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コラム

DigitalFUTURES2022
ワークショップ・フェスティバル

2022.06.23

パラメトリック・ボイス

               コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 杉原 聡

2020年のコラムでも触れたが、今回は国際建築教育/学術イベントDigitalFUTURESとその
今夏のワークショップ・フェスティバルについて記す。
 
DigitalFUTURESは2011年に同済大学の建築家Philip Yuan氏と当時南カリフォルニア大学の
建築理論家Neil Leach氏らにより始まった、コンピュテーショナル・デザインとデジタル・
ファブリケーシンを中心とした現代建築にまつわるワークショップと学会のイベントであり
2019年までは主に同済大学を会場として、Zaha Hadid ArchitectsのPatrik Schumacher氏
やZHA CodeのShajay Bhooshan氏、シュツットガルト大学のAchim Menges氏、ミシガン
大学のMatias del Campo氏など世界の建築家を呼んで夏にワークショップと学会を開催して
いた(図1)。
 

 図1. 2011~2019年に開催したDigitalFUTURESの様子

 図1. 2011~2019年に開催したDigitalFUTURESの様子


しかしコロナ禍により会場でのワークショップが困難となったときにワークショップも学会も
全てオンライン開催に移行して、それと同時に世界中の多くの建築家に声をかけたことにより、
ワークショップ・フェスティバル期間中、常に様々な時間帯で、世界に散らばる建築家によっ
て70を超えるオンライン・ワークショップが2020年の夏に開催された2021年にはその規模
が拡大し、ワークショップの数も100を超えた。2020年と2021年に筆者もワークショップを
行い、2020年の様子については過去のコラムに記したが、2021年には以下のような時間階層
化エージェントを利用したモジール型宇宙建築をデザインするワークショップを行った(図2)。

 図2. 筆者による2021年のワークショップ「 Hierarchical Modularity and Growability in
    Space Architecture」でのGiuseppe Bono氏と池本祥子氏による参加者作品発表

 図2. 筆者による2021年のワークショップ「 Hierarchical Modularity and Growability in
    Space Architecture」でのGiuseppe Bono氏と池本祥子氏による参加者作品発表


2022年の今年の夏のワークショップ・フェスティバルは、6月26日から7月3日に開催される。
今年は130を超えるワークショップがその期間中に予定され、その中には、新たな試みとして
追加された、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、アラビア語、ペルシャ語、トルコ語、
中国語韓国語、ギリシャ語、そして日本語の10の言語によるワークショップも含まれている。
テーマもロボット・ファブリケーション、AR、メタバース建築、人工知能建築、スペキュラ
ティブ・デザイン、コンピュテーショナル・デザインと幅広く、Philip Yuan氏、
Patrik Schumacher氏、Achim Menges氏、Philip Beesley氏など著名な建築家によるものか
ら、世界の若手建築家によるものまで多彩なワークショップが開催される。今年から開催とな
る日本語でのワークショップには以下の5つがある(図3)。
 ・鶴田航氏による、スイス連邦工科大を中心に開発中のロボット・ファブリケーションを
  視野に含むパイソンフレームワーク、“COMPAS”の入門ワークショップ
  「Programmings for Digital Fabrication in Architecture with COMPAS
 ・夏目大彰氏によるRhino, Grasshopper, Karamba3Dを用いた構造解析の基本からC#カ
  スタムコンポーネント作成RhinoComputeとPythonによる最適化など最先端までの構造
  コンピュテーショナル技術ワークショップ
  「構造コンピュテーショナルデザインの基礎から先端
 ・渡邊圭氏による、Python、Numpy/Matplotlib、GhPython、RhinoComputeとHopsを使
  いデータの作成・可視化・分析を行うことでデータドリブンな建築設計手法を学ぶワーク
  ショップ「Pythonで始めるデータドリブン建築デザイン
 ・近藤誠之介氏、田住梓氏、池本祥子氏による、伸縮する折り紙のような機構をもった展開
  モジュールのGrasshopperによる作成・多次元的な拡張・解析と評価を行うデザイン・
  ワークショップ「Reconfiguratable Architecture~再構成可能な建築を考える~
 ・筆者によるRust言語を用いてブラウザ上で3次元ジオメトリーを生成するエージント・
  ベース・シミュレーションを行うワークショップ「Rust/Webassemblyによるエージェン
  ト・ベース・ コンピュテーショナル・デザイン
この記事の掲載時にはワークショップの参加応募は既に締切られているかもしれないが、大
半のワークショップはYouTube、Facebook、またはbilibiliなどでライブ配信もされるため、聴
講に興味のある方は開催時期に各ワークショップのページをご覧頂きたい。
 

 図3. DigitalFUTURES2022での日本語によるワークショップ

 図3. DigitalFUTURES2022での日本語によるワークショップ


また、先日DigitalFUTURESの日本語チャンネルの立ち上げを記念してオンライン・シンポジ
ウム
(クリックするとYouTubeへリンクします)
を開催した。登壇者に秋吉浩気氏、
石津優子氏、井上修輔氏、クマタイチ氏、鶴田航氏を迎え、筆者が司会を務めて「日本とコン
ピュテーショナル・デザイン」というテーマで、日本のコンピュテーショナル・デザインの独
自性について話し合った。それぞれ異なる角度からコンピュテーショナル・デザイン/デジタ
ル・ファブリケーション/BIMへ取り組まれる登壇者達であるが海外とは異なる文脈で社会
や人へ目を向ける日本の状況について議論がなされたので興味のある方はこちらもご視聴頂
きたい(図4)。

 図4. DigitalFUTURES日本語シンポジウム「日本とコンピュテーショナル・デザイン」の様子
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のYouTubeへリンクします。

 図4. DigitalFUTURES日本語シンポジウム「日本とコンピュテーショナル・デザイン」の様子
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のYouTubeへリンクします。


また、夏のDigitalFUTURESイベントの一環として、Doctoral Consortiumという、博士課程
の学生向けではあるが一般にも公開されている講演シリーズも6月13日から7月2日の間に開催
される。前述のPatrik Schumacher氏に加え、建築理論/歴史化のAntoine Picon氏と
Mario Carpo氏、人工知能建築のパイオニアのDaniel Bolojan氏とMatias del Campo氏、
スペキュラティブ建築映像作家Liam Young氏など興味深い講演が並ぶので、興味のある方は
サイトまたは、YouTubeチャンネル(クリックするとYouTubeへリンクします)をご覧頂き
たい。
 
以上DigitalFUTURESの今年のイベントについて紹介したが、過去のワークショップや講演の
動画もYouTubeチャンネルに残されており、またこのように無償で共有されるオンライン教
育・知識リソースは、前回のコラムでも記した建築情報学会の活動も含め、世界中の建築や技
術に携わる人々により日々増え続け豊かになっている。読者の方々にもこれらを学びの機会と
して積極的に利用することをおすすめしたい。

杉原 聡 氏

コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 代表