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AIは図面から「正しい寸法」を読み取れるか
2026.10.01
パラメトリック・ボイス 大阪大学 福田 知弘
はじめに:図面を「読むAI」から、情報を「結び付けるAI」へ
建築分野では、既存建物の改修や維持管理、エネルギー分析などにおいて、建物の情報をデジ
タル化することが重要になっています。その中核となるのがBIM(Building Information
Modeling)です。しかし、既存建物では、BIMが整備されておらず、手元にあるのは紙図面や
PDF、画像化された2D図面だけ、というケースも少なくありません。こうした図面からBIMを
作成するには、これまで人が図面を読み取り、壁や開口部などを一つひとつモデル化する必要
がありました。
近年、AIによる画像認識技術が発展し、図面から壁や部屋、ドア、窓などを自動的に認識する
研究が進んでいます。しかし、ここには一つ重要な問題があります。「壁がどこにあるか」を
認識できることと、「その壁が実際に何mmなのか」を正しくBIMに設定できることは、同じ
ではありません。
例えば、図面上で「2,400」という寸法文字が認識できたとしても、それがどの壁を指してい
るのかを判断できなければ、BIMの寸法情報として利用することはできません。そこで本研究
では、AIが読み取った「文字情報」と「図形情報」を結び付けることに着目しました。
2026年8月に学術雑誌 Automation in Construction にオンライン公開された筆者らの論
文 [1] では、図面中の寸法文字を単に認識するだけでなく、それを対応する壁や開口部などの
幾何情報と自動的に関連付け、BIMの寸法パラメータとして利用する手法を提案・検証しまし
た。
本稿では、まず論文で実際に確認できた成果を「事実」として紹介し、その後、それが建築・
都市分野の実務や、これからのBIM活用にどのようにつながっていく可能性があるのかを考え
てみたいと思います。
第1章 本論文で示した「事実」
今回の研究で取り組んだのは、注釈付きの2D平面図から、寸法を考慮したBIMを自動的に再構
築することです。
処理の流れは、大きく分けると「文字を読む」「図形を読む」「両者を結び付ける」「BIMを
生成する」という4段階です。
まず、OCR(光学文字認識)によって、平面図に記載された部屋名や寸法などの文字情報を抽
出します。さらに、OCRの結果を利用して寸法線や補助線などを除去し、壁などの建築要素を
認識しやすくする「OCR-guided denoising(OCR誘導型ノイズ除去)」を行いました。この
処理により、ResBIMデータセットでは、セマンティックセグメンテーションのIoUが52.16%
から87.37%へ向上しました。
次に、画像から壁や開口部などの幾何情報を抽出し、図面をベクトル化します。ここで重要に
なるのが、今回提案した「文字―図形の最適化ベースのマッチング」です。
例えば、図面中に「2,400 mm」という寸法があった場合、それを単なる文字列として扱うの
ではなく、「この2,400 mmは、図面中のどの線分・壁・開口部に対応するのか」を、位置関
係、方向、幾何的な整合性など複数の情報から判断します。そして、対応付けられた寸法を
BIMのパラメータとして利用します。
この仕組みの有効性を、BIMの参照データを持つResBIMで検証しました。また、BIMの正解
データを持たない公開データセットBRIDGEについても、実務的な観点から確認しました。
さらに重要なのは、評価方法です。従来の画像認識では、IoUなど「画像としてどれだけ一致
しているか」が主要な評価指標でした。しかしBIMでは、見た目が似ているだけでは十分では
ありません。壁の寸法は正しいか、位置は正しいか、窓やドアが正しい壁に配置されているか
といった、エンジニアリング上の正しさが求められます。
そこで本研究では、IFC(Industry Foundation Classes)を利用し、BIMの要素・寸法・配
置・ホスト関係まで含めて評価する仕組みを導入しました。
結果として、単純な全体スケール変換だけでは得られない局所的な寸法精度の向上を確認しま
した。また、アブレーション実験では、単純な局所マッチングよりも全体の整合性を考慮した
マッチングが有効であり、さらに重みを学習した最適化を加えることで、寸法正解率は
90.94%、配置正解率は80.25%まで向上しました。
つまり本研究で示されたのは、単に「図面をAIで認識できた」ということではありません。
図面に書かれた寸法という情報を、対応する建築要素と結び付け、BIMの中で計算可能なパラ
メータとして扱える可能性を、実験によって示したことにあります。

図1. AIによる図面理解からBIM再構築までの全体フロー。OCRで読み取った「寸法」という文
字情報と、画像から抽出した壁・開口部などの「図形情報」を対応付け、BIMのパラメータへ
変換する。

図2. 参照BIMと自動再構築したBIMの比較。図面中の寸法情報を利用することで、全体のレイ
アウトを維持しながら、壁の長さや開口部などの局所的な寸法を修正し、BIMとして再構築し
ている。
第2章 実務への展開と近未来像
今回の成果から見えてくるのは、2D図面からBIMを作る作業が、少しずつ「人が図面を読んで
モデルを作る」から「AIが図面の複数の情報を読み取り、相互に関連付けながらモデルを作る」
方向へ進みつつあるということです。
実務では、既存建物の図面をBIM化する「2D-to-BIM」は、改修設計、施設管理、エネルギー
シミュレーションなどへの展開が期待されます。今回の研究は、その中でも特に重要な「図面
から得た情報を、BIMで使える寸法・位置情報へ変換する部分」を対象としています。
もちろん、現段階ですべてを自動化できるわけではありません。寸法がない図面、文字が重
なった図面、複雑な注釈や不鮮明なスキャン画像では、認識や対応付けが難しくなります。ま
た、壁厚、階高、材料など、平面図だけでは判断できない情報もあります。
しかし今後、平面図だけでなく、立面図・断面図・建具表などの異なる資料、さらにはレー
ザースキャンによる点群などをAIが横断的に読み取り、「この情報は、この建築要素のこの属
性を示している」と関連付けられるようになれば、既存建物のBIM化はさらに自動化されてい
くでしょう。
その先にあるのは、単なる「図面のデジタル化」ではなく、建物に蓄積された多様な情報をAI
が読み解き、BIMという共通のデジタル基盤に統合する世界だと考えています。
最後になりますが、本研究で作成したコード、及び、データの一部はGitHubで公開されていま
す。また、本論文は当研究室の梁型(Xing Liang)君が第一著者の論文であり、梁君の博士論
文を構成する主要な研究成果の一つでもあります。
[1] Liang, X., Fukuda, T., Yabuki, N. (2026). Automated dimension-aware BIM reconstruction from annotated floorplans through optimization-based text–geometry matching, Automation in Construction, 191, 107204.



























