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コラム

コンピュータアート黎明期の
3N/AIプログラミング試行

2026.10.16

パラメトリック・ボイス

               コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 杉原 聡

前回のコラムでは、情報理論を基礎として美を数理的に捉えようとしたジョージ・D・バーコ
フ、マックス・ベンゼ、アブラハム・モルの仕事を紹介した。その中でもベンゼは、作品に含
まれる情報の構造を分析するだけでなく、アルゴリズムによって作品そのものを生成する生成
美学(Generative Aesthetics)へと研究を進めた。このような思想的背景と、1960年代に実
用化が進んだコンピュータ技術との接点から登場したのが、「3N」と呼ばれる、コンピュー
タアートの黎明期を代表する3人の作家である。ドイツのゲオルク・ネース、フリーダー・ネ
イクと、アメリカのA.マイケル・ノルである。1965年には、この3人の活動を含む複数の展覧
会がドイツとアメリカで相次いで開催され、コンピュータによって生成された画像が芸術とし
て提示された。
 
ゲオルク・ネースは数学と物理学を学んだ後、1950年代からシーメンスで数学者として働き
ながらプログラミングを行っていた。1964年にZuse Graphomat Z64というペンプロッタを
使って、ALGOL言語によるプログラムでアルゴリズミックな描画を始め、同年から
マックス・ベンゼのもとで博士研究に取り組んだ。ベンゼはネースの作品を自身の研究室の展
示空間で紹介し、1965年2月に開催されたcomputer grafik展では、コンピュータによって生
成された画像が展示され、これはコンピュータアートの最初期の展覧会の一つとされている。
ネースの博士論文は1969年に書籍Generative Computergrafikとして出版された。
 
ネースの重要性は、単にコンピュータで絵を描いたことにはない。例えば代表作「Schotter」
では、規則的に並んだ正方形が徐々に位置や角度を変え、秩序から乱雑さへと移行していく。
ここでは、作者が一枚の完成形を直接描くのではなく、規則、変数、乱数などからなる生成過
程そのものを設計している。これは、現在のコンピュテーショナルデザインにも通じる基本的
な考え方である。
 
フリーダー・ネイクはシュトゥットガルト大学で数学を学ぶと同時に、ベンゼの哲学・記号
論・美学の講義を受けていた。1964年にコンピュータとペンプロッタを使った彼の最初の作
品を制作し、1965年11月にはニース、ノルと共にComputer-Grafik展に作品を出展した。 ネ
イクの作品では、直線や矩形といった単純な要素が、アルゴリズムと確率的な処理によって複
雑な構成へ展開する。特に代表作「パウル・クレーへのオマージュ, 13/9/65 Nr. 2」などに
見られる、秩序と偶然の組み合わせは、ベンゼの情報美学をコンピュータ上の生成プロセスと
して実践したものと見ることができる。この作品は、パウル・クレーの1929年の絵画作品
「Hauptweg und Nebenwege」をオマージュしているが、クレーの絵画をそのまま再現する
のではなく、その構成に見られる水平的な帯や不規則な形態などを抽象化し、さらに乱数や円
を組み込んで、独自の生成システムへと変換している点が興味深い。
 
一方、A.マイケル・ノルは他のドイツ人の2人とは異なり、アメリカのベル研究所のエンジニ
アであった。1962年からコンピュータによる画像生成を始め、1965年4月にはランダムドッ
トによる立体視を考案した実験心理学者ベラ・ユレシュとともにComputer-Generated
Pictures展を開催した。ノルはFORTRANで記述した乱数と数学的規則を組み合わせて画像を
生成した。さらにコンピュータがピエト・モンドリアンの絵画を模して生成した画像と、モン
ドリアンの実際の作品を100人に比較させる実験まで行った。これは、コンピュータを単なる
描画装置ではなく、美的判断や創造性そのものを研究する装置として扱った点で非常に先駆的
であった。
 
これら3Nの3人の仕事に共通しているのは、コンピュータを利便性のための道具としてでは
なく、ルールを記述し、そのルールから予想外の結果を生成する装置として捉えたことである。
前回紹介したベンゼの生成美学が、ここで具体的なコンピュータ・プログラムによる作品生成
として展開されたと考えることができる。そして作品そのものではなく、作品を生み出す仕組
みを設計するという発想こそ、今日のコンピュテーショナルデザインにもつながる重要な出発
点の一つであると言える。
 
さて、今回著作権上難しそうであっため、上記の3人の代表作の画像を転載しなかったが、代
わりにいつもと少し異なる試みとして、これらの代表作3つの画像をAIプログラミングで再生
成してみようと思う。そして読者の方々にはGrasshopperユーザが多いのではないかと思われ
るので、Grasshopper Pythonコードの生成をClaude(Sonnet 5.5 High)で生成した。その
結果が以下である。
 
まずネースの「Schotter」を描くコードを生成して実行したのが以下の図1である。上述の元
画像と比べて高い再現性で生成されている。また、コードには結果を制御する入力変数も用意
されており、そのうち縦横の正方形の数を増やしたものが図2である。数はだいぶ違っても、
作品全体の印象は維持されている。

 図1 ネースの「Schotter」を模してAIが生成したGrasshopper Pythonの実行結果

 図1 ネースの「Schotter」を模してAIが生成したGrasshopper Pythonの実行結果


 図2 図1のコードの変数を変化させたもの

 図2 図1のコードの変数を変化させたもの


次に、ネイクの「パウル・クレーへのオマージュ, 13/9/65 Nr. 2」の再生成を試みた。
最初に生成したコードの実行結果(図3)では、元の画像と異なり、ランダムな斜めの線が、
左右に伸びる帯の一つに収まらずに隣接する帯にまたがっているものがあったり、垂直の線の
領域とランダムな斜めの線の領域が重なっている。これらの点を指摘してAIが修正したものが
図4である。そして、帯の数や円の数の変数を変更したものが図5である。

 図3 ネイクの「パウル・クレーへのオマージュ, 13/9/65 Nr. 2」を模してAIが生成した
 Grasshopper Pythonの実行結果

 図3 ネイクの「パウル・クレーへのオマージュ, 13/9/65 Nr. 2」を模してAIが生成した
 Grasshopper Pythonの実行結果


 図4 図3のコードをAIで対話的に修正したもの

 図4 図3のコードをAIで対話的に修正したもの


 図5 図4のコードの変数を変化させたもの

 図5 図4のコードの変数を変化させたもの


最後にノルの「Computer Composition with Lines」の再生成を試みる(モンドリアンの絵
画の再生成とも言えるが)。図6では元の作品では幅のある太い線が、生成されたものでは太
さの無い線になっている。そこで太い線を矩形の線で構成するようAIに修正を指示したものが
図7である。さらに、変数を調整して線の数と上下方向の密度のグラデーションの偏りを増や
したのが図8である。

 図6 ノルの「Computer Composition with Lines」を模してAIが生成したGrasshopper 
 Pythonの実行結果

 図6 ノルの「Computer Composition with Lines」を模してAIが生成したGrasshopper
 Pythonの実行結果


 図7 図6のコードをAIで対話的に修正したもの

 図7 図6のコードをAIで対話的に修正したもの


 図8 図7のコードの変数を変化させたもの

 図8 図7のコードの変数を変化させたもの


このように、画像を元に線画を再生成するのはおおよそ上手くいっているように見える。それ
に加えて、見た目から人間に想像できるプログラミングの論理も再現されている様子も、変数
を変えた結果から見て取れて興味深い。これはこれらの作品が生成の仕組み自体を表現してお
り、AIがそれを読み取って仕組みをほぼ再現できたためであろう。
 
ベンゼが理論として考えた生成美学、3Nの3人がプログラムとして実践したコンピュータによ
る生成、そして現在の生成AIという流れで考えてみると、それは、「美しい形をつくる」こと
から「美しい形が生まれる仕組みをつくる」こと、さらに「その仕組み自体をAIとともにつく
る」ことへという変遷として見ることができるであろうか。

杉原 聡 氏

コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 代表