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簡単なアンケートはたいてい面倒
2026.09.29
パラメトリック・ボイス 竹中工務店 / 東京大学 石澤 宰

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「簡単なアンケートにお答えください!」
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この一言に私たちは何回出会うのでしょうか。
ホテルの宿泊後、オンラインショッピングの購入後。飛行機やタクシーを降りたあと、病院を
受診したあと。新しいカードを受け取ったとき、外食から帰るとき、アプリを開いた直後(な
ぜ今!?)。行政調査、顧客満足度、保険、銀行、クレジットカード。従業員調査、研修フィー
ドバック、イベント後、大学の授業評価。学会、自治体、町内会。空港ではトイレの清掃度合
いの4段階評価まで見ます。
私たちが声を発することができる場があることは素晴らしい。それは大前提です。しかしそれ
にしたって多すぎやしないか。私たちは平均して一年間に何件ほどアンケートに答えているの
か。それに関する包括的な調査は調べたところ見当たりません。では調査するしかないか。こ
うしてアンケートに関するアンケートが爆誕する。地獄です。
幼少期を思い浮かべるに、子どもなのでそれほどアンケートされる場面もなかったものの、ど
う考えてもこれほど一挙手一投足にアンケートを取られた感覚はありません。たまに乗るタク
シーに「お客様の声」というハガキが据えてあるのを見て「声をハガキに書いてポストに入れ
る、とは?」と思ったくらいです。
コピー機がコンビニに置かれ、アンケート用紙が誰でもコピーできるようになる。Webフォー
ムでアンケートが取れるようになる。そしてGoogle FormsやMicrosoft Forms(←どうして
この2つは名前がカブったままなのか)が誕生し、アンケートの作成・回収・集計のコストが
大幅に下がった。そこから先のアンケート祭りは今も続く。
平成29(2017)年の総務省による「統計調査の負担感・重複感の実態に関する調査」とい
うものがあります。1年間に66.4~221.5件の報告等依頼が1企業に対してある(数字の幅は
資本金別に集計されていることによる)。対象企業の46.9%が「10年前と比べて依頼件数が
増えた」と回答。83.0%が国の統計調査への回答に係る負担程度を「負担」または「どちらか
といえば負担」と回答しています。
企業に対する報告等依頼は、担当者が他部署等にも情報提供を依頼する必要があるなど、私た
ちが想定するアンケートよりは大がかりで、同じ性質のものとは見なせません。ただ少なくと
も〈調査に回答する側の負担感〉は私だけの感覚ではない、とは言えそうです。ついでに同調
査で「強く負担を感じる」と回答した人は「統計調査間で調査事項の重複が多い」ことを特に
指摘した、というのも興味深い。「何回おんなじこと言わすねん」という私の中の積もり積
もった何かが共鳴しています。
年間かなりの数の調査に協力している。ということは、少なくともその件数だけの調査が世の
中に存在している。一方で、私が「調査によると◯◯%の人が……」や「最近の統計的な傾向
では……」と見聞きする結果に、私自身が直接回答したものがどれだけあるか。小規模の調査
が大きな発見につながることはもちろんある。それでも私が回答したアンケートの結果が私に
ほとんど返ってこないことは別の問題です。このアンケートははたしてどこへ行き、私(たち)
をどう変えるのか。私の中にあなたはいます。あなたの中に私はいますか。ガンダム詳しくな
いのに引用してすみません。
統計は間違いなくありがたい存在です。「私」の考えを「みんな」の考えに接続するとき、こ
れ以上に手堅い方法はなかなか見当たりません。「ピカチュウってネズミというよりウサギだ
よね」と「81%の日本人はピカチュウを『ウサギ』または『どちらかといえばウサギ』と思っ
ている」では立脚点が違います。あ、上記の統計は架空というかでっち上げなので引用しない
でください。
この口から出任せのウソ統計ときちんと作られた統計を、数字から見抜くことはほぼ不可能で
す。数字だけを見て、それが正当に集計されたものかを知る手立てはほとんどありません。そ
もそもデータの取り方自体にも様々な注意点があります。実施に同意はあるか、質問にバイア
スはないか、回答者に不利益はないか等々。これらは倫理的配慮でもあり、学術論文では投稿
先によっては人が関わるすべてのデータに研究機関の倫理審査を求めるものもあります。
ただ、もともとの狙いはそのようなところにはなく、「みんな満足ならそれでよし、何かある
なら改善します」という姿勢の表明にアンケートが選ばれやすい、という例が身の回りには多
いのでは。そもそも私たちはなぜアンケートを思いつくのか。「他所でやったアンケート、あ
れをうちでも使えばいいのではないか」というルートは少なくない気がします。
アンケートの設計にも実は様々な研究があります。すぐに役立つものとしては、満足度のリッ
カート尺度は5段階と4段階を使い分ける(「どちらでもない」を許容するかどうか)、「ど
の程度効率化しましたか?」のように聞かない(効率化していない選択肢を無意識に排除させ
ない)、「ツールは使いやすく、効果もあるか?」のような質問は2つに分ける(ダブルバレ
ル質問)などでしょうか。回答者への負担を減らし、有効回答率を上げるための手法は多く考
案されています。
ここまで来れば、アンケートをやるならAIが設計すべきでは、という話はすぐそこ。ところが
昨今回答したアンケートで、AIが関与して改善したと思わしきものが、まあ見当たらない。継
続調査では途中で質問を変えると変化が追いづらくなるなど事情はあるでしょうが、何かはで
きるはず。試しにお手近のアンケートをAIに分析してもらってみてください。いろいろ改善点
があるはずです。
バンドをやっていると、ライブ終了後にお客様からアンケートを取りたくなる。実際に自分の
バンドのアンケート用紙を配ったこともあります。しかし客としてはどうか。音楽に浸ってド
リンクを飲み、帰り際にあれこれ喋りたい。ライブとはそういうもので、その来客の声そのも
のを出演者が耳にすれば十分にも思えます。ならアンケート自体いらなかったかもしれない。
飲酒運転撲滅のスローガン「のんだらのるな、のるならのむな」は秀逸だと思います。なんか
これ的なものを作っておきたい。「そもそもとるな、とるならみせろ」。いや、だいぶゴツゴ
ツしていますが、言いたいのはそういうことです。上記は改善してから皆様にお出ししたいの
でこのまま使わないでください。お願いです。
そもそもアンケートを取らなくてすむ場合、アンケート自体をしない。賢い話のはずですが、
実施側にとってこの選択肢にインセンティブがないから「とりあえずやっとこう」になり、回
答者は少しずつ不便益を強いられる。典型的な外部不経済です。これはアンケートをとらずと
もわかる話ではないか、数人に深くヒアリングしたほうがよくわかるのではないか。必要な場
合でも、よりよくアンケートをとり、今まで以上にその結果を回答者に返すにはどうしたらい
いか。そうしたアンケート設計にAIはかなり役立ちます。そこまでできればアンケート用紙も
成仏できることでしょう。
ちなみになぜここまでアンケートの話を延々とするのか。それは今私が携わっている調査が、
建物に対する人びとの想いを分析することと深く関わっているからです。そのためには私もま
たアンケートを取る側に回らなければならない。そのあたりが出発点の一つです。
ただ正直に言えばたまたまこの1週間、忙しいところに加えて様々な調査の回答締切が重なり、
この時間を持って行かないでくれ……少しでもこの仕事を進めたいんだ……という思いが募り
募ったところでこの原稿を書いているからです。そんな境遇の方いらっしゃいませんでしょう
か。ぜひ皆様の声をお聞かせいただきたく、最後に簡単なアンケートにお答えください。うそ
です。



























