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コラム

対話・雑談・議論

2026.09.01

ArchiFuture's Eye                 竹中工務店 山崎裕昭

前回のコラムで、BIMモデルなどのデータの価値を高め、良い意思決定に繋げていくためには
「対話」が重要であるということを書きました。今回は、その「対話」について考えてみたい
と思います。
 
「対話」とは
『対話:dialogue』はギリシャ語の『dialogos』に由来します。『ディア(分かちもつ)』と
『ロゴス(言葉)』から成る言葉で、つまり『言葉を通じて相互に理解を深め合うプロセス』
を意味しています。重要なのは「相互に」という点です。話し手が聞き手に対して一方的に話
して「話を聞いてもらえてスッキリした」と感じている状態は、一方通行の「独り言=モノ
ローグ」であり「対話」とは言えません。
 
次に、建設プロジェクトにおける日常会話や議論について比較しながら考えていきたいと思い
ます。ここでは、私が参考にさせていただいている書籍に合わせて「雑談」「対話」「議論」
の3つに分けて考えてみます。
 
雑談と対話
「対話」は自由なムードで行われるため参加者がオープンに共有できる状態が求められます。
その状態をただリラックスした雰囲気と考えてしまい、「雑談」と「対話」を同等のものと考
えてしまうことがあります。
 
「雑談」といえば、ふとした立ち話だけではなく、「飲みニケーション」や、建設プロジェク
トではまだ喫煙する方も多いので「喫煙所での会話」などがイメージに湧くと思います。私は
タバコを吸わないので喫煙所に頻繁に居座ることはなかったのですが、喫煙者である発注者や
設計者 、職長や職人さんとたくさんコミュニケーションをとっている施工管理者を見て、羨ま
しく思うこともありました。
 
「雑談」の弱点
それらの特定の場所で行われる場合の「雑談」の弱点としては、視点が偏ってしまう可能性が
あるということが挙げられます。飲酒や喫煙をしない人もいれば、家庭の状況によって飲み会
には参加できない人もいますし、そういう場が苦手な人もいます。結果として、その場にいる
限られた人の中でのコミュニケーションとなり、参加できない多様な人が持っている視点が生
かされない状態になります。結果的に「煙が立つ前に課題に気づく」機会を失うことになりか
ねません。
 
飲みニケーションや喫煙所でのコミュニケーションが悪いと言いたいわけではありません。
「雑談」ももちろん大事です。逆に「関係性づくり」としては何よりも非常に有効な手段だと
思います。
 
しかし、多様な視点を活かして、煙が立つ前、つまり、問題が顕在化する前に、潜在的な課題
に気づくためには、飲み会や喫煙所ではない場所でも同じようなオープンな状態での「対話」
ができている状態を目指すべきでしょう。
 
対話と議論
次は「議論」との違いについて考えたいと思います。「議論」とは、複数人が物事を分析・検
討し合意形成に向けて判断・選択を積み重ねるプロセスです。「対話」が「理解を深め合う」
ことを目的とするのに対し、「議論」は「意思決定する」ことを目的としています。
 
建設プロジェクトでは意思決定を行うための「議論」が行われる場として発注者、設計者、
施工者、専門工事会社が参加して、さまざまな定例会議が行われています。また、BIMモデル
を活用した干渉確認会議や図面に関する会議も、意思決定を積み重ねていく「議論」の場と言
えるでしょう。それぞれの場において、さまざまな「もの決め」の期限が迫ってくる中、コス
トの増減に関するやりとりも含め、日々多くの「議論」を行いながらプロジェクトが進んでい
きます。
 
「議論」だけに目を向けてしまう
そのため、プロジェクト関係者の目線は「議論」ばかりを見てしまいます。「なんでわかって
くれないんだろう」「もっと早く言ってくれたら考えられたのに」「早く決めてくれないと困
る」など、「議論」の場で問題になっていることばかり頭に浮かんできます。そして、勝ち負
けを決めるディベートのようになってしまうこともあるでしょう。
 
そんな時こそ、その前提条件としての選択肢を今一度考え直したり、関係者の中での合意のた
めの評価基準を吟味しあったりすることが求められます。そこが「対話」の役目です。「議論」
を行っている最中であっても話し合いが行き詰まってきた時には、適宜「対話」に切り替え
前提の再確認をし、見えていない問題を発見することが大切です。

対話と議論は補完関係である 
「対話」と「議論」は補完関係にあります。「議論」を「対話」に置き換えるというわけでは
なく、また「対話」から「議論」へと移行するイメージでもありません(図中①)。初期は
「対話」をベースに課題を洗い出せる環境を作り、段階的にデータを用いながら「議論」の割
合を高めていくイメージ(図中②)が必要です。常に話し合いのプロセスの中で補完し合える
状態を作りながら、データを用いて、徐々に合意に達していくことになります。


つまり、対話と議論は「どちらが正しく、どちらが不要」「意思決定の場も自由なムードで」
といった話ではなく、それぞれの役割の違いをしっかりと認識し、関係性のプロセス(どう繋
げ、どう使い分けるべきか)を明確にすることが大事だということです。
 
データはそれ自体があるだけでは価値を生まない
BIMモデルをはじめとするデータは、それ自体があるだけで価値を生むわけではありません。
同じモデルを見ていても、設計者、施工者、発注者では、見ている観点や気になる違和感、判
断したいことが異なります。
だからこそ、BIMデータの価値を生むためには、データを共有するだけでなく、「議論」をす
る前に、そのデータをもとに関係者が「対話」することが必要です。「対話」によって、それ
ぞれの前提や判断基準が言葉になり、「何を確認すべきか」「どの情報を追加すべきか」「ど
の粒度で表現すべきか」が明らかになります。
その結果、BIMデータは単なる情報の集まりではなく、関係者がより良い意思決定を行うため
の「共通理解」
の判断材料になっていきます。
 
さいごに
こういった「対話」の話は、概念的、姿勢、マインド、気持ちといった精神論のように語られ
がちですが、私は再現可能な技術(スキル・技法)の要素が強いと感じています。
 
是非、プロジェクト運営でより良い意思決定を生み出すために、「議論」と補完関係にある継
続的な「対話」を技術的なものとして捉え、その間にある「情報・データ」に目を向けてみて
ください。いつもとは違う角度で「データ」のことを考えるきっかけになるでしょう。
 
今後は、こうした「対話」を実現するための具体的な「場の設計」についても、実例を交えて
書いていきたいと思います。
 
参考図書:
「ダイアローグ 対話する組織」(ダイヤモンド社) 著者:中原淳、長岡健
「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」(英治出版) 著者:デヴィッド・ボーム

山崎 裕昭 氏

竹中工務店 生産本部アドバンストコンストラクショングループ グループ長