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コラム

BIMを合理的に活用するためのマインドセット

2023.05.09

パラメトリック・ボイス                  日本設計 吉原和正

どうも最近、BIMを推進している立場の人が、疲れ切っているように感じてなりません(自分
も含めて)。
BIMを活用すること自体が目的化してしまっていて、設計実務に携わっている人はいつものや
り方をほとんど変えることなく、BIMを推進する立場の人がその尻拭いをさせられている状況
にあるのではないでしょうか。
 
BIMを推進している立場の人や外部委託の人だけでBIMをやっている状況では、BIM化はでき
ているかもしれませんが、本来業界として目指していくべき設計や建設の合理化には程遠い状
況です。設計や建設の実務に携わっている人自体が業務を合理化するためにBIMを活用しない
限り、これを実現することはできません。
 
BIMを活用すればきっと良いことがあるはず、という幻想に振り回されて、BIMをやること自
体が目的になってはいないでしょうか。BIM活用の前に、BIM以前のそもそもの課題の方が問
題だったりするのではないでしょうか。
 
CADの時代に常態化してしまったアウトプット先行型の、取り敢えず図面にしてみてから本
腰を入れて考え始め、赤チェックしてひたすら図面を修正しまくる。そのような後手後手のや
り方を変えることなく、取り敢えずBIMモデルを作成させてから、設計の至らないところに気
がついて初めて本気で考え始めて、何度もBIMモデルを修正する。修正するのが、設計者自ら
であればまだしも、そのしわ寄せがBIMを推進している立場の人間に集中しているとしたら、
このままでは国内の希少なBIM人材が疲弊してしまい兼ねません。
 
実務の立場でBIMに取り組む際に、ある意味、ちゃんと手を動かして汗をかいて設計している
人にとっては、作業の大変さから、BIMを利用することで合理化が図れる余地が色々とあるこ
とに気づくと思うのですが、そもそも、手を動かすこともなく口だけでざっくりとした指示し
かせずに、ヨロシクやってもらっている人にとっては、BIMのメリットに気づくことは難しい
のかもしれません。
 
今まで自分で手を動かして設計をしていた人にとっては当然と思われるようなことではありま
すが、BIMを活用するためには事前に考え方を整理しておいた上で、具体的なもの決めをして
指示しないといけないことが色々とあります。
CAD図作成では曖昧なままで済まされていたことが、BIMを活用しようとすると、色々と露呈
してしまうのです。
逆に言うと、今まではざっくりとした指示だけで、優秀な人材の支えによって、ヨロシクやっ
てもらえていた時代の凄さを感じる訳ですが、この状況に甘えてヨロシクやってくれる人に頼
れるのも、そう長く続かないのではないでしょうか。
 
拾えない図面。矛盾だらけの図面。
既存建物をBIMモデル化するために、図面を元にBIMモデルの作成をしていると、様々な難問
にぶち当たります。図面のシンボルが具体的に何を示しているのか、同じ機器や器具が複数の
図面に登場し一体何台あるのか、図面間で不整合してどちらが正しいのか。などなど。
これらの矛盾を、今まで人間が読み解きながら、適切に解釈して、積算したり、モノづくりし
てきたと思うと、その凄さに感心せずにはいられません。
 
しかし、いつまで、適切に解釈してくれる優秀な人材が居続けてくれることやら。
意識改革は待ったなしのはずです。
 
合理的にBIMを活用するには、膨大なBIM界隈の知識を身に着けることや、BIMソフトの使い
方に詳しくなることよりも、それ以前のそもそものところで、意識改革しなくてはいけないこ
とがありそうです。
 
BIMを活用すればきっと良いことがあるはずという幻想で、BIM化を目的にするのではなく、
設計や建設の実務に携わっている人自体が業務を合理化するためにBIMを活用する。当たり前
のことですが、この実現がこれから求められていることではないでしょうか。


 

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長