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BIM世界における手段の目的化
2026.08.20
パラメトリック・ボイス 熊本大学 大西 康伸
ああ、世の中ここまで来たか。
維持管理のDXに取り組むため、BIMやクラウド技術を活用した維持管理情報マネジメントシス
テムの開発に着手した、という類の話を頻繁に耳にするようになった。
私の研究室ではかれこれ14年間、同種システムの研究・開発を続けているが、私の知る限りこ
の分野で新規システムの開発はこれまでさほど多くはなかった。
ビルメン会社は無論、ゼネコン、サブコン、組織設計事務所などによる、各社関わりの深い分
野での効率化や囲い込み、もしくは関わりは薄いがある種のビジネスチャンスを狙った参入に
より、この分野はにわかに活況を呈している。
まさに百花繚乱とも言えようが、結局作ろうとしている仕組みは大同小異。各社が巨額の資金
を注ぎ込みしのぎを削って開発を外注した先に待っているのは、メリットに見合わない維持費
をこの先ずっと必要とする、名前は違えど同じような仕組みが林立する状況、かもしれない。
誰が儲けようが知ったこっちゃないが、とにかく乗り遅れまいとし目的は後からついてくる、
そんな現状を陰ながら案じている。
過去のコラム「BIMで維持管理が変わるという幻想」で、今必要なのは維持管理へのBIMの導
入ではなく維持管理のDXである、と書いた。維持管理の現場はまさに絞りきった雑巾であり、
いくら絞ったところで得られる水分はたかが知れている。これは私が維持管理DXの世界へ足
を踏み入れた際に、共同研究先であったY設計事務所のIさんから伺ったフレーズである。その
時はよくわからず半ば聞き流していたが、今になってこの言葉が前に進もうとする私の肩にズ
シリとのしかかってくる。
求められるのは効率化ではなく、維持管理における新たな価値の創造。そこに行き着かなけれ
ば、支払ったコストに対して、あまりにも効果がなさすぎる。我々は2012年以来何度もつま
ずき、その度にこのことを思い知らされてきた。
では、維持管理における新たな価値とはいったい何なのか。それは間違いなくあると信じてい
るが、確たるものはまだ見つかっていない。
まずは現時点で比較的よく整ったシステムを共通のプラットフォームとしてとりあえず採用し、
新たな価値探しに対して投資し新しい市場を開拓することこそが、維持管理分野に必要なこと
ではないだろうか。各社がより良いシステムの開発を競うのは、市場が認知され形成された後
で十分だろう。
新たな価値の創造を国主導で進めることができれば良いが、残念なから現時点では期待できな
い。
高齢化や人不足の波は、施工現場よりも前に維持管理現場に到来している。しかも、施工現場
と違いコスト転嫁がかなり抑えられている。近い将来、建物を作ってもちゃんと維持管理でき
ない時代は必ずやってくる。
新たな価値は、システムをいくら弄っても出てきやしない。建物のメンテナンスとは何か、オ
ペレーションとは何かを実直に知り、未来を想像し創造することから始まる。短期間でもいい、
維持管理現場での業務を経験してみてほしい。少しでもいい、今現場でぎりぎりでやっている
業務が、もはやできなくなる近い将来を想像してみてほしい。私自身偉そうなことは言えない
が、これまで現場で働く多くの人を見て、話を聞いてきた経験からそのように思う。
システムの開発には、徹底した現場の理解と未来の想像と創造が必要である。
2030年の未来を描いた士郎正宗原作の攻殻機動隊は、ロボットや人工知能、インターネット
などの未来を見事に予見したSF作品と言われる。無論、そのサイバーパンクの世界観は全く
素晴らしいのだが、それ以上に、私は、人工知能が自我を宿すことができるのか(フチコマ)、
逆に人がどこで自我を失うのか(義体や電脳とゴースト)、はたまた仏教思想のように自我を
世界に溶解し共同体を形成することはできるのかという、私、という存在にまつわる極めて哲
学的な問いが好きだ。
人工知能を研究すればするほど、人が持つ自我という謎多き存在について理解する必要がある、
こんなことを知らしめてくれる作品である。人工知能にまつわる刺激的な作品や調査・研究は、
他にあげると切りがない。
翻って維持管理分野はどうか。インスピレーションを与えてくれる作品や参考となり得る調査・
研究が、果たしてどのくらいあるだろうか。何も参考にせず開発されたシステムに、一体どの
ような価値がありどのくらいのコストが投じられるのか。
これが、私が案じていることの正体である。
人工知能と維持管理、この2つの分野を比べ論じることには無理があるかもしれない。しかし、
今まで漫然と言葉だけで捉えていた維持管理を、今一度しっかりと考える時期に来ているのは
間違いない。
建物を維持し、管理する。その意味を多面的に再考し深化させなければ、維持管理のDXに未来
はない。




























