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コラム

BIMソフトウェアの操作マニュアルに惑わされない実践的なBIM活用を

2023.02.24

パラメトリック・ボイス                  日本設計 吉原和正

BIMの普及に向けた動きが本格化してきている中で、設備でBIMを活用するためのマニュ
アル類も徐々に整備されてきていて、様々なBIM講習のサービスも出てきているようです。
BIMガイドラインに則った解説がされているものもあり、これからBIMを活用しようとす
る方には、一歩目を踏み出しやすい状況が整ってきていて、数年前までの試行錯誤してい
た黎明期に比べると、かなり敷居が低くなってきているのではないでしょうか。
 
私が10年前にBIMに取り組み始めた頃のコンテンツでは、設備設計者の立場からすると、
余りにも実務とかけ離れた内容になっていて、ひたすら末端の器具と配管の接続に四苦八
苦するという、拷問のような講習を受けさせられて、BIMに嫌気が差してしまう、という、
散々なものだった記憶があります。これが、今まで設備でBIMが普及しにくかった、大き
な一因になってしまっていたとも感じています。
 
BIMソフトウェアは機能が複雑なこともあり、ひと通りの操作を理解するだけでも、膨大
な講習時間を要し、実務で一人前に扱えるようになるまでにはかなりの期間が必要になっ
てしまいます。
また、BIMの操作だけではなく、BIMのテンプレートやオブジェクトに組み込まれた仕組
みを理解して、自ら作成できるようになるまでには、さらに深いBIMソフトウェアへの理
解が必要です。しかも、ただ、理解するだけでは使えるようにならないので、とにかく、
ひたすら触ってみるという、ある程度時間を掛けて経験することが必要になります。
 
とは言え、残業規制もある中で、実務に携わっている方がBIMを習得するのは、容易なこ
とではありません。
もし、一時的に習得できたとしても、BIMを推進する立場の人やBIMオペレーターの方と
は違って、設計者自らが実務をこなす中でBIMソフトに触れられる時間は限られるので、
BIMの複雑な機能ゆえに、すぐに忘れてしまうことになってしまいます。
そのうち、結局は、設計者自らBIMを触ることを諦めてしまって、BIMはオペレーターや
外部協力事務所に丸投げするしかないという落ちになってしまいがちです。
 
だからこそ、BIMの教育は、BIMソフトウェアの操作マニュアルに偏らない、実務で必要
となる実践的なBIM講習マニュアルを整備することが重要です。
これは、BIMソフトに限った話ではなく、CADソフトでも、ワードやエクセルのような汎
用的なソフトでも同じことですが、実務で必要になる操作は、ソフトが有している機能の
ほんの一部しか使っていないはずです。
実務で繰り返し行う操作を中心に、設計者の目線で実践的に扱えるBIM講習マニュアルを
整備することと、それによる講習と実践を行なっていくことが、無理なくBIMを習得して
普及していくための重要なポイントだと思っています。
 
その視点がないと、思考回路がBIMの操作方法に埋め尽くされて、BIMモデルを作成する
ことだけに終始してしまい、そもそもの設計検討ができていなかったり、成果物としての
図面がおろそかになってしまったりという、本末転倒な事態に陥ってしまうことになりか
ねません。
 
設備設計の実務者の立場から、実践的なBIM講習マニュアルを整備してみると、あること
に気づきます。
それは、BIMソフトウェアの操作というよりも、エクセル等の表計算ソフトへのエクス
ポートやインポートの操作ばかりで、ほとんどがエクセル等で入力を行なっているという
ことです。
 



BIM以前の従来の設備業務においてもそうですが、常にCADソフトウェアで作業している
訳でもなく、どちらかと言うとエクセル等で作業していることが多いと思います。BIMを
業務に取り入れる場合にも、BIMソフトウェアだけで無理に完結させるのではなく、外部
データのエクセル等とデータ連携しながら、業務に落とし込むことが現実的なアプローチ
だと思っています。
そうすれば、先ほど触れたように、BIMソフトウェアの操作が、エクセル等へのエクス
ポートやインポートの操作だけで済み、BIMで業務を行う場合でも、今まで通りエクセル
等での入力作業を中心に業務をこなすことができるようになります(一応、BIMのデータ
構造についての知識は身に着けておいた方が良いですが)。
あとは、BIMソフトウェア上にインポートしたデータを元に、色の変更など多少の表示調
整をできるようになった上でPDFに書き出すことができればある程度活用できるようにな
るでしょうし、さらに機器ダクト配管ラックなどのBIMオブジェクトの位置調整や
修正を自らできるようになれば(BIMオペレーターや外部協力事務所が支援してくれること
が前提ですが)、十分設計者自らが実務でBIMを活用できるようになるはずです。
 
ただし、これは設計実務者のことであって、BIMを推進する立場の人は、一度はある程度
時間をかけて、とにかくひたすら触ってみるという経験をすることは避けては通れません。
BIMソフトウェアに余り触れもせずに、概念だけでさもわかったように、もしくは否定的
な論調を繰り返していると、肝心なことが見えずに、実務への落とし込みなど永遠にでき
ないでしょう。
 
BIMを一過性のもので終わらせず、実務で普及させていくためにも、BIMソフトウェアの
操作マニュアルに惑わされない、実践的なBIM活用を進めていきましょう。

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長