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コラム

エネマネ、ウェルネス、レジリエンス 
あるいはBIM-FMの環

2024.02.06

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

すぐに気付かれてしまうだろうから最初に白状しておくと、今回のタイトルはダグラス・R・
ホフスタッターの大著ゲーデル、エッシャー、バッハ あるいは不思議の環へのオマージュ
である(パクリでは聞こえが悪いしパロディと呼ぶほど批判めいたことが書けるわけでもない
ので、同じレベルで持論を展開できもしないのにとりあえずオマージュということにさせてい
ただこう)。
米国での刊行が1979年、和訳の初版が1985年となるこの本はWikipediaによると一般向けの
科学書であり、論理学者のクルト・ゲーデル、画家のマウリッツ・エッシャー、作曲家のヨハ
ン・ゼバスティアン・バッハの生涯や作品における共通のテーマを探索することで、数学・対
称性・知能の基本概念を詳しく説明する書籍、とされている。本来であれば、この本の内容を
もとにBIMや建物データの役割論を展開したいところだが、正直筆者はまだこの本を理解でき
ているとは言い難い状態なので、今回はご容赦頂こうと思う。
 
いまだに内容を正しく理解できている自信はないのだがこの本との出会いはよく覚えている
ネットで検索すれば何でも見つかる時代ではなかった当時、学生だった筆者は週に1〜2回、
池袋の五番街というレコード店でイギリスやヨーロッパ諸国のプログレッシブロック・環境音
楽・実験音楽といった輸入盤の掘り出し物がないかをチェックしてから隣にある旭屋書店で買
うともなしに本を見て回っていた。分野は思い出せないが、立ち寄る頻度が高かった建築書か
幻想文学の近くの人気のない本棚にひっそりと置かれていた「ゲーデル、エッシャー、バッ
ハ……」に気がついたのはそんな時だった。馴染みのある作品を残した3偉人の名前を列挙し
たタイトルがまず目に止まったということを記憶している。ただ、厚さ4cm(2段組で
765ページ!)、当時で4,800円の書籍はすぐに手が出るものでもなかった(その頃LPレコー
ドは国内盤が2,500円、イギリス盤が3,300円くらいだった)。
その後もしばらくは同じような生活をしていたがその度にこの本は(同じ本なのか売れて補
充されていたのかはわからないが)同じ場所に置かれていた。ある時ふとこの本に手を伸ばし
てパラパラとめくってみたところ、情報処理や人工知能について言及されている箇所に目が止
まった当時は第2次AIブームで、知識ベースによるエキスパートシステム構築が建築分野で
も注目されておりその辺りに目が留まったことと、たまたまその時欲しいレコードや本が見
つからなかった上に懐に多少の残金があったことから、半ば気紛れでこの本を所有することと
なった。改めて奥付を見ると、「一九八五年五月十五日 第一版第一刷発行 一九八六年十二月
十日 第一版第十七刷発行」と書かれているので、筆者が入手したのはおそらく1987年という
ことになる発行部数は寡聞にして知らないがこの時点で17刷となっていることからそれな
りの部数が出ているのだろう。
 
アキレスと亀の会話による概略的な解説で始まる各章の内容は簡単なものではないがどれも興
味深く、ものの理(ことわり)や仕組み(システム)を論理、美術、音楽を例に様々に異なる
視点から見る本、と捉えることができる。今回を機に、久しぶりに本棚から出してきたこの本
を改めて時間をかけて楽しみながら自分なりの理解ができることを目標に再読してみようと
思っている。
 
建物ライフサイクル全体でBIMモデルやBIMの方法論を活用する、というのがBIMの到達点の
一つだが現時点では竣工後の建物運営フェーズでのBIM活用は道半ばという感がある。今後
は建物の運営管理にBIMをはじめとする建物デタの活用が必須となるということはすでに共
通認識となっているが建物オーナーやファシリティマネジャー(FMer)の誰もがFMへのBIM
の活用に絶大な関心を寄せるような劇的な導入効果の具体例はあまり知られていない。
FMをJFMA(公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会)が定義する「企業・団体等が
保有又は使用する全施設資産及びそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に
企画、管理、活用する経営活動」と捉えると、同じ建物であっても、経営方針や事業方針で実
践されるFMのメニュやゴルは変わることとなる。ファシリティを経営資源の一つとして捉
える場合、建物の何が経営や事業へのインパクトとなるかに着目する必要がある。「建物の使
い勝手の良し悪し」という定性的・抽象的な評価をする場合、建てる側は主として建物に求め
られる性能を満たし、それが継続的に保持されているか、という点を主な評価点とするが、建
物を所有し使う側は性能が確保されることを前提とした上で、運営方針や価値観に適合した建
物の状態か、そのための管理が適切に実施されているか、コストとベネフィットの関係は適切
か、という点をより重視する。事業やビジネスのツールとしての建物のあり方に踏み込んで必
要な建物データの内容と運用手順を決めていくことは決して簡単なことではないが、ここに
BIMとFMを連携させることによる、今後の建物運用フェーズでのBIM活用の拡大の鍵があると
考える。
 
現時点での建物運用フェーズでのBIM導入は、点検、クレーム対応、修繕といった維持管理を
主な対象としている。建物の物理的な性能を保持し、当初設定された機能が確保されることは
もちろん重要ではあるがそれだけでは建物オーナーやFMerがそこにBIMという新たなコスト
をかけるだけの付加価値を見出すのは難しい、というのが実際のところではないだろうか。
建物のライフサイクルコストやランニングコストは低ければよく高ければ悪い、というもので
もないその建物を運営利用していく際、建物オーナーやFMerの価値観に合致しているかが
重要となるFMの視点から良い建物をどのように捉えるかそのためにどのような建物データ
が必要となるか、を建物情報のモデリングに結び付ける必要があるだろう。
 
事業のツールとしての建物を評価する上で手掛かりとなるのは、エネルギーマネジメントや
ウェルネスといった事業の優位性向上や建物ユーザーに対する快適性や居心地に影響する場の
整備、災害時の事業継続性を確保するレジリエンスやBCPへの貢献といったものではないだろ
うかさらに事業の価値向上や拡大に寄与する建物のあり方と運営といたFMの視点の幅をど
こまで広げることができるか、BIM-FMの環に組み込むことができるか、それらを建物ライフ
サイクルマネジメントのメニューにすることが将来の建物運営フェーズでのBIM活用の成否を
決めると思っている全てを理解することは簡単ではないが、建物を見る視点は思いの外多い、
ということを理解することは重要だろう。同時に、ともすると建物オーナーからは自分達には
直接関係がないと思われがちな維持管理についても、点検・修繕のオペレーションに留まらな
い建物運営方針の判断に資する建物状況の見える化をダッシュボドのようなUIによって実現
する工夫が求められると考える。

 ダグラス・R・ホフスタッター著 野崎昭弘 はやし・はじめ 柳瀬尚紀訳
 「ゲーデル、エッシャー、バッハ あるいは不思議の環」 白揚社 1985.5
 久しぶりに本棚から引っ張り出してきてぱらぱらとページをめくってみた。時間を経て多少理解
 力も上がり、見えるものや感じることも変わってきているような気がする。良い機会なので改め
 て熟読してみようと思っている。

 ダグラス・R・ホフスタッター著 野崎昭弘 はやし・はじめ 柳瀬尚紀訳
 「ゲーデル、エッシャー、バッハ あるいは不思議の環」 白揚社 1985.5
 久しぶりに本棚から引っ張り出してきてぱらぱらとページをめくってみた。時間を経て多少理解
 力も上がり、見えるものや感じることも変わってきているような気がする。良い機会なので改め
 て熟読してみようと思っている。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 エンジニアリング部門  設計情報管理センター