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コラム

シンガポールの国際会議で考えた、技術と現場を
つなぐこと

2026.07.07

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

シンガポールでの挑戦
2026年6月22日から26日にかけて、シンガポールで開催されたISARC(国際自動化・ロボッ
ト工学会議)とIGLC(国際リーン建設学会)の共同カンファレンス
に参加してきました今回
は、竹中工務店技術研究所のチームと共同で取り組んできた、BIMと4Dシミュレーションの活
用に関する研究について、“Schedule-Driven Lightweight 4D Simulation for the Setup
Phase: Enabling Practitioner-Led Construction Planning”
という題目で発表を行いました。


内容は4Dシミュレーションの動画と工程表をシームレスに紐づける仕組みについてです
段BIMモデルに深く触れる機会の少ない施工計画者が、日々の検討で簡単にデータを活用でき
るようにするためには、どのようなツールやインターフェースが求められるのか、という実務
に直結する研究です。


技術の「性能」よりも大切なもの
実はISARCの論文を書く前まで、ツール開発の論文といえば「自動化によって手作業がどれく
らい減ったか」「どれほどの時間短縮やコスト削減につながったか」という定量的な効果(ク
ライテリア)で評価されるものだと思い込んでいました。しかし今回の発表で私たちが中心に
据えたのは、そうしたツールの性能そのものではなく、「どのようなワークフローであれば、
現場の人がより自発的に使ってくれるか」という「アクセシビリティ(親しみやすさ・使いや
すさ)」の話でした。

普段、企業向けのデジタル教育や実務としてのツール開発に携わっているなかで、強く感じる
ことがあります。それは、どんなに性能が優れていて賢いことができるツールであっても、
ユーザーである現場の理解範囲を超えてしまったものは、決して使われないということです。
逆に言えば、技術的には極めてシンプルで効率もそこそこだったとしても、ユーザーが「これ
なら理解できる、自分でコントロールできる」と思える範囲の仕組みであれば、実際の検討に
使おうと思ってもらえる。ツールの普及には、こうした非常に人間的・心理的な要素が大きく
作用しているのです。

さらに言えば、そのツールを使うことが、自身の組織内でのキャリアパスやスキルセットとし
て魅力的かどうかも密接に関わっています。「便利だから」「高機能だから」というシンプル
な理由だけでは、現場のDXは進まないのだと痛感させられます。

10年前と、いまの視点の変化
私自身、10年前はまずは技術を向上させたい、プログラムを書けるよりなりたい、高機能で
CADを使いこなして、高度な自動化やデザインツールを作りたいという技術に対して高いモチ
ベーションがありました。現在ももちろん技術オリエントではありますが、今は私が使うとい
うよりもチームで使うにはどのようなツールが必要でワークフローが組めるかという所の方が
気になります。例えば、高機能なツールは使っていて心地よく、できることも多いのですが、
学習コストが高いためどうしてもユーザー数が限られてしまいます。さらに、その高度な機能
の裏側にあるAPIまで理解できる人はより限定的になり、結果としてコミュニティが小さく
なってしまいます一方で学習コストが低いツールは簡単に使えますが機能に制限があり、
限定的なことしかできません。簡単なUIのツールだといっても覚えるツールの数が増えれば、
どのツールが何に使えるんだっけと、何をどうするか覚える量が増えていきます。

今の私は、個人的には独自の高度なツールを作ることも、高機能なCADを使いこなすことも変
わらず楽しいと感じています。しかしそれ以上に、建築生産のチームとして、誰もがデジタル
技術に触れる「きっかけ」となるようなツールや教育を提供したい。技術へのアクセスを開く
ような仕事をしていきたいと、10年前よりもずいぶん考え方が変わったように思います。

AI時代に、人が集まり「言語化」する意義
今回のカンファレンスでは、世界中の多様な研究者と対話することができました。過去に
Siggraph AsiaやCAADRIAといった他の学会で出会った方々と再会を果たすなど、少しずつ
こうした研究者コミュニティの広がりを肌で学べている実感があります。

カンファレンスでは1日に十数個もの発表を聴きます。1人で黙々と論文を読んでいるだけでは
分からなかったことも、発表者にその場で直接質問を投げかけたり、分かりやすく工夫された
プレゼンテーションを見たりすることで、一気に理解が進む感覚があります。こうした貴重な
場を作り上げてくれている運営の方々には、本当に感謝しかありません。

「生成AIがあればわざわざ足を運ばなくても自分で勉強できる」という声もよく耳にします。
しかし、対面での熱量ある議論を通して初めて、自分が本当は何を考えているのかがクリアに
なったり、自分では当たり前すぎて気づかなかった「独自の視点」を他者に気づかされたりし
ます。仕事をしながらこうして国際会議に参加する意義を、改めて深く噛み締めました。

私たちコンピュテーショナルデザインに関わる人間は、手法を使って建築をつくる手伝いをし
ますが、その「手法」や「プログラム」自体はプロセスの一部であり、最終的な建築作品その
ものとして形には残りません技術が猛烈なスピードで進化し「誰でもコードが書ける時代」
と言われ、自分自身の仕事の価値が問われやすいいまだからこそ、このように自分の考えを論
文としてまとめ、言語化する意義を深く感じています。

もし、コンピュテーショナルな界隈で同じような葛藤や想いを抱えている方がいれば、ぜひ
日々の取り組みを論文にまとめ、カンファレンスなどの場に飛び込んでみることを強くおすす
めします。そこにはきっと、想像以上に素敵な出会いと、新しい自分自身の発見が待っている
はずです。

学生時代から議論や言語化能力に劣等感を感じていたので論文を書くというのは難しそうで
言語化することから逃げてきた部分でもありました。だからこそ、共同研究で協力してくだ
さった竹中工務店のチームの方々や、相談に乗ってくださった大学の先生方には深く感謝して
います。

AIに相談しても、この心理的ハードルは下げてくれない気がしています。生きた経験からの血
肉のあるアドバイスで、「やってみなよ」と今できないことに挑戦させてくれる、そんな温か
い人たちに恵まれているのだと改めて気づき、人間と人間の出会いの素晴らしさに感動しまし
それこそが建設DXに今求められているもののように感じます世界中の人たちが同じ課
題感を持ち、業界発展へ向けて努力するという大きな使命感を感じながら、微力ながらも継続
的にこの仕事ができたらいいなと、改めて自分の仕事が好きになりました。

石津 優子 氏

GEL 代表取締役