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コラム

白い襟と青い襟のあいだで

2026.03.19

パラメトリック・ボイス              髙木秀太事務所 髙木秀太

 イラスト:溝口彩帆

 イラスト:溝口彩帆


ブルーカラービリオネアとブルーカラーの逆襲
 
建設現場の人件費高騰が止まらない。
 
「ブルーカラービリオネア」。いつからこんな言葉が現れたのかは定かではないんだけど
ま日本の建設業界でも話題になっている。「カラー」というのは色のColorではなくて、襟の
Collar。知的労働を主とするホワイトカラーに対して、肉体労働を主とするブルーカラー。情
報化の時代においてこの30年間はホワイトカラーが優位の時代だった。でもいま状況が変
わりつつある。ブルーカラーが不足してしまって建物が建たない!AIの進化でホワイトカラー
の価値が揺らぎつつあるから、今後さらにブルーカラーの価値が上がるという予想もある。
「ブルーカラービリオネア」というのはそんな時代に台頭した新しい成功者=億万長者(ビリ
オネア)ってわけ。ちょうど先月、「ブルーカラーの逆襲」なんて扇動的な動画が日経でも特
集されたくらいにホットなトピックなんだ。

設計・建設はホワイトカラーかブルーカラーか
 
ところで、設計・建設業界はホワイトカラーとブルーカラー、どちらに分類されると思う??僕
は「どちらでもある」っていう認識。だからこの業界は、いつの時代も単純な二分法では語れ
なかった。建設現場を知らないデザイナーは建築家ではないと思うし、計画を立てられない現
場監督は施工管理者にはなり得ない時にはホワイトカラーとして計画をしないといけないし
時にはブルーカラーとして現場で汗水を垂らさないといけない。それこそがこの世界の醍醐味
だよね。
 

 イラスト:溝口彩帆

 イラスト:溝口彩帆

 
事件は現場で起きている
 
じゃあ僕は…どうだろう。髙木秀太は建築設計畑から生まれたプログラマ。建築設計の現場を
リスペクトしているつもりなんだけど、正直なところ僕は現場の経験が浅い。現場のヒリヒリ
するようなトラブルはむしろ「デジタル技術で事前に潰す」ことが求められる。もちろん、現
場管理を任されたこともあるし、モックアップ作成の実施を行ったこともある。現場の職人さ
んに怒られた経験だってそりゃ、何回かはある。けれど、片手で数えられる程度。現場の本当
の大変さやタフさを、僕はまだ十分には理解できていない。そのことが最近、もどかしい。現
場の切実な問題をもっと知りたい。変な言い方なんだけど、僕ら建築設計界隈のプログラマは
「現場でしか露わにならない問題」を、もっと経験すべきだと思っている。
 
いやこれは案外僕らみたいなプログラマに限らずなんじゃないかな。この30年ほど、建
築設計者も施工管理者もコンピュータと向き合う時間が増えすぎた。つまり、「襟が白くなり
すぎた」。僕らの最終ミッションは「建物をリアルな世界につくること」。リアルな世界が基
準であることを忘れてはいけないよ。デジタルの問題をリアルで解決するんじゃなくて、リア
ルの問題をデジタルで解決するのが目的なんだから。リアルが基準で、デジタルはそのための
手段。言い過ぎかもしれないけれど、僕はそう考えているよ。
  
書を捨てよ、町へ出よう
 
先日、寺山修司の名著「書を捨てよ、町へ出よう」を読み返した。僕の理解ではこの本は
「本(理論)なんてなんの役も立たない」という主張では全くなくて、「本(理論)をよく読んだ
なら、町(外)に出るべき。せっかく蓄えた知識を使ってみろ、そして、蓄えた知識が役に立た
ない瞬間を経験しなきゃ!それが”青春”ってもんでしょう?」っていうエールだと思っている。
本に代わってAIのおかげで知識や技術をとてつもないスピードで得られるようになって、誰も
がより優秀なホワイトカラーになれる時代がやってくるだからこそ僕らは積極的に「現場」
に出ていく「新時代のブルーカラー」になるべきなんじゃないかな。これから、うまくいくこ
とにも、うまくいかないことにも、現場でたくさん出会っていこう。まだ誰も知らない“青春”
がそこにあるんだ。

 イラスト:溝口彩帆

 イラスト:溝口彩帆