Magazine(マガジン)

コラム

BIMで後光差す建築をつくる?

2015.11.24

ArchiFuture's Eye                 日建設計 山梨知彦

■自然現象
先日、香港のビクトリアピークに昇った際、夕日に燦然と輝くビルが目に入った。
あまりにも印象的だったのでシャッターを切り、SNSにアップロードしてみたのだが、
Facebookでは440人が、Twitterでは150人が「いいね!」を返してくれた。
スカイ100と呼ばれる超高層ビルを素敵に見せていたのは、ビルのガラスが反射した夕日が海
岸線にかかる霧に乱反射して、可視化された自然現象であると思われるが、それにして印象的。
後光のようだ。偶然のなせる技は人為を超えている!といいたいところだが、チョイと待った。
 
■魔宮をデザインする
そういえば、古くからアドベンチャーものの映画にはこうした自然現象が偶然生み出す現象を、
きちんとデザインに取り込んだ建物がしばしば登場してくる。ある特定の日時が来ると、洞窟
の奥の神殿やら魔宮に光が届き、それがトリガーとなって大昔に仕込まれた大げさな仕組みが
動き出し、現代人を驚愕させる、その手のお決まりのシーンの主役は建築だ。
後半の大仕掛けをひとまず置くとすれば、光が特定の日にどこに差し込むかを予測することは
現代の科学であれば朝飯前の仕事である。そしてBIMのようなアプリケーションが出来たおか
げで、天文学的知識を持たなくても、僕らは光やそれが生み出す影を考慮した建築をデザイン
する能力を身に着けた。ただこれまでは、多くの建築家はそのノウハウを、日影規制クリアの
ためにもっぱら使うのみで、魔宮のデザインに使ってやろうとはしなかったようだが。
スカイ100に起きたような現象だって、霧が発生する地域特性を調べ、その季節や時刻の太陽
高度の情報を踏まえて建物の形状をデザインすれば、より高頻度で発生させうる。僕らは自然
現象の中で発生する現象をデザインする技術を、完ぺきとは言えないまでも、既にある程度持っ
ているといえる。魔宮のデザインはぐっと手元に近づいている。
 
■かたち、現象、アクティビティ、意味
BIMやコンピュテーショナルデザインはそもそも「かたち」をデザインすることを目指したも
のだったが、そこに風や光、それらが複雑に絡み合った温熱に関するシミュレーションとつな
がることで、形から現象へとその守備範囲を拡張している。BIMやコンピュテーショナルデザ
インにより僕らは「現象」をデザインすることに近づいているといえる。
かたちや現象をデザインできるようになれば、さらに次のステップは、人間が驚愕する様や、
魔宮に崇高さを感じること、即ち人間の「アクティビティ」や人間が感じる「意味」をもデザ
インすることを目指したくなる。事実建築のデザインはそんな方向へと歩んでたように思われ
る。BIMやコンピュテーショナルデザインは、今後はさらにそんな方向へと進んでいくのかも
しれない。スカイ100が放つ光にみとれながら、そんなことを考えた。


山梨 知彦 氏

日建設計 チーフデザインオフィサー 常務執行役員