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ユニークってなんだ
2026.11.04
パラメトリック・ボイス 髙木秀太事務所 髙木秀太

イラスト:溝口彩帆
秀太くんはとてもユニークです
小学校の通知表の通信欄に「秀太くんはとても元気でユニークです。もう少し落ち着きがある
となお良いですね。」と書かれたことがある。
僕の両親はそれを読んで、元気であることには「うん、そうであってほしい」、落ち着きがな
いことには「まあ、あんたのことだし仕方なし」というような薄い反応だったんだけど、”ユ
ニーク”という単語には大いに反応し、とても褒めてくれた。unique。不思議な単語だなあ、
と今にして思う。特徴的な言動、個性的な振る舞い、独創的な感性、そんなような意味として
受け取っていたのかな。日本語で使う「ユニーク」には、どこか「変わっていて面白い」とい
う響きがあるね。でも、本来のuniqueはもっと単純で、「ただひとつである」「他と重複しな
い」というような意味なんだ。
デジタルのユニークとリアルのユニーク
コンピュータの世界にもまた「ユニーク」という概念がある。たとえばデータベースでは、
一つひとつのデータを区別するために異なるIDを割り振る。同じ名前、同じ内容のデータが存
在したとしても、「001」と「002」という別々のIDが与えられていれば、コンピューターは
それらを別のものとして扱うことができる。つまりコンピュータには、「同じもの」を「ユ
ニークなもの」として扱う仕組みがあるんだ。
でも、ここでふと思う。そもそも現実の世界に「ユニークではないもの」なんて存在するのだ
ろうか。まったく同じ規格でつくられた二つのコップも、机の上に置けば座標が違う。一方に
は光が当たり、一方には影が落ちる。使われる人も、傷のつき方も違っていく。考えてみれば、
「ユニークではないもの」が存在するのではなくて、僕らがいろいろな違いを無視して「同じ
ものとして扱っている」だけなのかもしれない。

イラスト:溝口彩帆
すべて同じ部屋
建築では、このことがとても分かりやすい。マンションやホテルでは、同じ間取りの部屋をコ
ピーして横に並べる。設計図上ではまったく同じ形。僕らも「同じタイプの部屋」と呼ぶ。で
も、それぞれの部屋は最初から違っている。座標が違えば、太陽との関係が変わる。窓から見
える景色も、風も、音も、隣の建物との距離も違う。301号室と302号室は、図面上ではコピー
された二つの四角形だけど、現実世界に置かれた瞬間、それぞれ別の空間になる。
コピー&ペーストはあくまでデジタル上の操作。でも、この手法の問題点は、コピーしたこと
で生まれているはずの違いに、設計者である僕らが想いを馳せなくなってしまうことだ。「同
じタイプです」という一言で、本当はそこに存在しているたくさんの差異を見逃してしまう。
便利すぎるんだね。

イラスト:溝口彩帆
すべて異なる部屋
まったく逆の視点。1年ほど前、東京・湯島の集合住宅「天神町place」を内覧させていただい
たことがあった。建築家・伊藤博之さんの設計。2025年日本建築学会賞・作品部門の受賞作
として有名な作品だよね。この建築、35戸の賃貸住宅なのだけれど、なんと同じ間取りの部屋
がひとつもない。室内から望む立体的に連続する空間も、吹き抜けから入ってくる心地よい風
も、共用廊下から覗く特徴的な植栽も、それぞれがはっきり異なって感じられた。コピペの呪
いを逃れた、すさまじい発想のドライブを感じたよ。本当に素晴らしい空間だったんだ。
一方で、これをどのマンションでも計画するのは厳しいな、とも正直思った。だってそうで
しょう?全部の部屋のレイアウトが異なるなんて、建物を建てる側は大変。経済の原理には、
なかなか乗りづらそうだ。でもね、もちろん、だからこそ、この建築にはその原理を超えたと
びきりの価値があるんだよね。建築家には、誰も見たことのないユニークな世界を具現化でき
る魔法のような力がある。

イラスト:溝口彩帆
新しいユニークを求めて
僕らは今後、「ユニーク」をどう見なし、そして建築や都市の計画に援用していくべきだろう。
一見同じに見える空間に対して、「いや、本当はユニークなんだよ。そこに大切なものが隠れ
ているんだ、よく見てみて!」と、その違いに光をあててあげること。これは、建築計画をデ
ジタルで支援する僕らに課せられた重要なミッションのひとつだと思う。一方で、定型の空間
を繰り返さざるを得ない状況の中でも、「もう少しユニークさを創出できないだろうか。いま
は存在しない価値をつくり出せるはずだよ、最新の技術で応援するよ!」と発破をかけること。
これもまた、同じくらい大切な役割だと思うんだ。
すでにある小さな違いを見つける視点と、まだ存在しない大きな違いをつくり出す視点。その
両方が必要なんだ。世界はもともと十分にユニーク。建築設計にはまだ、コンピュータの力も
借りながら、そのユニークさを拾い上げたり、新しく生み出したりする余地がたくさん残って
いる。きっと、まだまだこれからも、僕らの発想から新しい「ユニークな空間」が生まれ続け
るはずだよ。



























