作を楽しみにする一読
者である。読みやすく、面白く、すっと身体にしみこむような文章をお書きになるので、素
晴らしいお人柄で、繊細で柔軟な感性と卓越した頭脳をお持ちの方だと敬服している。
 
10月23日に開催されたArchi Future 2025でパネルディスカッション“建築業界の変革期に
おける発注者受注者の新たな関係 ―BIMデータ活用による協働のあり方と業界の未来―”
のコーディネーターを務めさせていただいた。建築に関係するさまざまな立場の方にご登壇
いただき、現状の問題やその解決の糸口について議論した。皆さんの日々の活動の何らかの
参考になったのでなないかと思っている。デジタルツールの発展と情報のデジタル化により
プロジェクト関係者間での情報共有が更に深まり、協働のレベルが一段上がることを期待し
ている。また、建築に関するさまざまなデータの価値を顕在化させることが必要だと感じて
いる。
 
建築のライフサイクルでみた場合、設計や施工といった建築生産段階におけるBIM活用は着
実に進んでいるが、それ以外の設計に至る前の計画段階や竣工後の運用や維持管理の段階で
は、BIMが全くといっていいほど活用されていない。日本ファシリティマネジメント協
会(JFMA)は、ファシリティマネジメント(FM)を「企業・団体等が組織活動のために、施設
とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」と定義している。施設の企画・計画
段階から設計・施工、運用・維持管理まで施設に関するすべての段階がFMの対象である。
FMからみると、BIMはFMほんの一部分でしか活用されていない。FMにとってもBIMにとっ
ても、少し悲しく、もったいない状態が長く続いている。JFMAのBIM・FM研究部会では、
運用・維持管理段階でBIMが活用されるよう活動を続けてきた。その成果の一つが、前回の
コラム
で紹介した『ファシリティマネジメントのためのBIM要件定義 EIR(発注者情報要
件)作成ガイド』である。FMでのデータ活用のきっかけとなることを願っている。
 
次の課題は、施設の企画・計画段階でのBIM活用である。企画・計画段階でのBIMの有効な
使い方を考えたい。建築の非専門家にとっては、図面よりもCGによる3次元モデルの表現の
方が空間を理解しやすい。しかしCGのための3次元モデルは、幾何学情報と色や材質を表現
するための情報でしかない。色や材質を表現するための情報をBIM的な情報にすれば企画・
計画段階での立派なBIMモデルになると思う。生成AIの力を借りればそれほど難しいことで
はないような気がする。簡単なスケッチから3次元モデルを作ってくれる生成AIがあると聞
く。建築の専門家でない人はスケッチを描くことにも抵抗があるかもしれないが、生成AI
に助けてもらいながらなら、自分の考えや思いをカタチにすることは可能だと思う。施設の
企画・計画段階で施設を使う人の意見、思いを反映したBIMモデルを起点として生産段階に
移行すれば、情報共有が更に深まり、協働のレベルが一段上がる。当然、運用・維持管理段
階で必要な情報も手に入りやすくなり、データ活用の幅も広がる。施設の企画・計画段階で
のBIM活用について考えたい。
 
この度『ファシリティマネジメントのためのBIM要件定義 EIR(発注者情報要件)作成ガ
イド』の出版記念シンポジウムを12月23日(火)14:00~17:00に東京で開催することに
た。参加費は書籍代込みで JFMA会員 2,640円 非会員 3,300円(税込)。参加者には
開催当日、受付にて書籍版が渡される。年末のあわただしい時期であるが、ご参加いただけ
れば有難い。会場などの詳細、お申し込みはJFMAのサイトをご覧いただきたい。

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部 室長