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ユーザー事例紹介

デジタルリレーで実現した某大学病院の設計プロジェクトでのBIMデータ活用<日建設計>

2023.03.08

日建設計が設計を手掛ける「某大学病院の新築プロジェクト」は、一般病棟以外の統合診療
棟を延床面積 約7万㎡で建設するという大規模なプロジェクトだ。
これまで設備設計のBIMといえば3Dモデルを作成した上で納まり検討をするイメージが先
行し、設計図書作成でのBIM利用や、本来最も利用価値があるモデルデータ活用はあまり進
んでこなかったが、同プロジェクトでは、基本設計の段階から意匠・設備・構造の分野を横
断したBIMのデータ活用を実践。そして、デジタルデータで部門を超えたデータコラボレー
ションにより、モデルデータを一元管理した。この「デジタルリレー」が、大規模プロジェ
クトの設備設計で、円滑な情報共有と、部門間の不整合防止と大幅な効率化をもたらすこと
になった。今回、このデジタルリレーやBIMで実現したコラボレーションの様子と可能性、
その中で発揮されたNYKシステムズの建築設備3次元CADRebro(レブロ)」の活用方法など
について日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループの浅川卓也氏と五明遼平氏に
お話を伺った

 某大学病院のパース(外観)

 某大学病院のパース(外観)


BIM=BI+Mという考え方で進んだ「デジタルリレー」
「某大学病院の新築プロジェクト」は、一般病棟以外の診療/検査/材料/手術/特殊病棟が納
まる統合診療棟を病院内の敷地に建設するという案件で、延床面積は約7万m2、地上8階・
地下2階、基準階のプランをもたない大規模プロジェクトである。
日建設計では2018年に企画・検討に着手し、2019年11月から本格的に設計を始めたが、
2020年初頭からコロナ禍で同社、建築関係各社が在宅勤務になり、リモートで協働せざる
を得なくなったという。この状況が浅川氏と五明氏をはじめとする設計チームの背中を押し、
新築の設計図全般をBIMで作成・共有などを行う、いわゆるデジタルリレーに挑戦すること
となったのである。

          株式会社日建設計
          エンジニアリング部門 設備設計グループ アソシエイト
          浅川 卓也 氏

          株式会社日建設計
          エンジニアリング部門 設備設計グループ アソシエイト
          浅川 卓也 氏


          株式会社日建設計
          エンジニアリング部門 設備設計グループ
          五明 遼平 氏

          株式会社日建設計
          エンジニアリング部門 設備設計グループ
          五明 遼平 氏


浅川氏と五明氏は意匠設計図構造図設備図をデジタルで繋ぐことで不整合防止、設計の効
率化が可能と考え、基本設計から実施設計、積算まで活用することを目標に掲げた。浅川氏は
「今回は3Dモデルで施工上の取り合いを解決するだけでなく、設計の初期段階で建物与条件、
設備仕様などの「BI」すなわち建物情報データを共有し、コラボレーションすることがポイン
トでした。特に、今回のような大規模案件では前倒しでBIを整理することは後の設計の手戻り
防止にも効いてくるのです」と取り組みの意図を説明する。建築設計では設計者エンジニアや
作図協力者など多くの人が関わり、短期間で作業をしてプロジェクトを進めるが、ツールもソ
フトも人も異なる中で協働するために、デジタルで繋いでいくことは必須であった。
また、建築図面は意匠図、設備図、構造図があって一つのパッケージになるが、それぞれの図
面を作成するソフトや環境が異なるため、これまで図面情報が繋がった作図は、それほどされ
てこなかったという。
「そのため、基本設計で建築のBIMやCAD図をもらっても設備設計側では、設備条件を固める
には多くのアナログ作業を伴うことが大半でした。今回は設計検討する中で出た課題を構造設
計者や意匠設計者と共有し、調整を行う設計プロセスにおいて、基本設計段階からデータコラ
ボレーションにより、設計情報 (BI) の整理、プラン調整 (M) の双方を、いかに効果的にでき
るかに重点を置きました」と五明氏は語る。
BIMは3Dモデルの作成がメインというイメージが色濃くある中で、浅川氏と五明氏はBIMの本
質は「BI」と「M」を繋ぐ“デジタルリレー”にあるとし、幅広いプロジェクトで活用できる考
え方だと説明する。

部門間のBIM図面調整にRebroを活用
デジタルリレーでは、クラウドで情報を一元管理し、主にRevit、Dynamo、Excel、そして、
NYKシステムズの建築設備3次元CAD「Rebro(レブロ)」を使いながらBIM図面を作成して
いった。例えば、設備設計で天井の懐の納まりを検討する場面では、梁下で500mmの空間が
取れていない個所を黄色く表示したという。


これについて浅川氏は、「意匠・構造設計者がRevitのモデル内に床下がり、梁、スラブ厚、
そして天井モデルを入れた上でDynamoを使い梁下の天井内空間が500mm不足している箇
所をデジタルによる見える化をおこなった」と説明する。これまでは梁伏図を見て、階高や
梁せいを確認しながら一つ一つ梁下の寸法が取れているか確認していたものを、BIMでは色
分けされて瞬時に把握できるのだ。
「カラー化した状態で共有できることは効果的でした。意匠や構造にも定期的にチェックし
てもらう際に調整するターゲットが効率的に絞られ、梁下スペースが確実に守られるように
なりました」。大規模な案件だが、部門を跨いで効率的な情報共有を実践できたと浅川氏は
振り返る。
そして、その結果を踏まえ納まり検討のBIM作図に活用したのが、NYKシステムズのRebro
だ。「自分たちは今回初めてRebroを扱ったのですが、簡易的に3Dモデルで作図したり、意
匠図・構造図と設備図の重ね図をつくる時にデータが比較的軽く、さらにCGを使った納まり
調整がし易いソフトだと感じました」と浅川氏。


ソフト連携を活かした設計手法
「意匠BIMのBIに基本的に部屋の面積と天高が設定されていれば、設備設計ではまずは照度計
算を進めることができます照度計算の結果を踏まえてExcelとDynamoを使いデジタルリレー
することで、意匠BIMに照明器具の自動配置をおこなった。そこから天伏図へ照明のプロット
が反映され、天井の空調機器を含めて初期段階から意匠・電気・機械の天井調整ができます」
と浅川氏。
「設備設計はExcelを使う技術計算が多いので、ExcelとBIMモデルをデジタルに繋ぎました。
さらに拡張した例として意匠BIMを使った外皮負荷計算ソフトから空調の計算ができ、機器リ
ストや動力リストを作成することもできました。そうした内容を部門間でキャッチボールしな
がら、プランの調整や納まり検討が的確にできました」と五明氏はさらなる効果を説明する。


こうしたプロセスで作成された意匠BIMモデルには、コラボレーションの中で決定した設計与
条件である温湿度、室圧、清浄度、BCP対応与件等設備諸元(BI)が入っています。「部屋の
壁が多少動いたり、位置が変わってもいったん入力したモデルの与条件情報を引き継いだ状態
でプラン修正され、その情報が設備設計へ戻ってくることは大きなメリットでした」と浅川氏
はデジタルのメリットを語る。
「BIの情報を実施設計まで完遂させるにはこれまでの設計に比べ設計時間は増えましたが、今
回設備の積算をRebroへ入れたBIM図面から積算ソフトと連携し、従来1ヵ月以上掛かるダク
ト・配管などの集計を僅か数日で終了しました。このように多少、設計段階で時間を要しても
最終的には時間短縮へ繋がるのはデジタルリレーの効果であるし、Rebroが積算ソフトとの連
携機能を持っているからできた成果でした」と浅川氏。

BIMモデル作成はこれまでの設計プロセスに似ている
BIMモデルを作成するのは、実は2次元の作図でしていたことと変わらないと言えますと浅
川氏と五明氏は断言する。これまでは手書き図面、PDF図面上に必要な情報を書き込むという
アナログ的に情報共有がされてきた。
「体験から言えるのはBIM図面でも同じやり方でできました。ポイントは、デジタルリレーで
得た設計情報、検討結果を設計メンバーがBIMオペレーターへ明確に「検討点、課題点」を共
有しフェィズ毎に関係者がBIMモデル上で検討課題を見える化整理ができればBIM図面を作
ることは2次元作図のやり方は殆ど変わらない」と二人は言う。


五明氏は「BIMというと設計者自らが複雑な3Dを操るようなイメージを持つ人が多いので
すが、オペレーターが入力したモデルを設計者がチェックして戻すサイクルができれば、
あとはオペレーターがスムーズに作成できるよう納まり断面を適宜考えることなどは同じ
です。私もそうだったのですが、3Dモデルがある程度できてくれば、自分でも少しRebro
で触ってみようという人も増えるでしょう」という。ただし、浅川氏は「他部門や協力事
務所とのデジタル連携や作業では、設計者がすべての調整を担うには時間とBIをコント
ロールするか知識が足りない今回のプロジェクトではデータをマネジメントしアシスト
するBIコーディネーターを2人置きそれがとても重要でしたこのコーディネーターがい
たことが大きなポイントとだったと言えるでしょう」と分析する。
今後は、施工BIMやFMにまでデジタルリレーを繋げていくことを浅川氏と五明氏は現実的
に考えている。「施工者はデジタルリレーで繋がった建築・設備・構造のモデルを受け取
れば自分たちの施工図検討も効率的になりますまた大規模病院では数万点に上る設備
機器の情報をデジタルで管理できれば、竣工後のFMでもより良い提案が行えるはずです」。
今回作成したデジタルデータのバトンは施工へと受け継がれ、今後もBIMデータのデジタル
リレーは続いていく。

「Rebro」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。