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コラム

BIMとは何だろうか

2022.12.01

パラメトリック・ボイス                   熊本大学 大西 康伸

ずっと断り続けていたことがある。
 
有り難いことに、BIMの教科書を執筆してみないか、というお申し出を10年ほど前からちらほ
らいただいていた。教員を生業にしている以上、教科書を執筆することは期待される当然の役
割である。しかし、確たる意志もなくだが何となく困難な状況に直面するという直感により、
これまでそれを避けてきた。
 
実は数ヶ月前、某出版社からあるBIMソフトの教科書を執筆しないかというお話をいただいた。
例によってお断りしようと思っていたのだが、出版社が提案してきた共著者がN氏だったため、
今回は引き受けることにした。
N氏とは15年ほど前にそのBIMソフトのユーザー会で知り合った旧知の仲である。それを知っ
てか知らぬか、ユーザー会の活動に関して決して少なくない恩があり、またそのBIMソフトの
操作において相当の手練れであるN氏との教科書執筆を、あえて断る選択肢はなかった。
 
つい先日、N氏とオンラインで打合せをして、執筆の方針や分担を話し合った。その話の流れ
の中で、BIMソフトの操作法だけでは物足りないので、そもそもBIMとはどういうものでどん
なメリットがあるのかを書こうということになり、その章を私が担当することになった。
 
BIMとは何か。これは少なくとも私にとって大変難しい問いである。
もちろん、技術的な特徴を踏まえ、BIMのためのモデルやその入力のためのソフトとはどのよ
うなものか、を書くことはできる。しかし、BIMとは、と言った途端に、何から伝えればいい
か言葉に詰まる。実は自分はBIMの何もわかっていないのではないか、いや、そもそもBIMは
将来起こる事柄に深く関係するため現時点でその完全な解説は不可能なのではないかなどと
思考が停止してしまう。その上、学生や若い社会人向けの書籍である。BIMとはこんなものだ、
と知り顔で彼らに何を伝えるというのか。
考えてみてほしい。例えばスマートフォンを見たことがない人にそれは何かと聞かれて正確
に答えることはできるだろうか。
 
未来は予測可能で予測不可能である。本当の少し先の未来は、思い描いた通りの未来の中に、
大抵、少しだけ違う未来が混ざっている。BIMについて語ることは、建設業の未来について語
ることに他ならない。あれやこれやと好き勝手語ることはできても、教科書としてBIMの説明
や解説が果たして可能なのだろうか。
 
そこで考えたことがある。
建築に関係する様々な人々のその立場によって困り事は異なるはずで、BIMが何か困り事を解
決してくれるものだとすると、立場によって、BIMとは何かは異なるはずだ。BIMとは何かを
考える時には、誰にとっての、という言葉が必ず必要なのだという考えに行き着いた。今更と
いう感じもするが、実際この考えがなかったために、無意識に教科書の執筆から逃げてきたよ
うな気がする。
では、BIMの技術的な解説をして、それぞれの立場でBIMがどのような恩恵をもたらすかを若
干の期待を交えて説明をして最後にその事例を説明してと構成を組み立ててふと気づいた。
 
これってBIM Handbookそのままではないか。
 
2008年、建築情報界のゴッドファーザーであるChuck Eastman(1940年-2020年)らに
よって第一版が出版され15年ほど経た今も版を重ねBIMの教科書として色褪せない名著で
あるBIM Handbook私が15年前にBIMを学び始めて以来BIMについて解説した数少ない書
籍として研究室の大学院生と輪読を重ねてきた。


結局ここに戻ってきた自分の能力の平凡さに辟易するが、自身の置かれた立場から語るBIMが
BIMの全てであるという思い込みをすることがないよう、との天国からのメッセージに感謝し
たいと思う。
BIMという概念を、建築に関わる様々な分野で今後どのように生かしていけばいいのか。それ
を語り、実践し、反省することで、未来は切り拓かれる。それが一通り終わった頃、生きてい
れば改めて執筆したいと思う、BIMとは何だろうか。
 

大西 康伸 氏

熊本大学 大学院先端科学研究部 准教授